僕らのイヴェンター見聞録

隠井迅

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LV1.2 パンデミック下のヲタ活模様

第15イヴェ パンデミック下における大学の状況

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「パパパ、パッパッパァァァ」
 某人気RPGゲームにおけるレヴェル・アップ音が部屋中に鳴り響いた。
 それは、秋人のスマートフォンの着信メロディーで、秋人は、電話に出るために、弟・冬人に向かって繰り広げていた〈イヴェンター〉論をいったん中止した。

 秋人に電話を掛けてきたのは、同じゼミに所属している大学の友人であった。
 二〇二〇年の前半、世界中で流行した感染症のパンデミックの影響下、いわゆる〈三密〉、密閉、密集、密接の三つが、感染症拡大防止の対策として避けるべき三つの要素とされた。
 そして遂に、四月上旬に政府から緊急事態宣言が発令された。

 大学は基本的に三密空間である。
 したがって、政府からの発令を受けた大学は、構内への学生・教職員の入構禁止の決断を下した。それに伴い、しばらくの間、図書館も閉館になる。
 その友人は、秋人が大学からの連絡メールを見たかどうかを心配して連絡してきたのであった。
 秋人は、SNSその他を駆使して、常にアンテナを張り巡らせ、〈おし活〉関連の情報は、逃さずキャッチしようと努めるくせに、それ以外の事柄に関しては、割と無頓着な所がある。
 そもそも、ヲタ友とのやり取りも、基本的にはLINEやツイッターなので、メールのチェックも、せいぜい一日に一回、場合によっては、数日放置することも稀ではないのだ。
 そういった秋人の性格を把握している友人が、心配して電話を掛けてきた次第なのである。

 大学の対応を、メールでチェックした後に、秋人は、ウェブ「掲示板」でゼミの担当教員からの連絡も確認した。
 こういった事態になる以前から、大学側は状況を鑑み、かなり早い段階において、七月末までの春学期の講義全てを、教室での対面ではなく、〈オンライン〉で展開する、という決定を下していた。

 オンライン講義には、ウェブで提示された課題の提出、あるいは、録画した講義を視聴するオンデマンド講義、またあるいは、本来講義が行われるはずの同じ時間帯に配信するライヴ講義などがある。
 録画であれライヴであれ、配信講義に関しては、講師側、受講生側の両方にとって、設備などの準備が必要になるため、配信講義は五月の連休明けから開始する事になり、四月に関しては、不足した講義数の代替措置として、レポートを提出する事になっていた。

 秋人が所属する『比較文化論』ゼミにおける、四月のレポートの題目は、「〈パラダイム・シフト〉に関して具体例を用いながら述べよ」という実にシンプルなものであった。
 さらに、ゼミの掲示板には、PDFファイルが添付されており、そこには、用語が分からない受講生向けに、「パラダイム」の意味の説明と具体例が書かれていたのである。
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