転生した公爵令嬢は絵本と共に元の世界に戻りたい

荒瀬夕樹

文字の大きさ
5 / 5
序章

0-5

しおりを挟む
「さあ、楽しいお茶の時間よ。リディ、ミルクと砂糖はどれくらいかしら?」

場所を公爵家の庭園に移し、叔母様と私はティーセットとお菓子が並んだ席に座った。辺りは色とりどりの薔薇が咲いておりいつ見ても綺麗で心地良い空間だ。

ミルクは半分くらいで、砂糖を2つ下さいと伝えるとすかさずターニャが用意してくれた。本当は好みを知り尽くしているターニャだが、今日は私がお茶会に呼ばれた体で進んでいるので、指示された後に準備したのだ。

「そうそう、ティースプーンはカップの奥に置いてね。その方が飲むときに邪魔にならないわ。」

時々、作法を教えてくれるがテーブルマナーはお母様から毎日教わっていたのでなんとかなるだろう。満足気に頷いている叔母様を見てもなんとかなっている筈。

「リディももう明日で7歳になるのね。明日は他の家門だけではなく、第二王子殿下もいらっしゃることは聞いているかしら?」

「はい、他にも同じ年頃の子達が来ると聞いています。」

「そうね、リディと同じ年頃というと………第二王子殿下はもちろん、ランティウス公爵家、ダラス侯爵家、ラスター侯爵家、あとはリエンディスク伯爵家ね。全員御子息だからよりどりみどりよ!」

指折り数えながら来客予定の家門を言う叔母様はとても楽しそうだ。私は予想が的中してしまったせいで紅茶の味がいつもより薄く感じる。やはりゲームの攻略対象が明日、この庭園に揃ってしまう。ターニャに砂糖をもう一つ頼もう。

そして、殿下と公爵家は簡単に選べないのでは無いか、と今なら感じ取れるが叔母様はよりどりみどりと言った。もう既に婚約者探しを始めたいのだろう。叔母様なら誰を選んでも婚約できるよう根回ししそうだ。なにか話を切り替えなくては。

「叔母様………女の子はいないのでしょうか?私、女の子の友達も居なくて………」

「ああ、ごめんなさい。リエンディスク伯爵家には息女もいたわ。確か、リディの一つ年下よ。あの家はほとんど領地で育ているようだから明日来られるかは分からないけど。」

叔母様が慌てて教えてくれたことに一瞬の光を見た。できれば、攻略対象よりその子と仲良くなりたいのだけど明日来てくれるのだろうか。

あともう一つ気になる事が。

「そういえば、第一王子殿下は………」

こうなったら全員との距離感を聞いてしまおうと思ったが、叔母様の空気がもう一段階、熱気を帯びた気がしてすぐさま後悔した。叔母様、そんなに目を輝かさないで。違う、大きくなったらお姫様に!とか子供ながらの野望なんて全くないから。

「あらあらあら、リディ。第一王子殿下が気になるの?流石はハウルムト家に生まれただけあるわ。でも残念ね………第一王子殿下は長い間、他国に留学中なのよ。」

なるほど、だから第二王子だけなのか。他にもそれぞれの家の関係性だとか聞きたかったけどそこまで踏み込んで聞くにはまだ幼すぎる。それに、家に呼ぶくらいだから親しくしている家同士なのだろう。

叔母様は、それでも第一王子殿下に近付く手段がないのよね、と小さく漏らすとしばらく思案し始めた。叔母様に聞いたのは軽率だった。この人は本気で策を練るかもしれない。

「………まあ、ここだけの話だけどね。第二王子殿下と仲良くなった方が今後貴女のためになると思うわ。」

なにやら含みのありそう、というのは直感だが、叔母様の真意はまだ私にはわからない。そうなのですか、と素直に言葉を返すしかなかった。

叔母様とのお茶会は長いようで短く感じた。明日のパーティーも楽しみにしてるわね、と叔母様に告げられながら別れ、自室に戻る。今になってようやく気付くが、いろんな汗をかいていたようでどうも着心地が悪い。そんな時、ターニャからいつもより少し早めの湯浴みを勧められ、心を読み取られてしまったと目が点になる。

「本日は天気が良かったですから。暑さを感じるのも仕方ありません。」

「ターニャ完璧か」

心の中の声が外に出てしまったけど、仕方がない。完璧以外言いようがないんだもの。15.6歳位の完璧な侍女を見て、私も見習えることが多いと改めてそう思った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...