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1話 出会い

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えなり君とはさちこがマッチングアプリをし始めて3人目に会った男である。

バツイチ、独身、44歳、小学生の一人息子は元嫁と遠方で暮らしている。
外資系企業のコンサル、年収1500万円以上
3LDKマンションに一人暮らし

アプリでのプロフィールには
少なめの年収800万円~1000万円を選択していたが、
さちこにはそれで十分であったし、写真といい、
自己紹介文も簡潔で申し分なかった。

事実、彼は女性からの「いいね」の数が異常に多かった。

さちこはまだアプリを始めたばかりで、
アプリのシステムのAIが勝手に推薦してきた男性を
本人からいいねを押してきたものと勘違いして、
いいね返しをしたつもりだった。

しかし、えなり君は一度も自分から女性にいいねを押したことがなく、
彼からするとさちこからアピールしてきたと思い込んでいたようである。

いずれにしても、
さちこはマッチングしても自分からメッセージを送らないので、
彼からファーストメッセージが来るのを待った。

メッセージが来ればさちこの持ち前のコミュニケーション能力が功を奏し、
彼はまんまとさちこにハマり、
メッセージのやり取りが頻繁に続くようになった。

彼は仕事を終えて寝る前にほぼ毎晩メッセージを送ってくるようになった。
さちこは毎晩トレードしていたので、ニューヨーク市場が開いてから、
ひと段落した夜中に暇つぶしがてら彼の相手をしていた。

彼はメッセージを打つスピードがものすごく速く、
電話で話すかのように会話が弾んだ。

酒に酔っているときはわかりやすく、
とうとう「電話したい。」と言い出した。

さちこはどのタイミングで既婚者であると告げるかを考えていた。
とりあえず「相場から目が離せないから今電話は無理。」と断った。
彼はその場は了承してくれ、その後もメッセージは続いた。

やがて、食事に誘われたので、
「既婚だけど、それでも良ければ。」と返事した。
彼は大変驚いていたが、「友達としてだから問題ない。」と返信してきたので、
ライン交換することになった。

そしてラインでのやり取りが毎晩続いた。


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