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18話 セカンドチャンス

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二人は対面すると前回と同じように階段を上って 
地上に出てタクシーに乗った。 
 
彼が行き先を告げて運転手が発車しようとした矢先、 
急ブレーキを踏んでパンっと大きな音がした。 
 
彼はさちこに擦り寄り手を伸ばしてきたところで 
さっと手を引っ込め大層驚いた様子だった。 
 
「何何何???事故ったの?ぶつかったの?」 
「いや、ブレーキです。すみません。」 
「ブレーキ?ブレーキでそんな音するの? 
何かにぶつかったんじゃないの?」 
 
彼が運転手を責め立てるように捲し立てた。 
 
「いや、ブレーキです。 
今前に出ようとしたら急に前に車が入ってきたので。」 
 
捲し立てられたことに 
不機嫌さを露わに運転手が説明した。 
一部始終を見ていたさちこは張り詰めた空気を 
和ませようとタクシー運転手の説明を解説した。 
 
彼は明らかに様子がおかしかった。 
 
前回彼と風呂に入った際、 
上半身に残っている大きな手術跡は 
事故のせいだと話していたことが 
すぐに頭によぎった。 
 
(彼はフラッシュバックを起こしているに違いない。 
こういう場合どう対処したらいいのだろうか。) 
 
さちこはとにかく彼を安心させようと 
彼の手を握りながら 
運転手の説明をゆっくり繰り返し彼に伝えた。 
 
彼は少し冷静さを取り戻した。 
 
「びっくりした~。 
ブレーキであんな音聞くの初めてだったから。」 
「そうでしたか。」 
 
運転手は苦笑いしていた。 
 
前回と同じホテルの前で車を降りた。 
彼はホテルの前のコンビニに入り 
ATMで現金を引き出していた。 
 
ホテルのフロントに着くと彼は言った。 
 
「予約してないんですけど空いてますか?」 
「今空いているのは 
デラックスとスイートタイプになりますが。」 
「禁煙の方でお願いします。」 
「禁煙室は只今満室でございまして。」 
「じゃあスイートで。」 
 
(え~喫煙ルームなの?最悪。) 
 
彼がお会計をしている間、 
さちこはフリードリンクコーナーで 
ジュースをコップに注いでいた。 
 
彼がさちこの方に来た。 
 
「検温してなかったみたい。」 
「あー、そっか。ごめんなさい。」 
 
さちこは受付横の検温機に顔を向けて 
体温を表示させた。 
 
エレベーターに乗り、部屋に入った。 
 
部屋は前回より狭く、薄暗く、 
やはり少しタバコ臭かった。 
 
さちこのモチベーションは上がる筈もなく、 
ソファに座った。 
 
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