赤い太陽

杉 薫田

文字の大きさ
7 / 12
第5章

午後12時5分 東京都内世田谷区

しおりを挟む
「なんなんだ この渋滞は?」

 関東電力の世田谷営業所所長の倉橋直行は 午後1時からの支店会議に出席するため、部下の佐武真治に営業車を運転させて 新宿支店に向かっていた。

 首都高速4号新宿線で下高井戸の営業所から新宿支店までは 30分程度の時間を考えていれば十分間に合うはずだった・・・。
 ちょっと早めに新宿に出て 佐武のお勧めの人気のラーメン店で食事をとろうと話しながら 11時30分に営業所をでて 10分ほど下道を走って永福の入り口から首都高速道路に乗ったのだが、西新宿のジャンクションを前に次第に車の渋滞が始まり、新宿初台の降り口まであと少しの場所で首都高速道路は全く動かない渋滞の中に停まってしまった。

「おいどうなっているんだ? 初台の出口まではあと1kmもないだろう?」
「どうしてこんな場所で渋滞しているんだ? もう10分以上ほとんど動いていないぞ・・・」
 助手席の倉橋は 運転している佐武に愚痴をこぼした。

「倉橋所長、まあ 焦らなくても そのうち着きますよ。初台を出たら新宿支店までは5分もかからないですから。」
 佐武は 倉橋のいらだったち気持をなだめるかのように落ち着かせた。
「交通情報は受信できないか?」
 佐武はFMのラジオモードにしていたカーナビを交通情報ラジオを受信する1620ヘルツの交通チャンネル周波数に合わせた。

『道路交通情報センター 新宿からお伝えします。』
『現在 都内の首都高速道路は全面的に渋滞しています。首都高速4号線では、霞が関の首都高速都心環状線合流点まで全線で渋滞し 西新宿ジャンクションから霞が関までの所要時間につきましてはおおむね1時間を要するものと思われます。また、都内の一般道でも多くの場所で交通渋滞が発生しており、各所で事故も発生していますので、その事故処理の対応の為 渋滞の解消の目処は立っていません。』
 交通情報のラジオ放送では高速道路から一般道まで大規模な渋滞が発生している様子が伝えられていた。

「こりゃ まだまだ時間がかかりそうだな。佐武君 カーナビのVICSの渋滞情報はどうなんだ? 」
 倉橋の言葉を聞いて 佐武はカーナビをラジオモードから地図モードに切り替えた。

「あれ、カーナビの表示が変ですよ。現在地点が変な場所を指していますよ?」
「ここは東京駅じゃないのに、車の現在位置は八重洲口あたりを走っていることになっています。」

 佐武は カーナビの設定を現在地表示設定ボタンを何度か押してみたが、カーナビに示される場所は東京駅周辺を現在地として認識しているようで、新宿の初台IC近くにいることは認識しなかった。 佐武はナビの画面を直接タッチしてスクローズし、新宿の地図に移動してみた。 しかし、やはりナビに示されたVICSの情報も首都高速道路は全面的な渋滞で、表示は赤のラインで真っ赤に示されていた。到着予測時間も見当もつかない状況の中で、自車の位置を東京駅周辺と認識しているナビでは目的地の新宿までの時間を割り出すこともできなかった。

「なんか カーナビが狂ってしまっておかしいですね? それともGPSの受信ができなくなっているのかなあ・・・」
 佐武がつぶやいた。

「もう12時を過ぎてしまったか、この調子だと昼飯で君がイチ押しのラーメンを食べに行くのは無理みたいだな。」
 倉橋は佐武に残念そうな表情で語り掛けた。車が初台の高速出口を出たのは12時40分にもなっていた。世田谷の支店を出て新宿まで1時間以上も時間がかかったのは初めての経験だった。

 初台のICから下りた西新宿の高層ビル街の周辺は思ったほどの渋滞ではなかったが、関東電力の新宿支店のある青梅街道界隈はまったく車が動いていない混み具合を見せていた。

「佐武君、近くのパーキングに車を止めて 支店まで歩くことにするか、10分も歩けば到着できるだろう。」
 倉橋は道路の渋滞を見て徒歩で新宿支店に移動することを部下の佐武に提案した。

「そうですね歩きましょう。その方が早く支店に到着できると思います。」
 佐武は青梅街道の手前にある高層ビルの地下駐車場に車を停める為にハンドルを切った。

 人気のラーメン店から コンビニでのペットボトルのお茶とサンドウィッチとおにぎりに変更し、口にほう張りながらし 食べ歩きで関東電力の新宿支店を目指すことにした。

 結局、新宿支店に入れたのは会議の始まる午後1時を5分ほど過ぎた時間になっていた。他の営業所から集まってくる担当者たちも到着に時間がかかっている様子で、50人ほどが入れる円形テーブルの会議室には10人ほどの社員がいただけで、午後1時からの会議開始が予定通り開かれそうな雰囲気は全くなかった。この日の関東電力の会議は、東京から北部に位置する三多摩地区や東京都内の北区や練馬区などの営業所以外にも 埼玉地区などの営業所からも担当者が集まることとなっていて、多くの担当者が営業車を使ってくることが予想されたため、この渋滞の中で新宿までたどり着けない状況に置かれていることが考えられたのだった。会議担当の事務の女性職員が会議室にやってきて会議の開始が遅れそうだとの説明をしたが、その様子では各営業所の担当達とのスマホでの電話連絡そのものもかなり込み合っている様子で、つながりが難しいらしく、通信状況もかなり混乱しているような様子を見る事ができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...