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試験(第32話)
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受験当日。
緊張感がありながらも、県内最大の大学へ向かった。
受験生たちでごった返していた大学講内。いるはずのない、鳴沢の姿を探した。
東京にいるはずの鳴沢が、こんな場所にいるわけない。分かっていたけど、鳴沢に会いたかった。受験が終わっても少しだけ大学に残り、鳴沢の姿を探した。
どれだけ探しても、鳴沢の姿はなかった。
わかりきっていたことだ。
だって、鳴沢は、東京にいるのだから。
帰りの列車の中は、制服を着た受験生でいっぱいだった。
私の住んでいる地域はど田舎だけあり、受験生の影も次第に減っていき、気づけば私は一人になっていた。
車窓の外も暗闇で覆われていて、窓ガラスが、鏡のように反射していた。
聞こえてくる音は、列車の走行音だけ。
寂しさが胸の中を蝕んでいた。
鳴沢、配信してないかな。
ふと思って、スマホを開く。鳴沢のラジオはオフラインになっていた。代わりに、鳴沢が動画配信を始めたことが書かれていて、サイトに誘導できるようにURLも貼り付けられていた。
興味本位でサイトを開く。
そこには、鳴沢の曲がMVとして載せられていた。
配信とは違って、レコーディングされた丁寧な声。雑音も少なく、透き通って、頭の中にスッと入ってくる。
聞きやすさはあった。だけど、何か物足りなかった。
声が綺麗になり過ぎて、鳴沢の声なのかどうか曖昧に聞こえたせいだと思った。
でも、悪くはなかった。
鳴沢の歌が、いつでも聴けるのは、私にとってはプラスだ。
心強い。まるで鳴沢がそばにいてくれているように。
MVもプロが作ったのか、一枚のイラストに歌詞が載っているものだったが、心が揺さぶられる綺麗なタッチに少し幻想的な淡い色合いが、鳴沢の作った歌とマッチしてまるで世界が動いているかのように見えた。
詰まるところ、感動した。
この列車の中に私一人でよかった。
誰かに泣き顔を見られるなんて、恥ずかしくて列車降りていたかもしれない。
運転士一人しかいないワンマン列車でよかった。
このサイトには、会員登録をすればコメントが書ける機能があった。
私は、すぐさま会員登録をし、メッセージを送った。
感動した。列車の中で一人泣いてしまった。
名前は、un kood。意味は特にない。鳴沢みたいに、名前を入れ替えただけだ。
気づいて欲しいとは思っていない。だけど、気づいてくれた、いいなとは思っている。
期待は持っていない。
こんな適当な名前で、気づいてくれるわけない。
鳴沢からの返信は早かった。
聴いてくださり、ありがとうございます![#「!」は縦中横]
まだまだ未熟者ですが、新しい歌はどんどん出していくので、これからも聴いてくれたら、嬉しいです!
丁寧な言葉で返してきたあたり、鳴沢は私が送ったってことに気づいていない。
私も知らなかった。
鳴沢が、丁寧な文章を書けるなんて。
鳴沢と出会った頃なんて、ひどい印象でしかなかった。鳴沢も成長しているんだ。私だって、鳴沢がいなくてもこっちで頑張っていかないと。
作詞ノートももう捨てよう。私には必要ない。
覚悟を決めたはずだったのに、頬には涙が伝っていた。
悲しくなんてない。鳴沢との日々だって、忘れるつもりはない。ただ、一つの区切りとして、この日々を終わらせるだけなのに。
どうしても捨てられないものは、誰にでも存在する。
詰まるところ、私にとって捨てられないものとは、鳴沢との日々だ。
楽しかった。役に立たないと思っていた私の詩が鳴沢の役に立って、鳴沢が私を褒めてくれる、その嬉しさ忘れられない。
もう一度鳴沢に褒めてもらいたい。
私は、歌詞ノートに書いた歌詞を、曖昧ながら思い出し、鳴沢に送った。
鳴沢がこの歌詞を使わなくたっていい。参考にしてくれてもいい。鳴沢に、私のことを忘れないでほしい。
鳴沢からの反応はなかった。
別のサイトでは、すぐに返信が帰ってきたというのに。
鳴沢はきっと、もう私なんて必要にしない。私のことなんて、忘れてしまっているんだ。
これも一つの区切りだろう。
鳴沢は、もう私の手の届かない所まで行ってしまった。
そう思うと、悲しくなかった。
これは、自然の摂理だ。当然のことだ。鳴沢の音楽には、私が入る余地なんて、初めからなかった。私という足枷が無くなって、鳴沢も、自由にのびのびと音楽が書けて、鳴沢もさぞ楽しいだろう。
メッセージ画面を見ながら、頭の中では鳴沢への僻みが止まらなかった。
だめだ。
どうしてそんなことばかり考えるのだろう。鳴沢を責めたくなんてないのに。
終点についた。
最後まで列車の中には、私一人だった。
駅から出ると、母親の姿があった。
「お疲れ様。今日はどうだった?」
「うん……まあまあかな」
「そっか。明日もあるのだから、今日はゆっくり休みなさい」
「ありがとう」
終点からさらに車で40分。
私は疲れ果てて眠っていた。気がつけば、家に帰っていた。
「ごめん。寝てた」
「いいのよ。一日中、テストしてたんだから疲れているのは当然でしょ。ご飯はもうできているから、さっさと食べてお風呂入って寝なさい」
「わかった」
晩御飯を食べて、風呂に入って、部屋でベッドに横になった。
スマホを見る余地はなかった。
見たくないのもあった。
勉強のためではない。私の心のためだ。
鳴沢からの返信が来ない。その気持ちを少しでも感じないためだ。
明日も試験なのに、勉強する気にもなれなかった。
スマホで目覚ましだけ掛けて、私は眠りについた。
♢♢♢
朝。遅刻したわけではないけど、バタバタとしていた。
持っていくものの確認。
受験票、筆記用具、お昼ご飯。飲み物、腕時計、受験対策ノート。
全てが入っていることを3回確認して、母親に駅まで送ってもらった。
「玲那。頑張ってね」
「うん。ありがとう」
駅では、莉里にも会った。
「おはよう」
「おはよう。莉里」
「玲那は昨日どうだった?」
「……まあまあかな」
「そっか……」
「莉里は?」
「私も。でも、大丈夫な気はしている。玲那がいっぱい教えてくれたから、受かると思っている」
「嬉しいこと言ってくれるね」
「本当の話。最後まで頑張ろう」
「うん」
私は、莉里より先に列車から降りる。大学は同じ名前でも、目指している学部が違うからだ。
心の中で思った。
莉里頑張って。
緊張感がありながらも、県内最大の大学へ向かった。
受験生たちでごった返していた大学講内。いるはずのない、鳴沢の姿を探した。
東京にいるはずの鳴沢が、こんな場所にいるわけない。分かっていたけど、鳴沢に会いたかった。受験が終わっても少しだけ大学に残り、鳴沢の姿を探した。
どれだけ探しても、鳴沢の姿はなかった。
わかりきっていたことだ。
だって、鳴沢は、東京にいるのだから。
帰りの列車の中は、制服を着た受験生でいっぱいだった。
私の住んでいる地域はど田舎だけあり、受験生の影も次第に減っていき、気づけば私は一人になっていた。
車窓の外も暗闇で覆われていて、窓ガラスが、鏡のように反射していた。
聞こえてくる音は、列車の走行音だけ。
寂しさが胸の中を蝕んでいた。
鳴沢、配信してないかな。
ふと思って、スマホを開く。鳴沢のラジオはオフラインになっていた。代わりに、鳴沢が動画配信を始めたことが書かれていて、サイトに誘導できるようにURLも貼り付けられていた。
興味本位でサイトを開く。
そこには、鳴沢の曲がMVとして載せられていた。
配信とは違って、レコーディングされた丁寧な声。雑音も少なく、透き通って、頭の中にスッと入ってくる。
聞きやすさはあった。だけど、何か物足りなかった。
声が綺麗になり過ぎて、鳴沢の声なのかどうか曖昧に聞こえたせいだと思った。
でも、悪くはなかった。
鳴沢の歌が、いつでも聴けるのは、私にとってはプラスだ。
心強い。まるで鳴沢がそばにいてくれているように。
MVもプロが作ったのか、一枚のイラストに歌詞が載っているものだったが、心が揺さぶられる綺麗なタッチに少し幻想的な淡い色合いが、鳴沢の作った歌とマッチしてまるで世界が動いているかのように見えた。
詰まるところ、感動した。
この列車の中に私一人でよかった。
誰かに泣き顔を見られるなんて、恥ずかしくて列車降りていたかもしれない。
運転士一人しかいないワンマン列車でよかった。
このサイトには、会員登録をすればコメントが書ける機能があった。
私は、すぐさま会員登録をし、メッセージを送った。
感動した。列車の中で一人泣いてしまった。
名前は、un kood。意味は特にない。鳴沢みたいに、名前を入れ替えただけだ。
気づいて欲しいとは思っていない。だけど、気づいてくれた、いいなとは思っている。
期待は持っていない。
こんな適当な名前で、気づいてくれるわけない。
鳴沢からの返信は早かった。
聴いてくださり、ありがとうございます![#「!」は縦中横]
まだまだ未熟者ですが、新しい歌はどんどん出していくので、これからも聴いてくれたら、嬉しいです!
丁寧な言葉で返してきたあたり、鳴沢は私が送ったってことに気づいていない。
私も知らなかった。
鳴沢が、丁寧な文章を書けるなんて。
鳴沢と出会った頃なんて、ひどい印象でしかなかった。鳴沢も成長しているんだ。私だって、鳴沢がいなくてもこっちで頑張っていかないと。
作詞ノートももう捨てよう。私には必要ない。
覚悟を決めたはずだったのに、頬には涙が伝っていた。
悲しくなんてない。鳴沢との日々だって、忘れるつもりはない。ただ、一つの区切りとして、この日々を終わらせるだけなのに。
どうしても捨てられないものは、誰にでも存在する。
詰まるところ、私にとって捨てられないものとは、鳴沢との日々だ。
楽しかった。役に立たないと思っていた私の詩が鳴沢の役に立って、鳴沢が私を褒めてくれる、その嬉しさ忘れられない。
もう一度鳴沢に褒めてもらいたい。
私は、歌詞ノートに書いた歌詞を、曖昧ながら思い出し、鳴沢に送った。
鳴沢がこの歌詞を使わなくたっていい。参考にしてくれてもいい。鳴沢に、私のことを忘れないでほしい。
鳴沢からの反応はなかった。
別のサイトでは、すぐに返信が帰ってきたというのに。
鳴沢はきっと、もう私なんて必要にしない。私のことなんて、忘れてしまっているんだ。
これも一つの区切りだろう。
鳴沢は、もう私の手の届かない所まで行ってしまった。
そう思うと、悲しくなかった。
これは、自然の摂理だ。当然のことだ。鳴沢の音楽には、私が入る余地なんて、初めからなかった。私という足枷が無くなって、鳴沢も、自由にのびのびと音楽が書けて、鳴沢もさぞ楽しいだろう。
メッセージ画面を見ながら、頭の中では鳴沢への僻みが止まらなかった。
だめだ。
どうしてそんなことばかり考えるのだろう。鳴沢を責めたくなんてないのに。
終点についた。
最後まで列車の中には、私一人だった。
駅から出ると、母親の姿があった。
「お疲れ様。今日はどうだった?」
「うん……まあまあかな」
「そっか。明日もあるのだから、今日はゆっくり休みなさい」
「ありがとう」
終点からさらに車で40分。
私は疲れ果てて眠っていた。気がつけば、家に帰っていた。
「ごめん。寝てた」
「いいのよ。一日中、テストしてたんだから疲れているのは当然でしょ。ご飯はもうできているから、さっさと食べてお風呂入って寝なさい」
「わかった」
晩御飯を食べて、風呂に入って、部屋でベッドに横になった。
スマホを見る余地はなかった。
見たくないのもあった。
勉強のためではない。私の心のためだ。
鳴沢からの返信が来ない。その気持ちを少しでも感じないためだ。
明日も試験なのに、勉強する気にもなれなかった。
スマホで目覚ましだけ掛けて、私は眠りについた。
♢♢♢
朝。遅刻したわけではないけど、バタバタとしていた。
持っていくものの確認。
受験票、筆記用具、お昼ご飯。飲み物、腕時計、受験対策ノート。
全てが入っていることを3回確認して、母親に駅まで送ってもらった。
「玲那。頑張ってね」
「うん。ありがとう」
駅では、莉里にも会った。
「おはよう」
「おはよう。莉里」
「玲那は昨日どうだった?」
「……まあまあかな」
「そっか……」
「莉里は?」
「私も。でも、大丈夫な気はしている。玲那がいっぱい教えてくれたから、受かると思っている」
「嬉しいこと言ってくれるね」
「本当の話。最後まで頑張ろう」
「うん」
私は、莉里より先に列車から降りる。大学は同じ名前でも、目指している学部が違うからだ。
心の中で思った。
莉里頑張って。
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