君への想いに葛藤

倉木元貴

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1話

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 君からの連絡は、いつも突然だ。何の脈絡もなくある夏、僕は近くのカフェに誘われた。いや、誘われたのではない。(明後日の日曜日いつものカフェに集合)と、強制的に参加が決まっていた。君の誘いなら僕は勿論断らない。君もそれくらいは分かってる、だからそんなデリカシーのない文が打てるのだろう。
 君が僕をカフェに誘った理由は、だいたい分かっているけど、君と会えるのなら僕はどんな理由だったって構わない。たとえどんなにつまらないことでも、君が僕を頼ってくれるなら僕としては本望だ。ゴキブリが家に出たという内容なら、僕は飛んで駆けつける。だけど、僕だって苦手なものくらいある。カエルが家に入ったという連絡だけは、本心では受け付けたくない。それでも、君に泣きそうな声にイヤイヤではあるが駆けつけてしまう。おかげで僕はカエルを克服できそうだ。
 さて、時間潰しはこれくらいにして、君と待ち合わせをしているカフェにでも向かおうか。
 カフェの前に着くと、僕としては衝撃的なその光景に唖然とし、言葉を絞り出すのにカップラーメンだ出来上がるくらいの時間を要した。
 
「ど、どうしたの?」
 
「振られちゃった……」
 
 涙が混じったその声に、僕はまたしても言葉を失った。
 こんな状況下でカフェで食事を、なんて僕には到底できない。君を待たせるのは少し心苦しいけど、待ち合わせたカフェでサンドウィッチを二つとコーヒーを二つ、それと、おやつにパンケーキを一つ注文し、近くの公園へ移動した。今現在お昼時だということもあり、ベンチの空きは少なかった。太陽の光が燦々と降り注ぐ、ホットカーペットのように温まったベンチに腰掛けて、二人でサンドウィッチを食べた。公園に着いた頃には君の目からも涙は止まっていて、いつものように嬉しそうに食べていた。
 話を蒸し返すようで君には悪いけど、君を想う僕からすれば訊かずにはいられない。
 
「あのさ……話聞かせてよ……」
 
 嬉しそうにサンドウィッチを食べていた君は、その手を止めて空を見上げながら経緯を話した。
 
「あのね、前に好きな人がいるって言ったでしょ? 実はさっきその人に告白したんだ。結果は見ての通り見事に振られたんだ。こんな時に突然呼び出してごめんね。でも、話し聞いてくれるの健しかいなくて……」
 
 君が話しを終えてかららも僕が黙りを決めるから、気まずい空気がこの場に流れていた。
 言いたいことが思いつかなかったわけではない。言いたいことは無限と言えるほどある。そんな僕がなんで黙りを決めたのかと言うと、君をこんなにも泣かすその男に苛立ちが芽生えすぎて、冷静にものを言える自信がなかったからだ。
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