フェイタリズム

倉木元貴

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合同親睦会 24

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 信用はできないけど、如月さんがそう言うならいいんだよな。
 と考えながら、リュックサックからゴーグルを取り出して目元に付けている如月さんを見つめていた。如月さん曰く、草刈機を使っている近くは危険なので、ある程度草を刈ってから僕が回収をするとよいそうだ。
 如月さんは、草むらに初めから仕込んでいた草刈機を手に草を刈り始めた。
 まずは右の狛犬の辺りの草を刈り始めて、左に移行する前に僕に回収の合図を出した。
 如月さんが刈った草を集めながら、ふと如月さんってどこかのお嬢様なのかなと考えていたら、突然機会を止めた如月さんに話しかけられた。
 
「中田さん」
 
「は、はい……」
 
 突然のことで何故か敬語で返事をしていた。
 
「何で敬語ですか?」
 
「きゅ、急に呼ぶからつい……」
 
「まあ何だっていいですよ。それより、スマホの充電がないのでしたよね。私のモバイルバッテリーをお貸ししますので、それで充電してください」
 
 そう言って如月さんは、リュックサックの中から赤いモバイルバッテリーとスマホの充電器を取り出し、僕に手渡してくれた。
 
「ありがとう。助かるよ」
 
「そんなことくらい、いいですよ。中田さんは、モバイルバッテリーは持っているのですか?」
 
「家にはあるんだけど、ほとんど使っていないから持ってくるという発想に至らなかった」
 
「たくさん使うことは想定しなかったのですか?」
 
「ここまで減りが早いと思っていなかった」
 
「普段から室内でしか使わなければそうなりますよ。もっと外に出るべきですよ」
 
 如月さんは毎回嫌味の一つでも言わないと気が済まないのか。僕が外に出なくなった理由は知っているはずなのに。
 
「中田さん?」
 
「何?」
 
 流石にこの短時間で、また突然話しかけられても、もう敬語にはならない。
 見たか如月さん。僕だって成長はするんだ。
 この時の僕は、自信に満ち溢れた顔を浮かべていただろう。そんな自信を叩き壊すような質問を如月さんにされた。
 
「春の大三角を形成する星の名前と星座名前は言えますか?」
 
 草集めをしていて体を存分に動かしているというのに、僕は寒さを感じていた。
 
「そ、その……覚えようとは思ったよ。汽車の中じゃずっとそのことばかり脳内でリピートさせて、バスに乗った時までは覚えていたんだ……でも気がついたら頭から抜けていた」
 
 如月さんは深くため息を吐いた。
 
「やっぱりそんなことだと思いましたよ。そんな言い訳しなくても、別に責めたりはしませんよ」
 
「ご、ごめん……」
 
「何で謝るのですか?」
 
「何となく……」
 
 如月さんは、またため息を深く吐いた。
 
「さっき言った通り、私は責めるつもりなんてさらさらありません。でも、私が言い出したことなので、責任は取ります。私が口頭で言っていくのでそれで覚えてください」
 
「ありがとう。そうしてもらえると助かる」
 
 そんなわけで、如月さんによる春の大三角、春の大曲線に関する授業が始まった。
 
「まずは春の大三角からです。おとめ座、スピカ」
 
「おとめ座、スピカ」
 
「しし座、デネボラ」
 
「しし座、デネボラ」
 
「うしかい座、アークトゥルス」
 
「うしかい座、アークトゥルス」
 
「次は春の大曲線です。おおくま座、北斗七星」
 
「おおくま座、北斗七星」
 
「うしかい座、アークトゥルス」

「うしかい座、アークトゥルス」
 
「おとめ座、スピカ」

「おとめ座、スピカ」

「からす座……」
 
「からす座」
 
「覚えましたか。ではここで問題です。春の大三角の一つ、しし座の星の名前は何ですか?」
 
「えーっと、確か……デネブのような名前のやつ……何だっけ?」
 
「デネボラです。ではもう一問。春の大曲線は何座から何座までですか?」
 
「それは覚えた。おおくま座からからす座」
 
「正解です。この調子でどんどん正解していってください」
 
 こんな感じで、如月さんが問題を出しては僕が答え、何度も何度もランダムに問題を出していた。
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