フェイタリズム

倉木元貴

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合同親睦会 41

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「うーん……それは、約束できないかも。歌恋と一花と真咲には話すかもしれない」
 
「一番言っちゃいけない人が混ざっている」
 
「それは誰のことかな?」
 
 これだから深夜のテンションというものは。本当に恐ろしい。
 僕は完全に口を滑らせた。山河内も薄々感じているような言い方だから多分どんな手を使っても手遅れ。
 
「何でもない……聞かなかったことにして」
 
 山河内さんは突然立ち上がり、子犬のように芝生の地面を走り出した。
 僕も立ち上がってその微笑ましい様子を見つめていた。
 
「もう聞いちゃったから遅いよ!」
 
 この時間に相応しくない大声を山河内さんは発した。
 距離的に僕もあのくらいの声を出さないと届かないと思う。だが、僕は大きな声を出したりしない。動きたくはなかったけど、山河内さんの元へ向かう他なかった。
 
「山河内さん、今、夜中だから。みんな寝ているから静かにしないと……」
 
 山河内さんはまた走り出した。今度はさっきまで僕らが横になっていた場所まで。
 
「大丈夫! みんなぐっすり眠っているから!」
 
 僕はまた山河内さんを追いかける。
 
「如月さんが起きたら怒られるよ」
 
「大丈夫だよ。睡眠薬飲ませたから」
 
「え! な、何でそんなことしたの? 何のために?」
 
「冗談だよ。私、睡眠薬なんて持っていないし、そんなことしないよ」

 深夜のテンションはここでも力を発揮する。こんなあるわけない嘘を一瞬でも信じていた。
 
「もう、びっくりしたよ。みんなにも盛ったのかと思ったよ」
 
「中田君には、私がそんなことしそうに見えるの?」
 
「如月さんはともかく、山河内さんはそんなことしないって信じたい……」
 
「やっぱり歌恋だと思った」
 
「な、何が?」
 
「何が?」とは言ってみたが、大体何のことを言っているのはか分かった。
 もう僕は口を開かない方がいいかもしれない。
 
「さっきまで私たちが話してたこと。中田君が一番秘密を知られたくない人物」
 
「絶対に言わないでよ」
 
「多分!」
 
 山河内さんの解釈が「一番秘密を知られたくない人」で助かった。本当は面倒ごとが起きそうだったから、知られたくなかっただけなのに。これは山河内さんには言えない。このままの方が僕は助かる。
 
「ねえ、そろそろコテージに戻ろうか。朝も早いし少しでも横になっておかないと」
 
 そのままシンプルに、コテージに入ろうとする山河内さんを僕は止めた。
 
「そのままはまずいよ。せめて芝生は取らないと……」
 
 もし、芝生だらけの山河内さんを、寝起きの如月さんが見たらどんな反応を示すのか、興味はあるけど、事後のことを思えばここ止めておくのが最適。
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