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第1章
26話
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メチコさんには何て言い訳しよう。
太陽は天頂付近にいるからもう昼が近い。
初日から遅刻するなんて社会人失格だ。
はぁー。
気が付けば深い溜息を吐きながら噴水の淵に座っていた。
「おっ! 兄ちゃん、1人か? 昼飯まだならうちの店きな。いいものあるぞ!」
朝、いやもう昼か。よく元気なものだ。
だけど、確かに腹は減った。
もう遅刻しているなら、何時に行こうが変わらないだろう。
そんな罪悪感を背負いながら、トラマドールの店でお昼を食べることにした。
「いいものって何があるのだ?」
「ふふっ。見ろよこれ、“葡萄酒”だぞ! いいものだろう?」
トラマドールは昼間から酒を飲ませるつもりなのか?
それに、葡萄酒の価値がよく分からない。
元の世界では安いもので500円を切るワインもあった。
そんな訳で俺はトラマドールの誘いを断った。
「それよりも食べる物を何でもいいから作ってくれないか?」
トラマドールは少しだけ落ち込みながら、遅い足で厨房へと向かった。
そして15分くらい経ったところで元気も回復したのか、いつものトラマドールが手の倍くらいの大きさの皿を運んできた。
「兄ちゃん。へいお待ち! 当店の人気メニュー、“フルーツ盛り合わせパンケーキ”!」
見た目は色とりどりでとても綺麗で食欲をそそるが、おっさんが食べるには難易度が高い。
元の世界で1人これを食べていたら絶対に笑いものにされていた。
それでも俺はかぶりつくようにそれを食べた。
何故なら、俺の2つ隣のタコのようなおっさんが幸せそうに同じ物を食べていたからだ。
今日も一文なしの俺はトラマドールの善意で後払いにしてもらった。
そして、言い訳を考えながら小走りでメチコさんの店へと向かった。
お店の扉を開けると付いている鈴が小さく音を立てた。
「いらっしゃい。まぁ、そんなに息を切らしてどうしたんだい?」
割と普通の反応だった。だけど、息を切らすほど走ってきたわけではない。
単に自分の体力が運動不足で追いついていないだけだ。
走ったのは最初だけで、後半は歩いていたが、息を整えることはできなかった。
「遅れてすみません。今からでも大丈夫ですか?」
何を言われてもいいと、覚悟していたがメチコさんは優しかった。
「ラベ君から話は聞いているから大丈夫だよ。さぁ、奥で調合頼んだよ」
嬉し過ぎて言葉が出ず、軽くお辞儀だけ済ませて店の奥への部屋へと足を進ませた。
俺には薬は作れない。調合と言っても、昨日のようにポーションに薬を詰め込むだけだ。
元の世界ならこれは機械がしている仕事だ。
文明が発達すれば俺は確実に用無しなる。
技術革命起きてなくてよかった。
薬をポーションに詰め込みながら、村長との会話を何度も何度も整理した。
自分の知識と重ね合わせても当てはまる病気は不明だ。
考え事をしていると人間手先が疎かになる。
俺は知らないうちにポーションを2000個も作ってしまっていた。
「まぁ、こんなに作って!」
「ああ、すみません! 作り過ぎてしまいました。……すみません」
今日は短い時間に2度も失態を重ねるとは。
俺はやはり社会人という枠組みに当てはまる人間ではないのか。
「あんた凄いわね! いや~これだけあれば私も売るの頑張らなくちゃね!」
人の優しさと言うか、失敗を精一杯フォローしてくれる言葉に俺は珍しく涙した。
涙を流した俺にメチコさんは余計に心配してくれて、どうしようかとオドオドした行動を見ていると、本人には悪いけどなんだか面白くて気が付けば笑っていた。
「あんたね。いつもそうやって笑っていれば幸せって絶対に訪れるから。まずは笑うことから始めるのだよ!」
その言葉を残してメチコさんは店の方へと戻って行った。
俺も売る手伝いをせめてしようかと店の方へと行くが、メチコさんに止められた。
「あんた、これだけ作ったのだから疲れているだろ。今日はもう上がりな。また明日も宜しくね」
俺は言葉に甘えて今日はもう帰ることにした。
時は既に夕刻を迎えようとしていて、太陽の光がオレンジ色に道を照らしていた。
「今日はもう終わり? 帰りを待っている人がいないのなら今日も呑みに誘うのにな」
待ち伏せされているように出てきたのは勝瑞だ。
でも、ナイスタイミングだ。俺も勝瑞に訊きたいことがあったのだ。
「ここの村は“ワイン”が有名なのか?」
「まぁね。それ以外にも“いちご”や“パイナップル”と言ったフルーツは絶品でね。東の国まで運んだこともあるんだよ~」
絶品のフルーツがあるというのなら食べない訳にはいかないな。
だけど今は金を持ち合わせてないから我慢だな。
「ところで……、勝瑞はここで何しているのだ? 俺に何か用でもあるのか?」
強く吹いた風が遠い目をしていた勝瑞の声をかき消し、無理矢理笑った顔を見せた勝瑞は、早口でこう言った。
「ムーちゃんのご飯が食べたくてね。今日はご馳走になる予定なんだよ。だから、食材買うのを手伝ってもらおうと思ってね」
俺が何かを言うのを勝瑞は期待していたのかお互い何も言わない、どちらも動かない時間が過ぎていた。
そんな勝瑞は俺の手を取り、「行こう」そう言って走り出した。
「引っ張らなくても走れるって!」
「走ると風が気持ちいいでしょ! それに、早く帰らないと真っ暗になるからね!」
勝瑞は運動神経抜群だ。だから、運動音痴な俺には走るペースが速い。足が追いつかないのだが、勝瑞は止めることをしなかった。
2、3分程度しか走ってないが、勝瑞が足を止めた場所で俺は吐きそうなくらい息を切らしていた。
とてもじゃないが「今日は〇〇が食べたいからこれとこれを買おう」なんて言っている余裕なんて全くなかった。
「お待たせ! 今日は牛乳買ったからシチューを作って貰おう!」
昔ながらな透明の瓶にたっぷりと入った牛乳。
そのワードだけでも嘔気を催しそうなのだが、瓶の中でゆらゆらと揺れている牛乳は本当にダメだった。
牛乳と目を合わせないように、反対を向いて勝瑞とともに家路に着いた。
「相変わらず体力ないね」
ほっとけ、大きなお世話だ。
だけど、体力に関しては自分でも問題があると思っている。それでも今更体力をつけるのは年齢的に厳しそうだ。
運動するのはいいけれど、長期筋肉痛は回避不可能だろう。
考えれば考えるほど無理だと言うことが分かった。
「あ、おかえりなさい!」
ニコニコと笑った顔でムーは出迎えてくれた。
勝瑞は持っていた荷物をキッチンまで運び、茶色い紙袋からブロッコリーとじゃがいもと人参を取り出していた。
そしてシチューを作って欲しいと懇願していた。
ムーは突然のことに驚いて、懇願する勝瑞と頭の低いムーが頭を下げあっているカオスな光景が目の前には広がっていた。
結果としてムーはシチューを作ることには快諾していた。
だけど、勝瑞はまだまだそんなことを続けていた。
「ムー、ありがとうございます!」
「とんでもないです!」
これいつまで続けるのだ?
そんな風に思っていたけど、意外とすぐにことは終わった。
何故なら、ムーが単純にシチューを作り始めたからだ。
「いやー、作れないって言われたらどうしようかと思っていたけど、快諾してくれてよかったよ」
勝瑞は安堵の表情を浮かべているが、俺は容赦なく釘を打ちつけた。
「お前、夫としては最低だな」
だけど勝瑞は糠だったようで、効果は全くなかった。
「何が最低なのさ。“何がいい?”“何でもいい”よりかはマシだと思うけど?」
確かにそうだ。だけど俺が言いたいのはそうじゃない。
「お前も仕事していたのだろうが、ムーだって疲れているのだから作れるなら自分で作るべきじゃないのか?」
勝瑞も何も言えなくなっていたが、盛大なブーメランが俺の方に返ってきた。
「じゃあ、何でがっくんは何もしないのさ!」
それを言われてしまっては俺も返す言葉がない。
最終手段の言い訳は1つ。
「俺は料理を今の今まで一度もしたことがないのだ。俺に作れるものはない」
言い切ったのだが、勝瑞は白い目を向けていた。
「何をそんなに言い合っているのですか? シチューできましたよ!」
運ばれて来たシチューとパンを前に俺達はい言うことをやめた。
「2人で何を話していたのですか?」
ムーはすごく気になっていたようだけど、俺も勝瑞も言い合っていた内容は何一つ話さなかった。
ムーに言えば、また頭を下げだすだろうから。
3人で摂る食事は今までに経験したことがないくらいに楽しいもので、1人が1番いいと思っている俺の強がりも消えてなくなりそうになっていた。
「明後日は僕もがっくも仕事休みだから2人に料理を教えてくれない? 食材とかは僕ら2人で何とかするから!」
突然話し出したと思えば人の予定を勝手に。
まぁ、することないからいいけど……。
ムーも快諾してくれて、3人は何を作るかを話あった。
簡単な料理と言われて俺が思い付いたのは、ベタだけどカレーや肉じゃがたけど、勝瑞曰く、ルーはなく味醂もないから作るのが難しいと。それと肉も手に入れるのが難しいらしい。
「スープはいつも食べてますし、別の何かを作りたいですね?」
3人は悩んでいた。明後日に何を作るかで。
1人は料理未経験のおじさん、1人は限られた食材でしか料理をしたことがない少女、もう1人は何を知っているのか未知な若人。
3人は悩んでいた。明後日に何を作るかで。
1人は料理名などほとんど知らないおじさん、1人はあるものだけで料理を作り続けて来た少女、そしてもう1人は何ができるのかさても分からない若人。
「2人ともそろそろ帰る時間じゃないのか?」
答えが出ない問題に痺れを切らした俺はそう切り出してみたが、結果は酷いもので批判の嵐だった。
「だめだ。この問題を解決できるまで帰らない!」
「そうですよ! 予め決めておかないと急に作るのは難しいのですよ!」
俺に反論の余地はなかった。
だが、問題はその後すぐに解決した。
「鍋はどうかな? それなら初心者のがっくにも簡単にできるし、締めにうどん食べれるし、いいんじゃない?」
そう言った勝瑞の言葉にムーも賛同し、明後日は鍋に決まった。
太陽は天頂付近にいるからもう昼が近い。
初日から遅刻するなんて社会人失格だ。
はぁー。
気が付けば深い溜息を吐きながら噴水の淵に座っていた。
「おっ! 兄ちゃん、1人か? 昼飯まだならうちの店きな。いいものあるぞ!」
朝、いやもう昼か。よく元気なものだ。
だけど、確かに腹は減った。
もう遅刻しているなら、何時に行こうが変わらないだろう。
そんな罪悪感を背負いながら、トラマドールの店でお昼を食べることにした。
「いいものって何があるのだ?」
「ふふっ。見ろよこれ、“葡萄酒”だぞ! いいものだろう?」
トラマドールは昼間から酒を飲ませるつもりなのか?
それに、葡萄酒の価値がよく分からない。
元の世界では安いもので500円を切るワインもあった。
そんな訳で俺はトラマドールの誘いを断った。
「それよりも食べる物を何でもいいから作ってくれないか?」
トラマドールは少しだけ落ち込みながら、遅い足で厨房へと向かった。
そして15分くらい経ったところで元気も回復したのか、いつものトラマドールが手の倍くらいの大きさの皿を運んできた。
「兄ちゃん。へいお待ち! 当店の人気メニュー、“フルーツ盛り合わせパンケーキ”!」
見た目は色とりどりでとても綺麗で食欲をそそるが、おっさんが食べるには難易度が高い。
元の世界で1人これを食べていたら絶対に笑いものにされていた。
それでも俺はかぶりつくようにそれを食べた。
何故なら、俺の2つ隣のタコのようなおっさんが幸せそうに同じ物を食べていたからだ。
今日も一文なしの俺はトラマドールの善意で後払いにしてもらった。
そして、言い訳を考えながら小走りでメチコさんの店へと向かった。
お店の扉を開けると付いている鈴が小さく音を立てた。
「いらっしゃい。まぁ、そんなに息を切らしてどうしたんだい?」
割と普通の反応だった。だけど、息を切らすほど走ってきたわけではない。
単に自分の体力が運動不足で追いついていないだけだ。
走ったのは最初だけで、後半は歩いていたが、息を整えることはできなかった。
「遅れてすみません。今からでも大丈夫ですか?」
何を言われてもいいと、覚悟していたがメチコさんは優しかった。
「ラベ君から話は聞いているから大丈夫だよ。さぁ、奥で調合頼んだよ」
嬉し過ぎて言葉が出ず、軽くお辞儀だけ済ませて店の奥への部屋へと足を進ませた。
俺には薬は作れない。調合と言っても、昨日のようにポーションに薬を詰め込むだけだ。
元の世界ならこれは機械がしている仕事だ。
文明が発達すれば俺は確実に用無しなる。
技術革命起きてなくてよかった。
薬をポーションに詰め込みながら、村長との会話を何度も何度も整理した。
自分の知識と重ね合わせても当てはまる病気は不明だ。
考え事をしていると人間手先が疎かになる。
俺は知らないうちにポーションを2000個も作ってしまっていた。
「まぁ、こんなに作って!」
「ああ、すみません! 作り過ぎてしまいました。……すみません」
今日は短い時間に2度も失態を重ねるとは。
俺はやはり社会人という枠組みに当てはまる人間ではないのか。
「あんた凄いわね! いや~これだけあれば私も売るの頑張らなくちゃね!」
人の優しさと言うか、失敗を精一杯フォローしてくれる言葉に俺は珍しく涙した。
涙を流した俺にメチコさんは余計に心配してくれて、どうしようかとオドオドした行動を見ていると、本人には悪いけどなんだか面白くて気が付けば笑っていた。
「あんたね。いつもそうやって笑っていれば幸せって絶対に訪れるから。まずは笑うことから始めるのだよ!」
その言葉を残してメチコさんは店の方へと戻って行った。
俺も売る手伝いをせめてしようかと店の方へと行くが、メチコさんに止められた。
「あんた、これだけ作ったのだから疲れているだろ。今日はもう上がりな。また明日も宜しくね」
俺は言葉に甘えて今日はもう帰ることにした。
時は既に夕刻を迎えようとしていて、太陽の光がオレンジ色に道を照らしていた。
「今日はもう終わり? 帰りを待っている人がいないのなら今日も呑みに誘うのにな」
待ち伏せされているように出てきたのは勝瑞だ。
でも、ナイスタイミングだ。俺も勝瑞に訊きたいことがあったのだ。
「ここの村は“ワイン”が有名なのか?」
「まぁね。それ以外にも“いちご”や“パイナップル”と言ったフルーツは絶品でね。東の国まで運んだこともあるんだよ~」
絶品のフルーツがあるというのなら食べない訳にはいかないな。
だけど今は金を持ち合わせてないから我慢だな。
「ところで……、勝瑞はここで何しているのだ? 俺に何か用でもあるのか?」
強く吹いた風が遠い目をしていた勝瑞の声をかき消し、無理矢理笑った顔を見せた勝瑞は、早口でこう言った。
「ムーちゃんのご飯が食べたくてね。今日はご馳走になる予定なんだよ。だから、食材買うのを手伝ってもらおうと思ってね」
俺が何かを言うのを勝瑞は期待していたのかお互い何も言わない、どちらも動かない時間が過ぎていた。
そんな勝瑞は俺の手を取り、「行こう」そう言って走り出した。
「引っ張らなくても走れるって!」
「走ると風が気持ちいいでしょ! それに、早く帰らないと真っ暗になるからね!」
勝瑞は運動神経抜群だ。だから、運動音痴な俺には走るペースが速い。足が追いつかないのだが、勝瑞は止めることをしなかった。
2、3分程度しか走ってないが、勝瑞が足を止めた場所で俺は吐きそうなくらい息を切らしていた。
とてもじゃないが「今日は〇〇が食べたいからこれとこれを買おう」なんて言っている余裕なんて全くなかった。
「お待たせ! 今日は牛乳買ったからシチューを作って貰おう!」
昔ながらな透明の瓶にたっぷりと入った牛乳。
そのワードだけでも嘔気を催しそうなのだが、瓶の中でゆらゆらと揺れている牛乳は本当にダメだった。
牛乳と目を合わせないように、反対を向いて勝瑞とともに家路に着いた。
「相変わらず体力ないね」
ほっとけ、大きなお世話だ。
だけど、体力に関しては自分でも問題があると思っている。それでも今更体力をつけるのは年齢的に厳しそうだ。
運動するのはいいけれど、長期筋肉痛は回避不可能だろう。
考えれば考えるほど無理だと言うことが分かった。
「あ、おかえりなさい!」
ニコニコと笑った顔でムーは出迎えてくれた。
勝瑞は持っていた荷物をキッチンまで運び、茶色い紙袋からブロッコリーとじゃがいもと人参を取り出していた。
そしてシチューを作って欲しいと懇願していた。
ムーは突然のことに驚いて、懇願する勝瑞と頭の低いムーが頭を下げあっているカオスな光景が目の前には広がっていた。
結果としてムーはシチューを作ることには快諾していた。
だけど、勝瑞はまだまだそんなことを続けていた。
「ムー、ありがとうございます!」
「とんでもないです!」
これいつまで続けるのだ?
そんな風に思っていたけど、意外とすぐにことは終わった。
何故なら、ムーが単純にシチューを作り始めたからだ。
「いやー、作れないって言われたらどうしようかと思っていたけど、快諾してくれてよかったよ」
勝瑞は安堵の表情を浮かべているが、俺は容赦なく釘を打ちつけた。
「お前、夫としては最低だな」
だけど勝瑞は糠だったようで、効果は全くなかった。
「何が最低なのさ。“何がいい?”“何でもいい”よりかはマシだと思うけど?」
確かにそうだ。だけど俺が言いたいのはそうじゃない。
「お前も仕事していたのだろうが、ムーだって疲れているのだから作れるなら自分で作るべきじゃないのか?」
勝瑞も何も言えなくなっていたが、盛大なブーメランが俺の方に返ってきた。
「じゃあ、何でがっくんは何もしないのさ!」
それを言われてしまっては俺も返す言葉がない。
最終手段の言い訳は1つ。
「俺は料理を今の今まで一度もしたことがないのだ。俺に作れるものはない」
言い切ったのだが、勝瑞は白い目を向けていた。
「何をそんなに言い合っているのですか? シチューできましたよ!」
運ばれて来たシチューとパンを前に俺達はい言うことをやめた。
「2人で何を話していたのですか?」
ムーはすごく気になっていたようだけど、俺も勝瑞も言い合っていた内容は何一つ話さなかった。
ムーに言えば、また頭を下げだすだろうから。
3人で摂る食事は今までに経験したことがないくらいに楽しいもので、1人が1番いいと思っている俺の強がりも消えてなくなりそうになっていた。
「明後日は僕もがっくも仕事休みだから2人に料理を教えてくれない? 食材とかは僕ら2人で何とかするから!」
突然話し出したと思えば人の予定を勝手に。
まぁ、することないからいいけど……。
ムーも快諾してくれて、3人は何を作るかを話あった。
簡単な料理と言われて俺が思い付いたのは、ベタだけどカレーや肉じゃがたけど、勝瑞曰く、ルーはなく味醂もないから作るのが難しいと。それと肉も手に入れるのが難しいらしい。
「スープはいつも食べてますし、別の何かを作りたいですね?」
3人は悩んでいた。明後日に何を作るかで。
1人は料理未経験のおじさん、1人は限られた食材でしか料理をしたことがない少女、もう1人は何を知っているのか未知な若人。
3人は悩んでいた。明後日に何を作るかで。
1人は料理名などほとんど知らないおじさん、1人はあるものだけで料理を作り続けて来た少女、そしてもう1人は何ができるのかさても分からない若人。
「2人ともそろそろ帰る時間じゃないのか?」
答えが出ない問題に痺れを切らした俺はそう切り出してみたが、結果は酷いもので批判の嵐だった。
「だめだ。この問題を解決できるまで帰らない!」
「そうですよ! 予め決めておかないと急に作るのは難しいのですよ!」
俺に反論の余地はなかった。
だが、問題はその後すぐに解決した。
「鍋はどうかな? それなら初心者のがっくにも簡単にできるし、締めにうどん食べれるし、いいんじゃない?」
そう言った勝瑞の言葉にムーも賛同し、明後日は鍋に決まった。
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