合同会社再生屋

倉木元貴

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護りたいもの 1話

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「はい、もしもし、お電話ありがとうございます。栗栖産業です……」
 
 私の名前は、鈴木優香。高校卒業後、大学で遊びに遊んだ結果、見事に就職に失敗して現在は、栗栖産業のコールセンターで働いている。
 この仕事は全くと言えるほどやりがいはない。コールセンターのお姉さんといえば、丁寧な口調で、相手のことを思った会話をする、ちょっとだけ憧れがあったが、裏側は愚痴の嵐だ。まだそれだけならいいのだが、正直言って愚痴を言わないと続けられない仕事だ。表では、丁寧さを求められるけど、相手が相手だから自然と口も悪くなるよね……。だから、全くと言えるほどやりがいはない。大事なことだから二回言いました。
 そんなこんなで今日も、クレーム対応をそつなくこなす。本当は、全力で相手と口論をしたいけど、したら怒られるからな。今すぐ辞めて別の仕事を探すのもいいけど、このド田舎ではすぐに仕事は見つからない。しかも田舎特有の世間の狭さで、仕事を辞めたら仕事ができない人間みたいなレッテルを貼られる。正直、仕事を辞めた後のその噂が広まることの方がしんどい。多分だけど、ここにいる人のほとんどがそうだと思う。そうでなければ、誰が好き好んでこんな仕事をするか。
 そうやって一息ついている間にも電話はまた鳴り出す。本当に休む間などない。
 
「はい、お電話ありがとうございます。栗栖産業です」
 
「………………………………」
 
「お客様どうされました?」
 
 コールセンターあるあるその一。無言電話。これの対応は本当に面倒だ。そもそも用がないなら電話なんてかけてくるな! と言いたいところだけど、言ったら怒られるからな。
 
「ご用がないようでしたら、失礼ながら切らせていただきます」
 
 そう言って、受話器を置いた瞬間に電話はまたしても鳴り出した。
 
「はい、お電話ありがとうございます。栗栖産業です」
 
「お前のとこの暖房全然使えんでないか! ようこんな使えんもの売ったな! これ詐欺やろ! ただで済むと思うなよ!」
 
 コールセンターあるあるその二。クレーム電話。この仕事をする上で一番面倒な電話だ。
 とりあえず相手に失礼がないように、謝罪を行いながら対応をする。
 
「この度は、大変ご迷惑をおかけしました。失礼なことをお聞きしますが、当社のどの製品でしょうか? 製品の裏面に記載されている型番などがありましたら、当社としてもとても助かるのですが……」
 
「ほんなもん、知らんわ! おたくのとこでこうた暖房じゃ!」
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