合同会社再生屋

倉木元貴

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護りたいもの 3話

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 やってしまった。また上司に怒られる。そう意気消沈していても電話は鳴り響く。
 
「はい、お電話ありがとうございます。栗栖産業です……」
 
 その電話はさっきの男からだった。
 
「十八時に北戸末縞駅で待っています」
 
 そい言って電話を一方的に切られた。怖さのあまり私は何も言えなくなっていた。
 仕事後終わって帰ろうとしていた時、私はその上司に呼び止められた。それも、別室に案内されたから、絶対さっきのことだ。また怒られるんだと思っていたが、その反対だった。「面倒な人を引いてしまったね」と労いの言葉を掛けられた。
 それでも私の疲労は消えることなく脳裏に焼き付いていた。そのせいで、私は名乗らなかった男のことを忘れていた。その男を思い出したのは、北戸末縞駅の入り口で何もせずに突っ立っている眼鏡をかけたスーツ姿の男と目が合った時だ。その男は、私の姿を見るなり軽く会釈をし、近づいてこう名乗った。
 
「初めまして、私、合同会社再生屋の尾形祐太郎と申します。以後お見知り置きを」
 
 差し出されたその手には名刺があった。嫌々ではあるが、不気味そうに私はそれを受け取ってすぐさまカバンに乱雑にしまった。
 
「合同会社再生屋? 初めて聞く名前ですけど、私に何か用ですか?」
 
 男は不気味な笑みを浮かべた。それと同時に私の全身には鳥肌がたった。
 
「私はあなたに忠告をしに来たまでです。信じられないかもしれませんが、あなたは明日の仕事終わり、飲酒運転の車に撥ねられて死んでしまうのです」
 
 そんな話信じられるどころか、新手の宗教勧誘にしか聞こえなかった。
 
「私、神とか信じない人なので、そんなことを言われても困ります。それに貢げるほどのお金なんて持っていません」
 
 それでその場を凌ごうとしたが、余計に刺激してしまったのか、また不気味な笑みを浮かべていた。
 
「ほほほっ、新手の宗教勧誘ではありませんよ。それに献金を寄越せとも言いません。これは単なる慈善活動なのです。あなたが払う代償なんてありませんよ」
 
 その言葉にゾッとした私は、何も言わずにその場を足早に立ち去った。丁度電車も来たところだから振り向かずに電車に乗り込んだ。
 
「信じられないとは思いますが、明日はコンビニにでも寄ってください。それで答えは分かると思います。では!」
 
 その男は、私以外の周りにも聞こえるような大きな声で叫んでいた。私が振り向かないせいで、不気味な人間がさらに怪しさを増し、周りの人たちも完全に変人だと確信していた。
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