合同会社再生屋

倉木元貴

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護りたいもの 9話

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 十一月の初め、私はある男に告白された。その男は名を“尾形祐太郎”と名乗った。私は彼を知っている。だけど、過去の私は彼を知らない。過去の戻ったことによって早くも未来が変わってしまったのか? 
 この告白断りたいけど相手が相手だ。何でよりによって尾形は愛美の知人なの。それも小さい頃によく遊んだって。
 これを断ってしまえば愛美はなんていうのだろうか? 私以外にこんな笑顔見せたことないのに。よはど彼のことを慕っているんだ。でも、私は尾形とは付き合えない。尾形の未来を知っているから。
 
「尾形さん……それに愛美も、ごめんなさい。全く知らない人といきなり付き合うのは出来ません。ごめんなさい……」
 
 私の中では百点満点中八十点は付けられるくらいの高得点な回答だったけど、愛美の反応は違った。
 
「優香……何言ってるの? 祐くんとは中学からの仲じゃない。どうしたの優香?」
 
 愛美からの冷たい視線、落ち着きを失う尾形、それに何も言えない私がただ立ち尽くしていた。
 私は愛美と何となく疎遠になったと思っていたけど、違っていたんだ。それでやっとメモの意味が分かった気がした。(私を思い出すこと)もし思い出すことができていたら、多分言うことを聞いていた。尾形は私に賭けいたと言うことか。だけど、今は悔やんでいる暇はない。
 
「ご、ごめん。そうだったけ? 最近記憶喪失気味なんだよね……」
 
 誤魔化すにしても下手すぎるけど、焦った私の精一杯だった。
 
「優香最近変だった。やっぱり私がボール当てた時に変になったんだよね?」
 
 ここで、「はい、そうです」と言ってしまえば問題はするだろう。だけど、それは後々大変なことになりそうだ。愛美のことだ精密検査がどうとか、精神科がどうとか言い出しそうだ。それだけはごめんだけど、良い言い訳を思いついた。
 
「大丈夫。愛美に当てられるよりも前からちょっとずつ過去が思い出せなくなっていたんだよね。でも大丈だから、過去の記憶がなくなっても愛美が一緒にいてくれる限り私は愛美のことを忘れないから」
 
 そう言って愛美を抱きしめた。涙を流す愛美の頭を優しく撫でて、愛美から離れた。そして、尾形に視線を向けた。
 
「そう言うことなのでごめんなさい。あなたと付き合うことはできません」
 
 これで円滑に終わる。これから受験でみんな忙しくなる。恋愛にかける時間は失う。受験は一月の終わり。二月からは仮卒業。三月の告白シーズンにもう一度言われた時は、遠距離は嫌だと断れる。もう勝ち筋しか見えていなかった。これが私の油断だった。
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