俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

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これは、アレだ! トライアルだ!

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 俺は一人個室タイプの高級感あるお店でソワソワしていた。掘りごたつタイプの和室で、六人くらいで入るのが丁度良い感じの部屋。
 薄い襖を挟んで別の個室があり人の気配もする。所謂政治家などが話し合いに使うような超高級な店では無いが、よく行く居酒屋のような騒いだ客は居らず、皆しっとりと料理を楽しんでいるようだ。
 メニューも俺がよく行くより一桁とは言わないが三倍位の値段設定。
 そんなお店で俺は、羽毛田編集長と田邊さんの三人で向き合っている。俺は好き嫌いなく何でも食べられると言うと、田邊さんは適当に色々注文してしまった。まぁ割り勘という事はないだろうから素直にここは料理を、楽しむべきなのだろう。
「いや~夏の間!乕尾くんがんばってくれたね~!
 で、君としてはウチでのインターンシップどうだった?」
 羽毛田編集長のギョロっとした目が俺を見つめてくる。昨日のお疲れ様会とは違ってコチラは流石に真面目な会なようだ。
「皆さんには本当に良くして頂いて助かりました。そして勉強になりました。編集って未知の世界でしたが、こうして接してみると最高に楽しい場所ですよね。毎日が刺激的でした!」
 言ってから『楽しい』という言葉は不適切だったかなとも思う。編集長にとっては仕事場で本気で戦う場所。
「嬉しいね~そう言って貰えると!
 ほら食べて。この牡蠣の燻製ね、なかなかいけるのよ~」
 編集長はニコニコとして俺に料理を勧めてくる。田邊さんは枡に入った猪口を持ち上げ表面張力ギリギリに入った日本酒を飲み嬉しそうに目を細めている。美味しかったようだ。
「あ、ありがとうございます。
 本当においしいです! 
 ……このインターンシップのおかげで、何か俺、進みたい道というのも見えてきました」
 思わず料理に意識持って行かれそうになり、話題を真面目な方経戻すことにした。
 羽毛田編集長は御機嫌な様子で頷き、テーブルに並んでいく料理を見つめている。
「それは良かったよ! やはり夢や目標達成は大切だからね!
 はらほら~安い賃金でこき使っちゃったから、食べて~食べて~」
 ゆったりと日本酒を楽しむ田邊さんと、ご馳走を前にした子供のような羽毛田編集長。
 トップの二人からしてこの気侭さ。これがJoy Walkerの社風。
「乕尾くんが進みたい道というのは?」
 進められた謎の珍味に箸を伸ばしていると、田邊さんがそう聞いてきた。
 そう聞かれると、本職を前にすると恥ずかしくて下を向く。
「皆さんのような編集の仕事をしてみたいな……と思いました。
 今年色々業界研究をして動いて、そちらを目指して就活を進めていきたいなと思っています」
 羽毛田編集長は刺身をつまみ口にいれホウホウと頷く。コレは俺の話に対しての相槌なのか? それとも刺身が美味かったからなのか?
「乕尾くん。
 業界研究をしたいのなら、このままウチで研究してみない? 今度は正式にアルバイトとして雇うから。
 昨日の飲み会に行ったなら分かると思うけど、グループも多いから働きながら同業他社の様子も見えるし、実践経験を踏める。悪くないと思うけど~」
 田邊さんが俺にビールを注ぎながらそんな事を言ってきた。
「いいんですか?」
「ぶっちゃけ、君をキープしておきたいという意味もあるんたけどね。どう?」
 そう言ってキョロとした目で俺を見詰め首を傾ける。
「キープって……」
 編集長につられ同じ角度で首を傾け、聞き返す
「そのままウッカリウチにはいってくれても面白いかな~とね♪
 虎尾くん、ウチのような会社で一番大変な事って何だか分かる?」
 俺は少し考える。仕事しながら皆が常に気にしていた事……。
「ネタ探しですか?
 その季節や社会の流れに沿っていてかつ、目新しい何かを見つける事でしょうか?」
 編集部の人は、寿司屋並にいつも『ネタ、ネタ』言っている。
「間違えてはいないが、会社としてはもっと深刻な悩みが常にある。
 それは人材の確保と育成だ」
 俺は目を見開き、お二人の顔を交互にみる。
「まず、こういった情報雑誌の編集を目指す人は大手でメジャーな雑誌を発行している所を選ぶ。そもそもウチの募集に応えて応募してくる人が少ない。
 そしてこの業界を求めて来た人も、実際してみると華やかさはない。君も分かるだろ? 常にガチャガチャしている。それに雑務も多い地道な作業ばかりの仕事だと知り勝手に夢破れるやつも多い」
「はぁ……」
 俺は間抜けな声を返してしまう。逆にキラキラでお洒落でハイソな世界だと俺は馴染めてないだろう。
「この業界やる気があるから出来る世界でもないんだよね~。
 ガッツと根性とタフさはたしかに必要。それプラス、社交性は勿論必要!
 それに加え協調性、それに客観性、美的センス、文章力と求められる物はやたら多いんだよね~」
 そんな事を全て求められても自信なんてある訳はない。
「ソレを全て新人に求める事は無謀なのは分かってる。だからこそソレを育めそうな人を選ぶか、他所から引っこ抜いて来るしかない」
 そう言われると、俺は自信が、なくなってくる。俺にできるのか? と……。
「その点、君はあの個性的なメンツの揃う会社に放り込まれても意外にシックリ馴染んでいたから、最低条件はクリヤーしているかな~ということなの」
 俺は二人の言葉に納得して頷く。能力うんぬんの話ではない。それはこれから俺が勉強して成長しておくしかない。
 足りなければ勉強して身に付けるしかない。
「つまりは、今回のインターンシップは保護猫におけるトライアルお試し期間だったのですね。
 試しに猫と同居して、猫が新しい環境に馴染めるのか? 先住猫会社の先輩と仲良くやっていけるのか? という感じで」
 俺が単に業界について勉強していただけでなく、見られていた。
 編集長は「先住猫!」そう言ってから笑い出す。
「まぁ、そういう感じかな……たしかに猫っぽい気まますぎるヤツ多いな」
 田邊さんは苦笑している。
「なんか多頭飼いの猫オジサンになった気分」
 編集長がそう呟く。
「膝に猫乗せて、グラス揺らすみたいな? 似合いますよ」
 田邊さんの言葉にクーと編集長は声を上げる。
「それって別な猫飼いでは?」
「ボスって感じで良い感じですよ! 一応良い意味ですので」
 ニヤニヤとした顔で「良い意味で」と言っても信憑性に欠けるものである。
 編集長はこの会社では一番のいじられキャラのようだ。「まぁそれはそれで格好良いかな」とか嬉しそうにお話してから編集長は俺に視線を戻す。
「確かにウチの猫にならないか~と誘っているけど、君の気持ちは大事にして。
 この世界は猫の方も飼い主が選べるのだから。入ってきても、ステップアップをめざし転職する人もいるし、田邊くんのように野良していたのに居着くパターンもあるから」
 確かにサバやモノ達と違って俺はお世話になる場所を選べるものの、あんな甘えあう関係ではいられない。
 そして俺は進むであろう未来を想像してなんかワクワクする自分がいる。お酒が程よく身体にはいっていることもあるのだろう。
 俺は迷うことなく「宜しくお願いします!」と言って頭を下げていた。
 
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