上 下
115 / 115
バレンタインチョコ詰め合わせ

愛しき二人の女性とバレンタイン

しおりを挟む
 三十六歳くらいの清酒さんのバレンタインデーの様子です。

 ※   ※   ※

 職場に到着しロッカールームに入る。カバンを開け必要なモノを取り出そうとしたら、見慣れる小さな赤い何かが入っているのを見つけた。巾着状にラッピングされた包み。手のひらに乗るくらいのサイズのそれは多分中身はチョコだろう。
「さっそくチョコですか~もうモテる男はちがうな~。
 なんで既に結婚している清酒くんに渡すのかな~!
 俺なんて誰のモノでもなくフリーなのに」
 俺の様子に気がついた同じ課の徳丸さんがからかってくる。
 俺はその言葉に苦笑しながら首を横にふる。
「いや、これはそういうものではないよ。
 多分娘からのもの。家を出る前にコッソリ俺の鞄に入れてきたんだろう」
 この包装紙には見覚えがある。リビングの隅に置いてあったから。
 幼稚園で誰と誰と誰と……だかに渡すのとかで妻のわかばと一緒にお菓子を作っていたようだ。
 リボンに繋がっているハートのカード。広げると『パパダイスキ♥』という子供の字のメッセージがある。
 娘の言うところの『まだオトモダチ』に配ったとされるモノのサイズよりやや大きめなこの包み。見ているとにやけてしまうものがある。娘からのバレンタインプレゼントは恋人や妻にもらうのとはまた違った喜びがあるものだ。
「どっちにせよ、リア充自慢か~?
 カワイイ妻と娘から愛されて幸せ者ですってか!
 ムカつくな~」
 その言葉、否定する要素もないので『まあね』と言いながら頷くと叩かれた。
「そう言っている内に、『パパは臭いしウザいから近づかないで!』とか言われて嫌われるんだからな! その時泣くなよ~」
 徳丸さんの言葉に苦笑を返しつつ考える。
 妻からは兎も角、いつまで娘からバレンタインプレゼントを貰えるのだろうか? という問題を。
 俺は世間で娘に嫌われる親父的な不潔でだらしない事はあまりしない。臭いとか言われる事はないだろうが……娘は幼稚園児でありながらもう女子な会話をしてきていた。
 彼氏なんか出来るのも早い気がする。今だけの楽しみと思っておくべきだろう。

 聖なる日らしい日中はビジネスライクにチョコお贈り合うという儀式を楽しみ一日が終わった。
 既婚男性の昼間のバレンタインなんてこんなものである。

 帰りに寄るのはお花屋さん。わかばが昨晩チョコケーキを作っていたようなので、スィーツは止めておく。
 わかばに贈る花束と一緒に娘への花束もお願いする事にした。
 薔薇はバレンタインにベタすぎる気もする。わかばには少し大人っぽく紫のチューリップの花束。そして娘には可愛い感じのコスモスの花束を作ってもらった。

 玄関まで迎えてくれた妻と娘にそれぞれ花束を贈る。
 わかばは雑誌の記事で特集したこともあり紫のチューリップの花言葉は知っている。
 照れた笑みを浮かべ小さな声で『ありがとう嬉しい』と可愛く喜んでくれた。
 娘の彩香は花束とダンスしてはしゃいでいた。
「ねえねえ、このお花はどういうお花なの?」 
 ニマニマと花束をがかえて、彩香が聞いてくる。散歩の時、道端の花見てよく妻と娘の間で交わされる言葉。彩香にわかばはニッコリ答える。
「コスモスといってね、花言葉は【乙女の真心】で彩香にピッタリの花なの」
 彩香は満足そうな表情で大きく深呼吸してから、台所の方に歩いていく。
「ママ~早くお花さん花瓶にいれよ! うちでノンビリしてくつろいでもらわないと」
 二人が花を生ける作業をしている間に俺は背広を脱いでくることにする。
 二つの花瓶に生けられたそれぞれの花の乗ったテーブルに座って三人で夕食を食べる。二人で作ったであろうハートのハンバーグ。俺をというより娘と三人で楽しむ為の料理。
 恋人同士のバレンタインディナーにはない、ホッコリとした幸せなバレンタインディナー。コレはコレで最高なバレンタインデーの過ごし方なのかも知れない。



 ※   ※   ※

 ちなみに紫のチューリップの花言葉は【永遠の愛】となります。そしてコスモスは【少女の純潔】という花言葉もあったりします。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...