5 / 14
運命の時を待ちながら
しおりを挟む
看護助手さんの話を聞いた後、改めて病棟内を見ると本当に多くの人がこのエリアだけでも働いている事が分かった。
制服も様々。
看護師さんにしても昔ながらの看護婦さんらしい白衣を着ている人はいない。最近の白衣は白ですらない。
働いている人の制服の雰囲気はアニメに出てくる軍服っぽくツーピースのパンツルックでクールな感じ。看護師さんだと思われる人もランクなのか役割なのかで色のバリエーションのある制服を着ている。
鮮やかなターコイズブルーや暗めのワインレッドに黒のラインが肩から腰にかけて二本斜めに入った服と、淡いピンクやブルーの地だが脇の部分に異なる色のラインが入っている人。それぞれ上着と同じ色のパンツと言う姿。
スカートなんか履いている人はいない。
このデザインの制服の人は看護師なようだ。
そして看護助手は紺に袖や襟が白く紺のパンツ。
清掃担当の人は水色の制服。
軍服っぽく見えたのは、それぞれがポケットや腰にあるホルダーに各職業で必要な道具をセットして毅然と働いているからかもしれない。
白衣を着ているのは会話を聞く限り医者ではなくどうやら薬剤師。
そして医者はネイビーのシャツと同色の柔らかそうなパンツとラフな姿。調べるとスクラブと言うらしく、白衣と違って伸縮があり動きやすく、洗濯にも強くアイロン要らずで今はそちらの方が人気で主流なようだ。しかも胸とサイドにポケットがありちょっとした医療道具やメモやペンや印鑑も入れられて便利とあった。
医者はスーツと白衣着て優雅に仕事をしているのではなく、動きやすいスクラブ着てアクティブに仕事をしている。
正に戦闘服なのだ。
そんな多くの人に支えられて、俺たち患者はここで安全に清潔な状態で生活をしている。
その事に頭は下がるが……俺は今かなりナーバスな気持ちで富士山を眺めている。
点滴スタンドを連れて。
隣でお婆ちゃんの患者さんが楽しげに今日の富士山について語っているが、その言葉も右から左へと抜けていく。それだけ気持ちは落ち込んでいた。
入院して直ぐに付けられた携帯型心電図でも憂鬱だったのだが、それに加え今俺に付いているのは……手術中に失われがちな水分等を補給する為の点滴と……オシッコチューブ……。
若い女性の看護師に股間を見られ、さらにアソコにチューブを挿入されるなんて……もう恥ずかしいなんて言葉で済まされないレベルの深く強い気持ち。
それは、なんと表現すれば良いのだろうか? ピッタリの日本語が見つからない。
もうそれをしてくれた看護師さんの顔が見て話せない。もうお婿に行けない! とすら思ってしまう。
しかもオシッコの袋を下げたまま手術までの時間をすごさなければならない。そんな事も恥ずかしい。パンツは履いているがチューブの所為で何か収まってない気持ち悪さがある。
そして足には弾性ストッキングという血栓予防のピッチリした靴下を履かされてそれも何とも心地悪い。
しかもカテーテルを挿入する為に股間の毛は昨日剃っている。流石にその作業は俺自身がシャワーの時に行なったが、ちゃんと剃れているかを態々シャワー室に看護師さんに確認してもらうという恥ずかしさ。
男性看護師はここには一人しかいないので、確認したのは女性の看護師。こういう事があるから男性看護師をもっと増やして欲しい! そう切望してしまう。
手術の為にそれらの処置は必要である事は理解しているものの、俺の尊厳が少し傷付けられたような気になっている。
恥ずかしいやら、情けないやらで、手術に対する覚悟すら決まらないまま俺は窓から景色を眺めているしか出来なかった。
ベッドでジッと待っていると余計な事を色々考えてしまいそうだから。
入院の際に話された手術を伴う治療にあたり、起こり得るリスクというものが頭の中でグルグル回る。麻酔事故、血管損傷、合併症……そういった不穏な言葉が頭の中に沸いてきて積もっていく。
最悪な場合、俺の人生は今日で終わってしまう可能性はゼロではない。
しかも今は世界的に感染病が流行して大変な状況。家族のお見舞いは許可されておらず、手術日だが付き添いもいない。
遠方から母親に来てもらうなんて事頼める訳もいかない。
家族や友人には心配かけたくないので、脳天気なLINEを送っておいた。しかし俺の心は不安でいっぱいいっぱいである。
手術の順番は俺は三番目という。恐らくは午後一くらいになるらしい。待ち時間があるだけに余計な事を色々考えてしまう。
友だちに無駄にLINEを送っているのは、不安だからとか、寂しいからだけではなくて、最後の会話になるかもしれないという後ろ向きな気持ちから。
一人でいるとどんどん悪い方悪い方へと物事を考えそうだから、ポジティブな発言をLINEと言う形でも発して無理やり気分を盛り上げている。
しかし、【頑張ってくる】と皆に言いつつ俺に出来る事なんて何も無い。医者に任せるしかないのが今の俺の状況。
「今日の富士山は、少し雲かかっているのよ!」
隣の花柄の可愛い帽子を被ったお婆ちゃんは、楽しそうで、新しく窓に近づいてきた人に、そう解説をしニコニコしている様子をボンヤリと眺めていた。
制服も様々。
看護師さんにしても昔ながらの看護婦さんらしい白衣を着ている人はいない。最近の白衣は白ですらない。
働いている人の制服の雰囲気はアニメに出てくる軍服っぽくツーピースのパンツルックでクールな感じ。看護師さんだと思われる人もランクなのか役割なのかで色のバリエーションのある制服を着ている。
鮮やかなターコイズブルーや暗めのワインレッドに黒のラインが肩から腰にかけて二本斜めに入った服と、淡いピンクやブルーの地だが脇の部分に異なる色のラインが入っている人。それぞれ上着と同じ色のパンツと言う姿。
スカートなんか履いている人はいない。
このデザインの制服の人は看護師なようだ。
そして看護助手は紺に袖や襟が白く紺のパンツ。
清掃担当の人は水色の制服。
軍服っぽく見えたのは、それぞれがポケットや腰にあるホルダーに各職業で必要な道具をセットして毅然と働いているからかもしれない。
白衣を着ているのは会話を聞く限り医者ではなくどうやら薬剤師。
そして医者はネイビーのシャツと同色の柔らかそうなパンツとラフな姿。調べるとスクラブと言うらしく、白衣と違って伸縮があり動きやすく、洗濯にも強くアイロン要らずで今はそちらの方が人気で主流なようだ。しかも胸とサイドにポケットがありちょっとした医療道具やメモやペンや印鑑も入れられて便利とあった。
医者はスーツと白衣着て優雅に仕事をしているのではなく、動きやすいスクラブ着てアクティブに仕事をしている。
正に戦闘服なのだ。
そんな多くの人に支えられて、俺たち患者はここで安全に清潔な状態で生活をしている。
その事に頭は下がるが……俺は今かなりナーバスな気持ちで富士山を眺めている。
点滴スタンドを連れて。
隣でお婆ちゃんの患者さんが楽しげに今日の富士山について語っているが、その言葉も右から左へと抜けていく。それだけ気持ちは落ち込んでいた。
入院して直ぐに付けられた携帯型心電図でも憂鬱だったのだが、それに加え今俺に付いているのは……手術中に失われがちな水分等を補給する為の点滴と……オシッコチューブ……。
若い女性の看護師に股間を見られ、さらにアソコにチューブを挿入されるなんて……もう恥ずかしいなんて言葉で済まされないレベルの深く強い気持ち。
それは、なんと表現すれば良いのだろうか? ピッタリの日本語が見つからない。
もうそれをしてくれた看護師さんの顔が見て話せない。もうお婿に行けない! とすら思ってしまう。
しかもオシッコの袋を下げたまま手術までの時間をすごさなければならない。そんな事も恥ずかしい。パンツは履いているがチューブの所為で何か収まってない気持ち悪さがある。
そして足には弾性ストッキングという血栓予防のピッチリした靴下を履かされてそれも何とも心地悪い。
しかもカテーテルを挿入する為に股間の毛は昨日剃っている。流石にその作業は俺自身がシャワーの時に行なったが、ちゃんと剃れているかを態々シャワー室に看護師さんに確認してもらうという恥ずかしさ。
男性看護師はここには一人しかいないので、確認したのは女性の看護師。こういう事があるから男性看護師をもっと増やして欲しい! そう切望してしまう。
手術の為にそれらの処置は必要である事は理解しているものの、俺の尊厳が少し傷付けられたような気になっている。
恥ずかしいやら、情けないやらで、手術に対する覚悟すら決まらないまま俺は窓から景色を眺めているしか出来なかった。
ベッドでジッと待っていると余計な事を色々考えてしまいそうだから。
入院の際に話された手術を伴う治療にあたり、起こり得るリスクというものが頭の中でグルグル回る。麻酔事故、血管損傷、合併症……そういった不穏な言葉が頭の中に沸いてきて積もっていく。
最悪な場合、俺の人生は今日で終わってしまう可能性はゼロではない。
しかも今は世界的に感染病が流行して大変な状況。家族のお見舞いは許可されておらず、手術日だが付き添いもいない。
遠方から母親に来てもらうなんて事頼める訳もいかない。
家族や友人には心配かけたくないので、脳天気なLINEを送っておいた。しかし俺の心は不安でいっぱいいっぱいである。
手術の順番は俺は三番目という。恐らくは午後一くらいになるらしい。待ち時間があるだけに余計な事を色々考えてしまう。
友だちに無駄にLINEを送っているのは、不安だからとか、寂しいからだけではなくて、最後の会話になるかもしれないという後ろ向きな気持ちから。
一人でいるとどんどん悪い方悪い方へと物事を考えそうだから、ポジティブな発言をLINEと言う形でも発して無理やり気分を盛り上げている。
しかし、【頑張ってくる】と皆に言いつつ俺に出来る事なんて何も無い。医者に任せるしかないのが今の俺の状況。
「今日の富士山は、少し雲かかっているのよ!」
隣の花柄の可愛い帽子を被ったお婆ちゃんは、楽しそうで、新しく窓に近づいてきた人に、そう解説をしニコニコしている様子をボンヤリと眺めていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる