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永久へと続くやり取り

なぞる未来

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 高橋の凶行を目の当たりにした激しいショックも、美術館での衝撃で相殺されたのか、次の日普通に起きて惰性で会社に来れている。
 この異常な事態を理解した上で、まともに対話出来る人達と話せたこともあるのかもしれない。
 永遠の仲間は、永遠も含めてセレブな人達であるからか皆学もあり知性的で冷静な人達だった。
 だからこそ動揺しつつも、穏やかに対話は出来る。

 そこで理解したことは、俺達は百日どころではなく既に数年もこの現象を続けてしまっているという現実。
 白昼夢だと思っていたモノは全て現実で起こっていた事で記憶が掘り出されたもの。俺自身が体験した過去。
 それを何故か全て忘れていたという事実。
 何故忘れているのか? その事を聞いても誰も教えては貰えなかった。俺がもう少し色々思い出して冷静に話を出来るようになったらその辺の話もしてくれると言われた。
 また、この調子で話していたら俺自身が思い出すだろうという人もいた。
 冷静を務め会話していても、混乱している俺の状況はお見通しだったのだろう。
 精神科医のレイは俺が思い出す事を拒絶している記憶程それが蘇ると苦痛を伴っているようだ。と言う。だから無理に嫌な記憶を思い出そうとしなくても良い。時間はタップリあるのだから。と笑えないジョークも言ってきた。
 確かに高橋と鈴木とした何気ない会話、前に飛行機メンバーと話した世間話などは、『そういえばこんな話もしていたな』くらいの感情で思い出せた。
 しかし鈴木や高橋にしたことを思い出す時は目眩が起こるほどの衝撃を伴う。それもそうだろう消し去りたい程の悍ましい体験など思い出さなければ良かったと思う。しかし一度思い出すと、止めることが出来ず流れるように記憶が甦ってくる。
 俺は顔を顰めてで頭を横に振った。
「佐藤さん、大丈夫ですか? 頭痛まだするの?」
 気がつくと手に頭痛薬を手に高橋が横にいる。給湯室で珈琲を注いでいた俺に話しかけてきた。
「もう大丈夫だ。昨日今日は心配かけて悪かったな」
 そう答える俺を心配そうに見つめる高橋。こういう様子をみていると可愛い部下のままのように見える。とても朝一で人を殺してきた人物に見えない。
 何故こうも平然としているのか? 高橋は。
「無理されないで下さいよ……佐藤さんすぐ無茶されるから……あの……もしまだ痛むようでしたらこの薬……」
 確かに今、頭をがガンガンと痛んでいるのは確か。しかし薬を受け取るかどうか悩ましい。
「そんなに俺。体調悪そうに見えるか?」
 俺は笑って惚けてやり過ごすことにする。
「佐藤さん! 体調悪いの? 大丈夫?」
 高橋が何か言い返そうと口を開いた時は、後ろから話しかけてくる声がある。振り返るまでもなく田中さんだと分かる。
「田中さん、おはようございます。
 大したことないんですよ。ただ俺が冗談で頭が痛いといったら、高橋が大袈裟に心配しただけで」
 振り返り挨拶をして、そう言えば流して貰えると思ったが、田中さんは会話から何を誤解したのか何故か高橋の方を非難するように見つめる。
「高橋ちゃん、あなた佐藤さんを困らせて………」「違いますよ! ヒューマンパワーの部長さんはオッサンギャグが多くて話が進まないという話の流れですよ」
 違う誤解をあたえたようなので、そうごまかす。田中さんは少し気まずそうな顔をして俺をチラりと見上げる。
「佐藤さんは、色々抱え込む所あるから……何か吐き出したくなったら私で良ければ話を聞くから。溜め込むのと良くないから。
 遠慮しないでね……顔色良くないようにも見えるけど本当に大丈夫?」
 そんなに酷い顔を俺はしているのだろうか?
「大丈夫ですよ。本当に。
 ここの照明のせいではないですか? ここ暗いので」
 俺はそう言って笑って返すと、納得はいっていないようで「無理しないでくださいよ」と返し田中さんは離れていった。俺はフーと溜息をつく。
「俺、今日そんなに顔色おかしいか?」
 そう言って高橋の方がを振り返りギョッとする。高橋が怒りを溜め込んだ目をした怖い表情をしていたから。その視線は田中さんの去っていった方を見つめている。
「何もしていないのに。いらぬ叱りを受けよとしたことにムカつくのは分かるが、そんなに顔をするなよ」
 そういうと高橋はハッとした顔をして慌てて笑うと。
「やだ、そんな顔って?」
 殺意すら感じるそんな眼だった。
「ドラマの悪役みたいな表情になっていたよ。女の子がそんな物騒な顔をするもんではないよ」
 冗談めかして控えめにそう表現すると高橋は恥ずかしそうに顔を赤くする。
 思ったより二人で普通に話せているようだ。
「お前も心配しないでくれ。オレはいつもどおりだろ? 顔色が、緑とか紫てもないだろ?」
 俺の言葉にやっと高橋をは笑う。
「大丈夫です。普通に肌色ですから」
 そう言いながら俺の顔をまっすぐ見つめてくる。

 高橋を見つめていると不思議な感情に苛まれる。
 これ以上罪を重ねさせるわけにはいかない妹のような可愛い存在。
 そう思うのと同時に愛する人明日香を殺した憎むべき相手。
 極限状態の時間を共にし続けたことにより育まれてしまった強すぎる絆をもつ仲間。
 身体を重ねてしまった事もある愛しい相手。
 これだけの時間を共にしながらどうしても分かり合えない相手。得体の知れないモンスター。
 俺の記憶の中にある様々な高橋を思い浮かべる。バラバラなようでいて全て同じ人間への姿で、どれも俺の正直な想い。

 俺は高橋をどうしたいのだろうか?

「佐藤さん、どうかされたんですか? やはり頭痛いのですか?」
「いや、考え事してた」
 俺がそう答えると高橋は少し寂しそうな顔をした。
 いつものように朝礼を済まし、外回りに出る。助手席で高橋は鈴木のTwitterをチェックし異常がないと報告し、ニュースを次にチェックしている。どちらも変化等ないのを分かっていながら。
「佐藤さん……」
 高橋が突然話しかけてくる。
「先程の話ですけど……私そんなに頼りないですか?」
 俺はその意図が分からず「は?」と間抜けな声を返す。
「あの女の言う通り、佐藤さんは一人で全ても抱えていまう。
 この問題については私も当事者です。共に悩み、共に進みたいと思うのは勝手でしょうか?」
 精神的に参っている時に可愛い女の子からこのような健気に聞こえる言葉。普通ならたまらない事。しかし俺の心はどこか冷めていた。
 高橋の言葉もまた、繰り返しだから冷静に聞けた。
 日単位でループしている周りの人よりかはバリエーションはあるものの似た言葉を以前聞いた記憶が俺にはある。最初の時は俺はその言葉に絆されていき……。しかし彼女言葉は俺の心をそういう意味では動かさない。
「頼りないとかでは無いよ。
 また、隠し事している訳でもない。
 ただ色々考えてしまうんだ。それが自分の中でも纏まらないから言葉にならない。
 最近思うのは俺達が過ごした七月十一日。俺達が以外もにはどういう感じなのか? とか。
 俺達が変えてしまった先にある明日はどうなっているのか?
 変化した分だけ分岐して別れて無数の未来を生み出しているの? ループしたことで消えていくのか……」 
「そんな事考えるのは無意味では? 確認のしようがないんだもの!
 もっと楽しい事を考えない?」
 俺が彼女との対話を少なくして行ったのはこういうところだ。議論にならないのだ。
 鈴木の方がまだこういう質問に見当違い方向ではあるが意見を言ってくれていた。
 彼の困る所は独断的な性格の為、コチラと相談することも無く実行して混乱させた。
 どちらにしても腹を割って話し合えない。
 飛行機のメンバーの方が言語が違うのに話が通じた。この気持ち悪さは何なのか?
「そんな事より、今という時間を楽しむ事にしない? 二人で思いっきり弾けて楽しむの」
 可愛く甘えるようにそんな言葉をかけてくる高橋に俺は曖昧な笑みを返すしか出来なかった。

「兎に角今の状況は、今まで君が導いた未来の中で最も最もベターなモノだ!」
 そう精神科医のレイは俺に言っていた。 
 何処が? とも思うが、彼曰く『スズキの愚行は止められて、タカハシの感情の発散させている』という。
 過去の俺が鈴木を殺す事にしたのも、飛行機メンバーに相談をした結果。あちらの世界はコチラより人が狂気を孕む事は危険な状況。
 一気にそこで飛行が危険に晒される事になる。だからこそ殺してでも止める事が必要不可欠となった。
 軍人のカーマイン、テロリストに殺されそうになった過去をもつ外交官のメイヤー、患者に逆恨みをされナイフをつきつけられた事のある精神科医のレイなど、俺と違ってあちらは荒事に慣れている人も多かったから冷静に対処してきたようだ。
 しかし俺は? そこまで割り切って殺人行為は行えなかった。
 俺の行動に気がついた高橋が手伝うようになり、交代で作業を担当する事になる。
 女の子にそんな行為をさせるなんて有り得ないと思う。だがそれだけ俺の精神が参っていた。
『なんで佐藤さん一人で抱え込むの? 私は仲間ではないの? 佐藤さんに守られるだけの存在でありたくない! 私も手伝わせて世界を守るのを』
 そう必死な様子で俺に訴えてきた高橋。俺が純真な彼女を汚れた世界に引きこんだ。
 過去に彼女を狂わすきっかけを作ったのは俺だった。
 高橋の事だけを責めらず憎みきれないのも、自分の過去の罪を思い出した事もある。
 高橋と話をしていても、俺と違って記憶を取り戻した訳ではなさそうだ。しかし彼女の心にも何かが残り蓄積していっている。
 何故鈴木も高橋も無くした筈の行動を繰り返すのか?
 この事からも記憶になくても、魂が何かを覚えている。
 二人は記憶を取り戻す事はないのに、それまでの自分の行動をトレースしていく。それが最善の道だと言わんばかりに同じ結論に達してその末に狂気に落ちていく。
 過去の四回のやり直し。いつも高橋は俺に依存として執着を深めていく。これをどうすればよいのか? まったく見当もつかない。

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