希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~

白い黒猫

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十三夜を君と

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 璃青さんの事が気にかかってしょうがない。何故璃青さんは最近あんなに哀しそうな顔をしているのだろうか?
  誕生日の時はとても楽しそうだった。でも思えば、そのあと見掛ける璃青さんは寂し気に見えた。何かあったのだろうか? もしかして元彼と何かあったとか? 俺は大きく息を吐く。
 「どうしたの? ユキくんため息ついて」
  芽衣さんが俺に不思議そうに話しかけてくる。ハロウィンディスプレイ用に、松ぼっくりといった小物を買いにエスポワールコリーヌに来ていた。澄さんの曰く『松ぼっくりだったらクリスマスにも使えていいから!』ということらしい。
 「芽衣さんは、元気ないときどうしてもらったら元気でますか?」
  そう聞くと、芽衣さんは何故かスゴク嬉しそうにニッコリと笑う。
 「何々? 若人よ! 早速恋の相談ですか~?」
  恋の相談というべきなのだろうか? でもただ好きな人に元気になってもらいたいだけなのだが……。
 「いや、だから、まだそういうのではなくて」
  俺がそう言っても、芽衣さんはニコニコしている。
 「でも、好きなんでしょ? その元気になってもらいたい相手の事が!」
  その言葉に頷くしかない。そう気が付けば好きになっていた。あの彼女が泣いていたあの後からなんか気になり、隣を気にして、何かあったら役に立ちたいと思っているうちにそこにばかり目がいっていた。夏祭りの浴衣姿にドキドキして、月見に誘ってもらってワクワクして……。そこで気になってくるのは璃青さんから俺ってどう見えているんだろうか? という事。
 「ところで芽衣さん、女性が月見を一緒にしようって人を誘う心情って何なんでしょうね」
  芽衣さんは俺の言葉にキョトンとする。
 「それって新しいわね。夏祭りとか花火とかクリスマスとか初詣を誘うのは分かるけど。
  でもそれってあからさますぎるようになるか……
 そうね~少なくとも好意をまったく持ってない人は絶対誘わないイベントだと思うわ」
  好意……ご近所さんで友達程度の感情はもたれているのは分かる。
 「月見といったら、十三夜がもうすぐね~」
  俺は初めて聞くその言葉に首を傾げる。
 「うーん、十五夜の次に美しいと言われているのが十三夜なの。そして十五夜をお祝したなら、十三夜も同じようにお祝しないと『方月見』と言って忌まわれるとか。それでセットで考えられているイベントなの」
  知らなかった、そんな風習があるなんて。
 「それってどういう感じでお祝するものなんですか?」
  ついつい聞いてしまう。
 「ん? 基本は十五夜と同じ。ススキか秋の七草を飾り十三個の月見団子と秋の果物をお供えして月を楽しむという感じかな?」
  月見か、いいかもしれない。月って人を癒す力があるし璃青さんに何かパワーを与えてくれそうだ。俺はそんな事を考え初めていた。
 「ありがとうございます! 素敵な情報教えていただいて!」
  芽衣さんは何故かそう言った俺の言葉を可笑しそうに笑う。
 「そんな、大したこと言ってないじゃない。
  でもさ、そうやって季節の一つ一つを大切な人と楽しむのっていいわよね! そういう事を積み重ねていける関係って素敵だと思う」
 「はい」
  芽衣さんの言葉に頷いた。これから璃青さんとそういう感じで思い出を重ねていけるのだろうか? 分からない。でも今のこの関係を大事にしていけたらいいなと思う。綺麗な月を見たら、璃青さんは元気になってくれるのだろうか? 俺はそんな事を考えながらディスプレイアイテムを持ちながら黒猫へと戻っていった。

  ※   ※   ※

 十三夜を調べていると十五夜と同じ場所で行うものと書かれている。となるとあの河原? しかし色々考える前に、肝心の璃青さんを誘わないと意味がない事に気が付き俺はBlue Mallowを訪ねる事にした。璃青さんは『いらっしゃい』と笑顔で迎えてくれるもののフッその表情に悲しそうな色を滲ませる。
 「金魚の様子を見に来てくれたの? ほら、この通り元気よ」
  まあここに来ればいつも金魚を眺めている事多いからそう言われてしまうとのは仕方がないけど、となると金魚を見るしかなくなってしまう。俺は金魚を眺める。金魚は元気そうで悩みとかもまったくなさそうに呑気に泳いでいる。
 「はい。金魚は元気そうで何よりです。
  ーー璃青さんは?」
  水槽から顔を向けると璃青さんは、ビックリしたように固まる。
 「え」
 「最近元気ないですよね? 悩まれているというか何か思いつめているというか」
  月見に誘いにくるつもりが、そうつい直球で聞いてしまっていた。
 「そんなことないよ?」
  そう言いながら、苦し気に顔を歪ませる。
 「じゃあどうしてこの間から、……ほら、そうやってすぐ哀しそうな顔をして、」
  そう言うとますます、璃青さんは顔色をなくしていく。オカシイ元気になってもらいたいのに、なんか追いつめているみたいだ。
 「透くんには関係ない。わたしは元気よ」
  そのまま俯いてしまう。そんな様子を見るとそれ以上何も言えなくなってしまった。
 「璃青さん、十三夜のお月見をしませんか?……二人で。
  あっ、ほらっ! 月見ると何か元気でませんか? 悩みが吹っ飛ぶというか」
  そう言ったら璃青さんは顔をスッとあげてくる。その動きの激しさで怒ったのかと思ったけど璃青さんは何故か泣きそうな顔をしていた。
 「璃青さん?」
  何故か璃青さんの顔はニッコリという感じの笑みを浮かべる。そしてまた俯いてしまう。
 「そんなの、彼女と行ったらいいじゃない。いくらお隣さんだからって、ちょっと元気がないくらいでそこまで気を使うことないわよ。少し疲れているだけよ」
  月見なんて行きたくないという遠まわしの断りの言葉?
 「彼女………? そんなのいませんよ」
  そういうと顔をキッとあげてくる。今度は本当に怒ったような顔をしている。
 「嘘。お花屋さんのあの人が透くんの彼女なんでしょう? わたし知ってるんだから。あの人と行けばいいのよ」
  何故、こんなに怒られているのだろうか? そして花屋さんって、芽衣さんの事?
 「え……あの、何の話をしてるんですか?」
 「彼女と一緒にいる所を見たの。いい感じじゃなぃ……」
  俺の言葉にすかさずそう言葉を返してくる。しかしその言葉も尻すぼみに小さくなっていった。俺は混乱してしまう。もしかして彼女がいるのに、他の女の人にチヤホヤしている人に思われたのだろうか?
 「それ、本気で言ってますか?」
  そう聞くと、璃青さんはビクリと身体を震わせる。誤解を早く解きたくて璃青さんに近づく。
 「え……だって」
 「芽衣さんのことですよね? 彼女のことは素敵だと思いますよ。……でも、俺の好きなのは、」
 「ほら、やっ…」
 「璃青さん、聞いて」
  俺の言葉を遮るように何か言ってくるので、俺はそう言って抱きしめてしまう。璃青さんが迷子になっている小さい子供のように見えたから。そしてその背中をそっと叩いてあげる。
 「何をどう誤解されているのか分かりませんが、芽衣さんって結婚されてますよ!
  ほら、お店の前にある派出所にいる真田さん、あの方が旦那さんです。
  あと……そもそも、芽衣さんの事そんな風に思った事もないです。
  ……俺が好きなのは璃青さん、貴女です!」
  そう言ってしまってから俺は内心慌てていた。しかもこんな風に抱きしめたままの体勢だから、璃青さんの表情が見えないから余計に怖い。
 「年下の俺は頼りないだろうし、俺じゃ釣り合わないかもしれませんが。
  ………本気です。貴女が好きなんです」
  こうなると、もう後戻りできない。俺はさらに想いを載せた言葉を重ねる。
 「そんなの嘘。絶対ウソよ………」
  璃青さんが身体を震わせ首を横にブルブル振っている。この言葉と、この身体の震えはどういう意味なのだろうか? 答えが見えない。
 「もっと頑張って璃青さんに似合う大人の男になります。だからもし、俺のことを少しでもそういう対象として見てくれるなら。………一緒に月見をして下さい」
  俺はそう言って璃青さんの小さい身体をギュッと抱きしめた。月見の意味が随分変わってしまったけれど俺も必死だった。
 「あの………“そういう対象”って、つまりその、“お付き合いしたい”ってことですか?」
  璃青さんが腕をすこし突っ張って俺から離れ俺の方を見上げてそう聞いてくる。頬が気持ちが高揚しているのか少し赤い。目のふちも赤くて少し色っぽくてドキリとする。
 「は、はい。できればその方向で……」
  もしかして、好きって意味通じていなかったのだろうか? 俺はそう補足してからなんか恥ずかしくなる。同じ告白するにも、こんな行き当たりばったりでなくてもっとスマートに男らしく見える方法もあった筈なのに……格好悪い。そういう自分にも落ち込む。
  一人で慌てていると、璃青さんがいきなりクスクスと笑いだす。
 「璃青さん?」
  笑みを浮かべているものの、俺を見つめている瞳は潤んでいた。その瞳にドキドキする。
 「透くん、ありがとう。嬉しい………」
  『嬉しい』その言葉にトクトクと心臓が鼓動早くなり、体温が上がる。回してた手に力が少し入る。しかし璃青さんは腕をつかってやんわり身体を離そうとする。
 「でも。ーーーー少し、考えさせてください」
  しかし璃青さんの表情から笑みが消え、冷静な瞳でそう言われ心が竦む。腰に回していた手もひいてしまった。
 「分かりました。………ゆっくり考えて下さい。………俺達のことを」
  往生際悪いと思うけど、そう俺はすがるようにその言葉を返した。どちらかというとサッサと答えをもらった方がスッキリすると思うのだが、その答えを聞くのも怖いので俺は逃げるようにBlue Mallowを後にした。
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