カッコウの子供

白い黒猫

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カッコウの子供

因果応報

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因果応報

 陽一の癇癪は、再びDSが手元にやってくるという事で収まり、一先ずは平和な時間を過ごす事ができた。
  今、ワガママを言うとDSの話が消える可能性があるのを分かっているからだろう。今だけは猫をかぶり良い子のふりをしている。
 『もうDSはいらないのね』 という呪文がいつまで効くのか? 同時にゲーム機を人質にとる姑息なこの手段。
 コレで教育といえるのか? とも考えてしまう自分もいる。

  週末はお姑と舅は友達と温泉旅行に出掛け、夫はゴルフという事で留守していた。
 陽一は自分を見ている眼が少なくなった事で、気が緩みきっているのか、暴れたりする訳ではないが、ジッなんてしてくれる筈もなく色々世話をやかさる。
 折角掃除した所にオモチャを散乱させる、高い所のモノ取ろうとして落ちて泣く、ジュースを溢し大騒ぎしたりと、面倒だけはしっかりかけてくる。
  お昼過ぎに弟の孝之はやってきた。私が玄関に出る前に陽一が元気に迎えに走る。
 「タカユキ、来たんだ、上がっていいぞ」
  その言い方にも、私はヤレヤレと思う。この態度のデカさは何なんだろうか? この家で一番エライと思っている所があるのではないだろうか?
 「おう! 来てやったぞ!」
  お持たせのシュークリームを手にした孝之は、その言葉に苦笑いをする。しかし偉そうに叱る訳でもなく自然にそんな陽一を受け入れた感じで楽しそうに会話をしている。
  目敏く紙袋に無造作に入れられたDSを見つけ手を突っ込み取りだそうとするのを孝弘は穏やかに止めて『俺のDSを、お前本当に大事に使ってくれるのか? 大丈夫かなぁ~?』と甘やかすだけでなく、陽一にシッカリ注意を促している。
 「大丈夫! 良い子になったから! 心配ないよ」
  調子良い笑顔で、『頂戴』というポーズをする陽一に、孝之は『本当かな~大丈夫かな~』と疑わしげな目を向ける。
  子供好きだとは思えないのに、孝弘は大人ぶらず自然に陽一と会話交わしている。
 叔父と甥っ子というか、兄弟のようだ。孝弘のキャラクターなのか和む光景になっている。
 陽一もいつもの『分かってる! 大丈夫だから! もうウルサイ!』と私の言葉には反発してくるのに、孝之の言葉には素直だ。
 必死で考えて受け答えして許しを請うて、DSを求める陽一が久しぶりに本当の意味で子供らしく可愛く見えて、微笑んでしまった。

  陽一はDSだけでなく、新しいゲームも手にはいったのが嬉しいようで、早速夢中になって遊んでいる。
 流石におやつの時は、厳しく言って辞めさせたものの、それ意外は画面を食い入るように見つめボタンを押している。
  その様子をどうかと思ったものの、その分久しぶりに弟と大人の話を楽しむ事が出来た。
 「陽一~、画面に目近づけすぎだぞ~あと背中が猫みたいになってるぞ~」
  私と会話を楽しみながらもちゃんと甥っ子を見ていて注意している。意外にも良い父親にもなるのかもしれないと思う。
 弟の意外な面を発見した。
  何故か孝之の言うことは、良い子ぶるのではなく素直に聞く陽一。
 舅と姑の注意には『いいの! コレで』と言い張りウヤムヤに誤魔化し、夫には『どうして? ……だから、どうして?』を繰り返し困らせて、結局ドチラの場合も私がその状況にキレて陽一が大泣きして収拾がつかなくなることが多い。
 私達家庭に問題があるのだろうかと思ってしまう。
  つい、私の子育てに対する不安と不満を口にすると孝之は何故か可笑しそうに笑う。
 「あのさ、その性質ってモロ姉貴の性格じゃん! 一度言い出したら絶対譲らない、小言にへりくつで返してくる、そして思い通りにならなかったらキレる!」
  確かに私は、良い娘ではなかったかもしれない。弟に冷静にそう言われてしまうと、私は恥ずかしくなり何も言えなくなる。
 「母さんもそうやって苦労してきたんだから、姉貴も大丈夫なのでは?」
  子供時代、家庭内では私がとにかく自己主張して生きてきた。その為、弟がずっとわがままを言う事も出来ず我慢させて生きてきた事に今更のように気が付き反省もする。
  因果応報と言われてしまうと、私は返す言葉もなかった。
 まさか大人になって子供時代自分の我が儘がこんな形で返ってくるなんて誰が思うだろうか?
 「でもさ、あんな自己中な姉貴が、ちゃんと大人になってそれなりのに良い奥様とお母さんになっているから。
 おふくろの小言も効いてないようで効いていたって事では?」
  私は弟の言葉に、苦笑して顔を横にふる。
 いつもカリカリして怒鳴り散らしていて、良い奥様だとも思えないし良い母親だとも思えない。
 でも孝之の言葉で少し気が楽になった。こうしてちゃんと受け入れて話を聞いて貰えるだけで人間って少しは癒されるものである。

  私と陽一だけなので弟を夕飯まで引き留めてしまう。
 それほど豪勢なモノを作ったわけでもないのに、一人暮らしの弟には久しぶりの家庭的な味だったようで嬉しそうにニコニコ食べてくれ嬉しくなる。
 食事作ってもらうことも当たり前となり、もう『美味しい』と『ありがとう』とかいった言葉も聞けなくなっただけに、弟の何でもない言葉も私に元気をくれた。
  食事が終わったら、陽一はさっさとテーブルを離れ自分の部屋に籠もりゲームを再開させてしまったようだ。
 「おお~やったー! 次俺の番!」
  孝弘が帰る時間になり、陽一の部屋にいくと息子は一人で遊んでいるとは思えない程、大声で一人言を話し騒いでいた。
 子供だからというのもあるけれど、陽一は一人言が多く、みたまんまを実況する癖がある。
 「子供って一人言が多いのよ」
  不思議そうにしている孝弘に私は説明する。一人っ子で兄弟がおらず淋しいかもしれない。そこにも少し申し訳なさを感じる。
 ドアを開けると陽一は何故か慌てたような顔をする。ずっと遊んでいる事で怒られると思ったのかもしれない。
 「お前、本当に大丈夫か? ゲーム機にずっとひっついたままじゃないか! ちゃんとお母さんが止めなさいと言ったら止められるのか?」
  シッカリと釘をさす孝弘に、大まじめな顔で陽一は頷く。
 「大丈夫! それに今だって良い子で順番で遊んでいたよ。仲良くちゃんと遊んでいたから」
  そんな甥っ子に孝弘は優しく笑い、その頭を撫でる。
 「ゲームが楽しいのは分かるけれど、ほどほどにするんだぞ!」 
 「タカユキ帰っちゃうの? もっとお話したかったのに」
  陽一の言葉に孝弘はフフフと笑う。
 「お前がゲームばかりしているからだろ! 今度はちゃんと俺と遊ぼうな!」
  陽一は嬉しそうに頷き、孝弘を見上げる。孝之は陽一を優しげに見下ろしてから、私に視線を『じゃ、そろそろ』と言い頷く。
 そして少し名残惜しげな陽一に手をふり、帰っていった。
 『タカユキニイチャン、バイバイ……』
  去っていく孝弘を陽一の肩に手をやり見送っていると、後ろからそんな声が聞こえた気がして振り向いたけれど誰もいない。
 当たり前である、家には今私と陽一しかいない。陽一が元気に声張り上げて『バイバーイ』と声だして見送っていたので、声が玄関内でおかしな反響をみせたのかもしれない。
 私は弟の姿が見えなくなると陽一を家の中に入れ玄関を閉めた。
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