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主人公にとってはエピローグ、この物語にとってはプロローグ的な風景

ある結婚の風景

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 白いタキシードに、白い手袋。どこぞの英国紳士といった格好の俺。典型的な日本人顔で日本人体型の俺にこの服装が似合っているとは、お世辞でも言い難い。
 こんな仮装のような格好するのは、恐らく一生に一度の事だろう。

 何故俺がこんな馬鹿げた格好をしているのかって? 今日は俺の結婚式だからだ。
 先程、ホテル内の教会で無事式を終えた俺と妻となる女性は、披露宴会場の入り口でやや緊張しながら出番待ち中。
 隣をみると、純白のドレスに身を包んだ彼女が、緊張した様子でブーケをギュっと握りしめ立っている。
 その様子がなんとも可愛らしく、思わず笑ってしまう。男と違って、女性はこういうドレス姿になると、ビックリするくらい雰囲気が変わる。どちらかというと『可愛らしい』という雰囲気の彼女が、今日は『綺麗』に見えた。

 同じ会社に勤め、映画という共通な趣味から付き合うことになり、交際一年で結婚という、ごくごくありきたりな出会いと恋愛から結婚することになった。
「緊張してる?」
 隣の彼女は、俺の言葉にコチラをみて縋るような目で見上げてくる。
「折角の俺達の結婚式、楽しもうよ」
 俺の言葉に、彼女はパッと顔を明るくして嬉しそうに笑う。
「ですよね! 二人で楽しみましょう」 
 そして手にしたブーケを胸元にあげ、気合いを入れるように深呼吸する。
 彼女の持つブーケは教会の時は流れるようなデザインだったが、今は、コンモリと盛り上がったまん丸な形でお月様のようなタイプのモノを持っている。まったくデザインは違って見えるけれど、実は二つは同じもの。挙式用の時にブーケの一部を取り外しでき、披露宴用の小さめカジュアルスタイルと変化する。さらに一部がブートニアになると色々、小技の効いた優れものなのだ。
 以前、月見里つきみさと百合子が、『凄いでしょ!』と、このブーケを俺の前で合体分解して見せて、楽しそうに自慢しているのを思い出す。
 まもなく扉の向こうで司会者の入場を促す声が聞こえ、二人で相談して決めた思い出の映画音楽のイントロが鳴り響く。
 俺達は頷きあって、腕を組み、胸を張り、おもむろに開かれた扉から披露宴会場へと踏み出した。

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