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第26話 エッチなのはダメですから

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「辰巳君、置いてけぼりはひどいと思います……」

「……さ、気を抜かずに二層も攻略しよう。お、早速デスポンポコだ。それにデスカマイタチもいるぞっ。気を付けなければっ! 一ノ瀬さん、構えてっ」

 デスカマイタチ。その名の通りデスポンポコのカマイタチ版だ。攻撃方法は鎌で直接切りかかってくるか、その鎌から風の刃を飛ばすというものだ。調子に乗った初心者モーラーはよくこれでリスポーンさせられるらしいから注意が必要だ。

「む、むぅ。なんだかはぐらかされた気がします」

 やはり勢いで誤魔化すことはできなかった。だが仕方ないだろう。子供じゃあるまいし、頭をポンポン触られるのはなんとも恥ずかしいのだ。

「辰巳君危ないっ!」

「っと……。一ノ瀬さんありがとう」

 デスカマイタチによる風の刃が首筋を掠める。白くうっすらとした真空波はかなり察知しにくく、避けづらい。一ノ瀬さんの声がなければ早速、首を切られてリスポーンしていたかも知れない。

「どうやら冗談を言ってる場合ではなさそうですね。集中しましょう」

「あぁ、そのようだ」

 それから俺たちは雑念を消し、目の前のモンスターたちと対峙する。だが──。

「一ノ瀬さん、大丈夫か!?」

「は、はいっ!」

 一層目と比べて一ノ瀬さんの動きがぎこちない。ダンジョン内では痛みやケガはないが、疲労はある。このデスポンポコとデスカマイタチとの戦闘ももう三十分以上だ。限界が来ているのかも知れない。

「俺が前線で引き付けるっ! 一ノ瀬さんは無理をせず体力を回復させてっ!」

「あ、違っ、前に出ないでっ!」

「え?」

 俺がモンスターを引き付けるため前に出ようとした瞬間、一ノ瀬さんに引き留められる。

「その、あの、デスカマイタチの風で辰巳君のパンツが全部見えてて、集中できないんですっっ」

「はぇ? え、あ、えぇ、マジか、いや、そうだよね。ごめん」

 俺が履いてるパンツは何の変哲もない黒のボクサーパンツだ。見られても何も思わなかったが、確かに年頃の女性に常にパンツを見せながら戦闘しているのもおかしな話だ。だが、どうすれば──。

「実は、戦闘しながら宝箱を開けてました。その中に【ポンポコステテコ】がありました。お願いします。それを装備して下さい」

 一ノ瀬さんが単身で突撃して危うい場面が何度かあったがそういうことだったのか。

「了解だ。変な気を遣わせてしまってすまない。装備【ポンポコステテコ】! よし、第二ラウンドと行こうか」

「はいっ」

 ポンポコステテコはデスポンポコの皮で作られた七分丈のズボンだ。これならもう一ノ瀬さんを惑わすことはない。いざ参るっ。

「「ハァァァアアアッッ!!」」

 タンッ、タンッ、タンッ、ザクザクザクッ、ドォーン、ドォーン。

「「ふぅ……、ん?」」

 辺りのモンスターを倒し切った所で同じタイミングで息をつく。

「フフ」

「ハハ」

何が面白いのか、それで二人して笑ってしまった。

「さっきまではごめん。ダンジョンではゴブリンの腰ミノでずっといたからあれが普通だって、神経がマヒしちゃっててさ」

「いえ、私の方こそ変なことを言ってしまい、すみませんでした。あと、そのステテコの方が似合ってますよ」

 はにかみながらステテコが似合ってると言ってくれる一ノ瀬さん。

「ハハ……、ありがとう」

「いえ、フフフ」

 微笑み合う俺たちの間を爽やかな風が通り抜ける。

(って、いや、ステテコ似合ってるってちっとも嬉しくないんだけどもっ!)

 これを嫌味で言ってるわけでもからかってるわけでもないんだから一ノ瀬さんって不思議な人なんだよな。俺はそんな風に思いながらも、まぁそこまで悪い気はしなかったが。

「さて、思ったより時間が掛かったな。この次は三層か……」

「そうですね、三層は確か……」

「あぁ、デスウルフが出る」

 デスウルフ。デスポンポコやデスカマイタチと同じように紫色のオーラをまとった狼型のモンスター。群れを形成しており、連携も得意と聞く。更にその素早さやタフネスはタヌキやカマイタチの比ではないだろう。万全を期すべきだ。

「どう? HPは回復した?」

「はい。HPポーションとスキルの自動回復で最大値まで回復しました」

「良かった。じゃあ行こう」

「そうですね。ちなみに辰巳君は被弾したんですか?」

 俺は自分の身体を見回した後、HPを確認する。自動回復スキルなんてないから減っていれば減りっぱなしなのだが、そこには変わらず10/10と表示されていた。

「一ノ瀬さんが守ってくれてるお陰で今のとこは被弾してないよ」

「……そうなんですか、やっぱり辰巳君はすごいですね」

 良くも悪くも一ノ瀬さんは素直で正直な性格っぽいからこういう風にストレートに感心されると少しむず痒い。

「いやまぁ、確かに不思議だよなぁ。いくらE級ダンジョンとは言え、このステータスとスキルじゃ全回避なんてできない筈だろうに……。もしかして……」

「? もしかして……?」

 俺は顎に手を当て、神妙な顔をする。一ノ瀬さんがジッと固唾を飲んで、言葉の続きを待つ。

「俺って天才なのでは?」

「…………ハァ。もう、辰巳君ふざけないで下さいっ」

「ハハハ、だが、昨日天才と言ったのは一ノ瀬さんの方だろ、って、まだ一日しか経ってないのか……、もうなんだか随分昔のように感じる」

「……確かに。フフ、辰巳君の敬語が懐かしく思いますね。あ、私をからかった罰として三層はずっと敬語というのはどうですか?」

 ずっと敬語……。俺だけ? それだと面白くないな……。

「あー、じゃあ一ノ瀬さんが逆に敬語を取ってくれるならね?」

 俺は挑発的な笑みを浮かべ、そう提案する。これに対し一ノ瀬さんはクスリと笑い、

「では、勝負します?」

 俺以上に挑発的なことを言ってのけた。

「お、いいね。俺はタメ語を使ったら負け」

「私は敬語を使ったら負け」

 俺たちは口元にだけ笑みを浮かべ、視線の方ではバチバチと火花を散らす。

「負けた方はどうする?」

「んーーー、思いつかないので、ダンジョンから帰ったら勝った方の言うことを一つ聞くってのはどうですか?」

 勝った方の言うことを一つ……、だと?

「……いいだろう。その勝負乗った」

「でも、エッチなのはダメですからね?」

「な、なにを言ってるんだ? 当たり前だろ。そんなの」

 最初の「な」が裏返ってしまったため、説得力はゼロだ。ジト目で一ノ瀬さんが睨んでくる。

「あーーーー!!」

「!? どうしましたっ!?」

 俺は遠くを指さし、大声を叫ぶ。一ノ瀬さんは慌てて振り返り──。

「三層への転送門見っけ! じゃあ三層に降りた時点からスタートね! よーい、ドン!」

「あ、またっ、私を置いてけぼりにっ! 辰巳君、待って下さいっ!」
 
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