二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた

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俺は二人とも愛しているんだ!

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 どうにも今日はしんみりした気持ちだ。なんだか自分の人生を振り返ってみたい気持ちだ。
 子供の頃、TVで見ていた格闘家達がとてもかっこよく見えた。だから俺も憧れて、格闘技の世界へと入った。ただ、親からは最低限大学も卒業して資格もとっておけと言われたので、しばらくは大学生キックボクサーとして戦いながらも、教員免許を取得し、人生の逃げ道は作っておいた。
 そしてようやく格闘技に専念できるようになり、ひたすら体を鍛えまくっていた。しかし思うように戦績が残せなかった。気が付けば二十代も終わり、頃合いと思い引退を決意した。
 俺に残ったのは傷だらけの鍛え抜かれた体だけだった。恋人を作る余裕もなかったし、金もほとんどは体の治療費や生活費で消えた。
 それからだが、なんとか教員採用試験に受かり、体育教員になることができ、まあまあ安定した生活を送っている。
 そして時はたち、いつのまにかアラフォーと言われる年頃になってきた。
 今日は俺の勤める高校の卒業式、受け持っていた生徒達を見送り、やるべきことをこなしていたらいつのまにか夕方だった。
 俺も今日の仕事を終えて帰る時間となっていた。

「んっ?」

 下駄箱に封筒が二つ入っている。どちらもハートのシールで封をされており、完全にラブレターなるものだ。

「ラブレター自体も珍しいが、それが二つとはまた異様に珍しいことだ。まあ俺みたいな奴に告白する女なんているわけがねえし、どうせ俺にしこたまやられたクソガキのいたずらだろ」

 校内はいわゆる不良・ヤンキーが多かった。校内でけんか、たばこ、カツアゲはよく見かけ、その度に俺が止めに入った。生活指導室で多くの生徒に二度とするなよと、トラウマになるほどの怖いお説教をしてきた。

「まあ、俺をリンチしようというなら返り討ちにするか」 

 どちらのラブレターも名前も愛しているといった文章も書いていなかったが、指定場所は学校の屋上だった。屋上は基本閉鎖されているのだが、いつごろからか生徒の間で合鍵が出回り、屋上に出入りする不届き者が続出した。俺はそいつらから鍵を募集したが、それでも合鍵が出回り続けている。
 屋上の扉の前までやってきた。鍵は開いているようだ。
 
がちゃん

 屋上の扉を開けると大きな夕焼けが見える。まさに告白にはうってつけのシチュエーションだ。まあ本当に告白であればな。

「せ、先生」

「よう、かじっちゃん」

 二人の生徒が声をかけてた。どちらも今日卒業していった生徒である。
 片方は地味ながらも、体格が大きいのに、よくいじめられていた篠田という男子生徒だった。なんどか相談に乗ったことがあり、その度に体を張っていじめっ子共を成敗してきたので、とても記憶に残る生徒だ。
 もう一人は学内一問題行を起こしていた谷口という男子生徒だ。こいつは俺によくたてついてきた生徒だ。どういうわけか俺につっかかってくることが多く、一番指導してきたかもしれない。こいつもまた記憶に残る生徒だ。
 どちらもどういう目的で俺を呼び出したか、大体見当がついている。

「本来であれば屋上に生徒がいるのはご法度だが、今日でお前らは卒業だ。大目に見よう。お前達、要件はなんだ?」

「かじっちゃん、要件は見当がつくだろ?」

「これか?」

 俺は谷口に拳を突き出した。

「おい、まさか俺がかじちゃんに喧嘩を売っていると誤解しているんじゃねえよな?」

「ん、違うのか?」

「違うに決まってんだろ! あんたに告白するために呼び出したんだよ!」

 俺は一瞬演技かと思った。しかし、谷口の顔に恥じらい交じりの赤さが滲み出ている。どうやら本気のようだ。

「お、俺だって梶原先生のことが好きなんだから!!」

 篠田まで谷口に対抗するかのように愛を表明してきた。
 予想だにしなかった事態に俺はどうしたもんかと困った。

「お前らの愛はよく分かった。しかしだな、俺はもうお先の暗い中年、そしてお前は未来ある少年だ。俺と付き合わずに女の子と付き合い普通の家庭を持て、それが一番幸せだ」

「おい、かじっちゃん」

 谷口が俺に距離をつめてきた。

しゅっ

 谷口の右ストレートが俺の顔面に飛んできた。俺はすかさず顔を左にずらした。右頬が微かに熱くなった。谷口の拳は俺の頬を切ったのだ。見なくとも、頬を血が伝う感覚がよく分かる。

「男が覚悟決めて告白しに来たんだ! 逃げた意見かますんじゃねえ! 嫌いか好きかはっきり言えってんだ!!」

「お、俺も谷口君と同じ意見です。梶原先生! でないと俺、卒業したくないです!!」

 二人の生徒が俺に対し、正直に心をぶつけてきている。俺も覚悟を決めないといけない。

「お前ら、俺は心からの本音を話す。いかなる答えが返ってきても後悔はしないと約束してくれるか?」

「おう! ふったらぶん殴るからな!」

「お、俺は……お願いだから選んで下さい!!」

 俺はこれまでの人生でのらりくらりと交わして、告げてこなかった真実がある。もしかしたら今日はそれを言うチャンスなのかも知れない。

「まず俺は男が好きだ。だから結婚もしてねえし独身だ。ここまではいいか?」

 谷口と篠田の表情が期待の眼差しをこめたものとなった。告白してきた相手が同性愛者と分かれば、必ずどちらかに告白する可能性が高いと思ったからだろう。そして、ここからが俺にとって鬼門だ。自分がゲイ告白するよりも言いづらいことだ。

「そのな、俺はその、二人がな……」

「はっきり言って下さい梶原先生!」

「そうだそうだ! 見た目の割にシャイぶるなよ!」


「俺はな……お前達二人とも好きなんだ……」

 篠田と谷口の時間が一瞬止まった。二人とも一番予想していなかった答えが返ってきたからだろう。

「こんなむさい中年教師が未成年の男子生徒に、しかも教え子二人に対し愛情を持つのはおかしいと思った! しかしな、俺はお前達が一年生の頃から他の生徒よりも密に接する機会が多かった! 篠田!」

「は、はい!」

「お前は頑張るのが得意な生徒だった! 特に自分のいじめについて解決しようと必死だった! そして俺はお前の境遇を変えたいと頑張った! お前がいじめていた生徒共をボコボコにした時は叱るよりもよくやったなという気持ちになった! お前の頑張る姿をいつまでも見れたらなと思うくらいだ! そして谷口!」

「な、なんだよ」

「てめえは俺の教師生活で一番のクソガキだった! 生徒の中で一番俺がぶちぎれたがお前だ! でもな、お前とぶつかり合うのがいつの日からか毎日の楽しみになっていた! 卒業してもお前といつも一緒にやりあいいたいと思うぐらいにな! これが俺の気持ちだ!」

 俺も二人に負けじと自身の溜めてきた思いを全力でぶつけた。ただ、二人とも愛しているという応えに両者とも納得はいかないだろう。

「くぉらぁ! どっちも好きってどういうことだぁ! 優柔不断やってんじゃねえぞ!!」

「そうだよ梶原先生! もうどんな方法でもいいからどっちかを選んでよ!」

 予想通りの答えが返ってきた。まあそうなるわな。

「うるせえな! お前ら二人とも好きなんだからしょうがねえだろ! 二人とも嫁にしたいくらいだ! ここまで言えば上等か!!」

「ようし、こういう場合はどっちが強いかで決めるもんだ! 篠田! 俺とタイマンでやれ! 勝っても負けても恨みっこなしの決闘だ!」

「えええ!! お、俺だってやる時はやるんだ!!」

 いかん、俺のために喧嘩をしてしまう雰囲気になってきている。このままほうっておくのは非常にマズイ。

「馬鹿野郎! 二人とも頭冷やせ!!」

「誰のためにこんなことになっていると思うんだ!」

「そうだよ! 梶原先生が魅力的で、優柔不断だからこんなことになっているんだよ!」

 二人の怒りはごもっともである。何とかこの場を丸く収めなければならない。

「分かった。この場ですぐに決めることはできない。一ヶ月の猶予を与えてくれないか? その間にお前らとの交流もといデートを行うと約束する。それでどっちと付き合うかを決める。それで了承してくれねえか?」

 二人は少し悩んだ様子を見せる。そしてほぼ同タイミングで結論は決まったようだ。

「分かった。かじっちゃんの言うとおりにする」

「俺も同じくです! でも梶原先生と最初に犯るのは俺ですから!」

「篠田ぁ! なにちゃっかりセックスの約束しようとしているんだ! かじっちゃんのけつは俺が最初に頂くんだ!」

「谷口君といえど、それだけは譲れない! 君と拳を交えてでも先生のお尻を頂くよ!」

 何やら変な流れになってきているな。ここいらで止めないとまずいことになる。

「おい、お前らの話を聞いていると俺がネコをやるという前提になっているが、お前らはこんなむさい中年のおっさんを抱きてえのか?」

「当たり前です!」

「当たり前だ!」

 二人の声がちょうど良くはもった。

「先生の分厚い胸板とか、太くてたくましい腕とか、水泳の授業の時に見たバキバキに割れた腹筋とか、魅力的な体すぎて今すぐにでも抱きたいくらいです!!」

「気が合うな篠田、俺はそれに加えて無精ひげや毛深い体つきもチャームポイントだと思っている」

 こいつら、この歳にして筋金入りのゲイだ!?

「そんな簡単に抱かせるほど、尻軽男じゃねえぞ」

「なにぃ! じゃあそうだ! いっそのこと俺達二人でかじっちゃんを襲えばいいんじゃね! 篠田もいいだろ?」

「お、俺は、梶原先生を抱けるなら強引にでも!」

 谷口、篠田が野獣の目をして俺に向かってくる。

「おい! 正気を取り戻せ!」

「正気だぜ、俺達はただ本能のままに正直に動いているだけだ!」

「そうです! 俺達は自主性を重んじて自らの性欲が導く道を歩いているのです!」

 まずい、もう理屈で止められる状態じゃない。この時間帯では俺達以外の人が来る可能性も低い。つまり第三者がこの場を何とかするなんて事はまずあり得ない。

「犯らせろかじっちゃ――ん!!」

「責任とりますのでお尻をくださ――い!!」

 向かってくる若造二人に対し、俺は条件反射的に拳を突き出した。

ごっ ごっ

 はっ!? しまった!! フルスイングで谷口と篠田の顎に左右のフックを当ててしまった!! 拳にかなりの手応えがあったからまずいぞ!!

ばたん ばたん

 やばい、二人とも倒れてしまった……。正当防衛なんて理由通じねえよな。このままでは俺は暴力教師として警察さんのお世話になっちまう。

「くそっ!」

ひょい ひょい

 俺は米俵を運ぶように、篠田と谷口を両肩に乗っけてその場を後にした。それなりにパワーには自信があるが、体格の良いガキを二人もしょって歩くと、結構キツいな。とりあえず、俺の車に乗っけて、自宅で休ませるか。親御さんにも後で連絡しよう。
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