無機物カップリング♡

あさきりゆうた

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壁と床~今日はどっちがタチをやる?~

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 無機物にも魂が宿るというお話がある。
 それは物語の中だけではない。
 とある家の中の一室の床と壁にも人間と遜色ない魂が宿っていた。
その家に住む家族が全員外出すると、彼らはお話をした。

「床さんは凄いね。いつも皆に踏まれているし、重い家具を載せられてもびくともしない。うらやましいよ」

「いえいえ壁さん、あなたも画鋲で何カ所も刺されていますが、なんとも言わないじゃないですか。僕だったら痛くて悲鳴をあげていますよ」

 そして彼らは時々愛し合っていた。

「床さん、今日は僕がタチでいいかな?」

「いいよ壁さん、家族もいないし遠慮なく犯って」

ぎし ぎし

 壁が前後に振動をした。床もそれに呼応し振動する。どちらもぎしぎしと音をたてる。まるで人間の正常位のようであった。

「ここの人間達は寂しがりながらもいつも決まった時間に離ればなれになる。でも僕はこうやって床さんといつでも愛し合える。なんて幸せなんだと思う」

「僕もこうやって壁さんの愛を確かめられるのがとても嬉しいです」


ぐら ぐら ぐら

 彼らの愛が激しくなると、家も激しく揺れる。
 家というのは基本的に地震が来ても一切揺れない。
 しかし魂の宿った壁や床は愛し合うチャンスだと言わんばかりに愛し合い、それが家の揺れにつながる。
 人々はその揺れを地震によるものだと勘違いをしていた。

「今日も激しいですね壁さん。この前地震が来た時に激しくしたものですから重いタンスが倒れちゃいましたよ」

「ごめんなさい床さん、あの時は痛かったですよね」

「痛かったですよ。ですからその分今日は愛し合って下さい」

ぎしん ぎしん ぎしん

 彼らはやがて最高潮に達し、揺れも徐々に弱まっていった。



 ある日のことである。明るい時間帯にとても大きな地震が来た。

ごごごごご

「壁さん! 今までに感じたことのない地震です! 今日は僕がタチをやらせていただきますよ!」

「床さん、あまり僕の壁紙を壊さない程度に加減して下さいね」

ぎっしん ぎっしん ぎっしん

 それは人間で言う騎乗位、床の上下の揺れに呼応し、壁も揺れた。


「すごい! 地震の揺れと床さんの動きが重なって僕壊れちゃいそうです!」

「壁さん! 僕もとっても気持ち良いです!」

 そして度々大きな余震も来た。彼らは最高のチャンスだと言わんばかりに愛し合った。
 しかし、彼らは異変に気付いた。

「家族の皆さんがここ数日帰ってこないですね」

「本当、皆さんが大きな荷物を抱えても一週間もすれば帰ってくるのに……」

「それになんだかだるい気持ちがします。今までこんなことなかったのに……」

「僕もです。何か異変が起きているのでしょうか?」

 彼らは気付いていなかった。
 未曾有の大地震により、家族は別の地へ避難していたのだ。
 そしてこの住宅の付近には原発が近く、地震後の指揮の不手際のせいで、あたり一帯に放射線がばらまかれていた。彼らは知らず知らずのうちに被爆していたのだ。



 それから数年、彼らは家族を待ち続けた。彼らの魂は段々と放射能で弱まっていた。埃を被り、時には獣が住居に入り込み彼らをを汚して傷つけた。

「壁さん、なんだか眠いよ……」

「床さん、僕もだ……まだ明るい時間なのに……」

「もう何年も会っていない家族の皆さんの話で聞いたことがあるよ、いつしか寿命が来て、皆とさよならすると……」

「そうか……きっとその時が近いのだろうね……僕はもう疲れたよ。それに床さんにこんな汚れた姿は見せたくない……」

「そんなこといったら壁さん、僕だって酷く汚れてしまったものさ。でも壁さんへの愛は全く昔のままさ」

「床さん、僕もさ。でも寿命が来る前に床さんにもっと寄り添い合いたいと思うんだ。ずっとこうやって一部だけが触れ合っているのも決して悪くないけど、家族の皆さんみたいに抱きしめあいたいな……」


「ははは、そうだね、家族の皆さん元気にしているかな……」

がしゃん

 突然屋内に物音が聞こえてきた。人の話し声も聞こえてくる。その正体は解体業者の男性達だった。作業員の一人がバックホウを操り、家を破壊していった。

ばき ばき めき めき

 壁は支えを失い床に倒れた。

「ははは、あの人達は僕達の死期を察して、最高の気遣いをしてくれたんだ! こうやって最後に床さんと一緒に寿命を迎えられるからね!」

「本当に嬉しいよ。僕等は人みたいに笑ったり泣いたりしないけど、顔があったら笑顔のまま寿命を迎えているよ!」

ばき ばき がしゃーん

 家が完全に崩壊した。その様子を見て解体業者は不思議に思った。老朽化により、バックホウで触っただけで大半の部材が壊れやすい状態だったが、壁と床は原型を留めた状態だった。
 それはまるで愛する恋人同士が寄り添うかのようだった……。
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