電脳恋愛のすゝめ

コトシナミノル

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第22話 無の時間

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 カーテンの隙間から差し込む日差しが僕を貫いた。
 目元を照らすそれはひどく煩わしい。もう少し寝かせてくれてもよかったじゃないか。
 だってこんな世界、生きていてもなんの意味もないんだから。

 時計を見ると、すでに時刻は正午を過ぎようとしていた。
 長年の生活で築き上げられてきた生活リズムは3日もすればもうボロボロだった。何事も一からコツコツと作り上げるのは難しいが、それをぶっ壊すのは容易である。身をもってそれを体感しても、後に残るのは虚しさだけだった。
 自室から出て、階段を降りる。
 当然ながらリビングに両親はいない。
 冷蔵庫を開けると食料だけは豊富にある。
 炊飯器を見ればほんのり温かみが残っていたものの、中は空っぽだった。
 水で少し内釜を冷やし、米櫃からカップ2杯分の米を入れる。
 米をとぎ、白濁した汁を捨てる。同じ作業を2回ほど繰り返し、2合のラインの少し下に合わせ、早炊きスイッチを入れる。
 それから電気ケトルに水を少し入れ、こちらもスイッチオン。
 続いてフライパンに少量の油を引き、弱火でかける。薄く油が引き伸ばされたそこに鳥もも肉をそのままのせた。
 ジュワアアァァ……という音とともに油と鉄がもも肉を焼いていく。
 足元の引き戸から塩と胡椒を取り出し、もも肉の表面に2、3度軽く降る。
 更に醤油、みりんを取り出してそれぞれ大さじ1杯ずつもも肉の表面にかける。
 蓋を閉め、油と調味料が染み込むまでじっくりと弱火でもも肉を炙ることにした。
 再び冷蔵庫を見渡せば、ところ狭しと野菜が賑わっている。もう一品調理することも考えたが正直面倒だ。まるまる太ったレタスをひょいと掴み、一枚一枚、丁寧にちぎる。一口サイズにちぎったら皿にのせていってサラダは完成だ。
 フライパンの蓋を開け、もも肉をひっくり返す。程よく焼き目がついていい感じだ。僕は裏面にも塩胡椒を振ってそのまま蓋を閉じた。
 時折火の様子を見つつ、リビングの空いたスペースで本日の自重トレーニングを開始する。
 僕は正しいフォームを意識しながら、そして雑にならないように腕立て伏せ、上体起こし、スクワットをそれぞれ20回ずつこなす。少ないと思われるかもしれないが、実際しっかりやるとそこそこキツイ。それに量や負荷が多すぎれば毎日は続かない。継続は力だが、続かなければ無力に終わってしまう。だからこのくらいが続けるにはちょうどいい。
 そうこうしてたら鶏肉がいい感じに仕上がっていた。フライパンから先ほどレタスを敷き詰めた皿へと油ごとダイブさせる。
 戸棚からインスタント味噌汁の素を取り出し、味噌汁用の茶碗へとニュルニュル入れる。電気ケトルから注いだお湯が味噌汁の素と溶け合い、味噌の良い香りが鼻腔をくすぐった。
 パンっ!!という音が部屋に響き渡った。
 ご飯が炊けた合図である。米を炊く機能しか存在しない我が家の炊飯器は炊けた瞬間も主張がシンプルだ。
 蓋を開き、しゃもじで2、3度軽くかき混ぜる。湯気が熱いので、そのまま茶碗にさっさとご飯をよそう。
 完成した品々をテーブルに置き、冷蔵庫から出した麦茶をコップに注ぐ。

「いただきます」

 僕の1日が今日も始まった。

 遅めの朝食を終え、僕はコントローラーを手に取った。
 ゲーム機の電源をつけ、画面を立ち上げる。
 ゲーム機にダウンロードした数々のソフトを眺め、今日は何をしようか思いを馳せる。

「……ま、これかな」

 僕はTD(トワイライト・デスティニー)のコレクションパックを選択した。
 TDは過去に様々なハードで取り扱われ、正直ファンの間でもその全てを集めているのはごく少数だった。そのため、今まで発売されたタイトルを一つのハードにまとめて発売したのがコレクションパックだ。
 せっかくこれだけ時間が有り余っているのだから、長編のRPGをするのも悪くはないと思い、僕はしばしの間TDの世界に没頭した。


 僕は学校を休み、完全に引きこもっていた。
 引きこもることに決めた理由は大きく分けて二つ。
 一つは学校に行く意味を見出せなかったからだ。
 元々学校に行く意味なんてわからなかった。物心つく前、それこそ幼稚園から長い間集団生活を強要されてきたが、ずっと他人と生活しなければならない意味を疑問に思っていた。小学生くらいまではそこそこ上手くやってこれたが、中学に上がって破綻した。それもとてもくだらない理由で。
 もう一つはうちの両親にあった。
 小学生の終わりに至るまで、娘が自身を男だと思っていることに何の干渉もしなかった親である。両親は基本仕事で家を空けることが多く、完全放任主義だった。今回も自分が中学でいじめに遭っていると母に珍しく相談したら

「じゃあ休んじゃえば?」

 の一言を頂戴した。
 僕は不覚にも「あ、その手があったか」と思ってしまった。親の了承もいただいたので正直学校に行く理由が無くなってしまった。
 そんなわけで、僕は学校を休み、しばらく自身の殻に籠ることにした。これを機に、自分のことを少し見つめ直そうと思ったのだ。
 自分を見つめ直すなんて若造が何を……と大人たちは思うかもしれない。13年という薄い歴史しか持たない僕には振り返る思い出など一瞬だ。けれど、世間からズレにズレてしまった自身の性別の問題にある程度の決着はつける必要があった。
 引きこもることがその解決策になるのかはわからない。ただ結論を引き伸ばしているだけなのかもしれない。けれどじっくり腰を据えて考えるには学校生活は慌ただしく、あの教室はその場所に相応しくないのは確かだ。

 それから僕は1年間引きこもり続けた。
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