乞食専門店適当庵実録

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蓬莱島探索行 其の壱

　そこで貴龍院丑寅が「今日は蓬莱島を探索に行く。それで君もここへ来たと言うわけだ」と私の目をしっかりと見つめていったので、いささか戸惑いつつもその勢いに押されて「は、はあ。そうですか。では行きましょう」と辛うじて応えた。

　坂江寿夷が「裏の浜に舟を用意してありますので、急いで参りましょう」と言ったので、口裂け女改め道子さんも何故か含めて四人で蓬莱島へ行くことになった。

　四人が舟に乗りこんだところでいざ出発となったのだが舟は動かない。動かなくて当然である。舟は未だ白砂の浜の上に乗り上げていて波が舳先を洗っている始末である。

　そこで貴龍院丑寅が私に目配せをして、顎をしゃくる仕草で私に降りて舟を押せと訴えた。私はえっ？そこは人力？と思ったが、どうもそのようなので仕方なく舟を降りて、前回のガス欠自動車の時のアドバイスを思い出しながら、腰を使って身体全体で舟を押しだすと舟は海へと乗り出して、瞬く間に沖に向かって20メートルほど動いたので、驚いた私は慌てて水の抵抗を受けつつも懸命に足を運んで舟まで辿り着き乗りこんだ。乗りこむ時に舟の縁に全身を乗せたので、舟は大きく右に傾き結果として道子さんは海へと放り出される形になった。海に放り出された道子さんは、どうやら泳ぎ方を知らないようでそのまま海の中へと沈んでいったが、貴龍院丑寅はそれを見て澄ました顔で「まあ、大丈夫だ。土左衛門になって蓬莱島に来るだろう」と言った。それって死んでいるってことじゃないのか？と一瞬私は思ったが、すぐにそれも有りなのかも知れないと思い直した。その心を読み取った貴龍院丑寅は、私の方を見てニヤリと笑って「だんだんと解って来たようだな」と言った。

　坂江寿夷も道子さんを気遣うことなくそのまま舟を漕ぎ進める。闇雲に漕ぎ進める。方向は分かっているだろうがどうも闇雲っぽいので私が不安に思っていると、坂江寿夷は私の方を振り向いて「闇雲です」と言ってニヤリと笑った。

　「えっ？闇雲なのですか？行ったことあるのでは？」と私。
　「ありません。まったく場所も知りません」と坂江寿夷。
　「じゃあ、漂流じゃあないですか」と私。
　「ええ。漂流です」と坂江寿夷。

　闇雲な航路を進む舟はどんどん沖へと向かう。視界が及ぶ範囲における判断になるが、海を航行している舟はこの舟だけである。地上であるならば、迷っても交番もなければ聞く人もいない状態に等しい。

　「ポーカーをやろうか」とこの状況で貴龍院丑寅が言い出した。一体なにを考えているのだと私が思っていると、海の中から龍神が現れて「やろう。やろう。今度は負けないぞ」と言った。龍神は持っている龍珠が邪魔になるとのことで「ちょっとこれを持っておいてくれないか？」と軽い荷物を気軽に預けるように私に向かって放り投げた。ドゴッ！と龍珠が私に激突して肋骨に衝撃が走った。その後の私は呼吸がスピースピー状態に陥った。多分肋骨が折れて肺に刺さったのだろう。しかしながらそんなことはお構いなしに貴龍院丑寅と龍神は二人でポーカーをやり始める。坂江寿夷は私のスピースピーに気づくことなく舟を漕いでいる。

　もう、もう死ぬる。と私が思っていると、海の中から光が複数飛び出してきて、私の体内へ飛び込んだ。すると不思議なことに状況が回復してスピースピーもなくなった。さらに光は私を癒してから私の中を出て、私の代わりに龍珠を捧げ持ってくれたのでさらに助かった。落ち着いて光を観察してみると小さな天使の様相をしていたので、何者であろうかと心で思ったところ「私たちは天使です」と光たちが声を揃えて答えた。何の捻りもない答えに私が当惑すると光たちは続けて「それ以上は、私たちにも分かりませんから」と答えた。それならば仕方ない話である。

　しばらくはポーカーをやっていた龍神も「用事が出来た」と言って天使の捧げ持っていた龍珠をスーッと自らの掌に引き寄せて再び手中に納めると、近くに私たちの舟があることなどお構いなしに勢いよく海の中へと飛び込んだ。その勢いで転覆するかに思えたが、さすがは恵比寿さんである。転覆しかかっていても動じずに、そのまま蓬莱島の方向と思しきに向かって櫂を巧みに操って舟を進める。それからしばらくして坂江寿夷が、「やっ、見えてきました」と言ったので、彼の視線に合わせて同じ方向を見てみたが、コンクリートだけが見えるばかりで島という感じはまったくしない。判別がつかないので思わず「どこですか？」と無意識に問いかけると、「まだもう少し近づかないと変容は致しませんよ」と坂江寿夷はニコリと笑いながら私に答えた。まぁ、そういうものなのだろう。と私が思ったところ、「まぁ、そういうものだ」と言って、今度は貴龍院丑寅が私の肩をポンと叩いた。