黒ウサギの雲の向こう

枯葉

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十三話

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十三

 十五夜の夜。
 
 朝に降っていた強い雨は夕刻には止みましたけれど、未だに空には厚い雲が掛かり、月が姿を現す気配はありませんでした。
 そんななか、闇夜に紛れて獣道をぬかるみに足をとられながらも、前に進んで行くウサギ達がいました。
 
 最後の作戦は知恵うさぎ曰く、少人数でも充分な成果があげられるらしく最初のときと同じ構成の、力うさぎ、知恵うさぎ、猿うさぎ、煤ウサギの四匹で決行されました。
  
 程なくして森と村との境界の小高い丘に着いたところで、一行は村を偵察しました。

「確かに、どの家も雨戸を開けてなにかやってるな」
 力うさぎがそう言いました。
「やっぱり、僕の思った通りだ。人間達はお供え物をして、今か今かと、雲が晴れて月が顔を出すのを待ってるんだよ。あの畑近くの家の、縁側にある台の上に、小さな白くて丸い物が積んであるのが見えるかい? アレがお団子ってやつだよ」
 トツナから聞いたお団子というものが気になって、煤ウサギは知恵うさぎが示した方向の家を注視しました。

「おいらも見るぅ」
 猿うさぎは近くのクヌギの木に登って、上から村を眺めました。

「ふむ。どうやらあの家は留守かもしれないな。今が好機かもしれないな。このまま畑のあたりまで近寄ってみないかい?」
 知恵うさぎは力うさぎに提言しました。

「いいだろう。もう少し近くまで行って様子を探ってみるか。よし、みんな俺に続け」
 そう言って走り出そうとする力うさぎの前に、知恵うさぎは慌てて飛び出し制止しました。

「いやいやいや、先頭を行くのは煤ウサギが適任だよ。煤ウサギならその毛色で、闇に紛れられて見つかる可能性が低いからね」
 皮肉を交えながら、そう言いました。
 
「……そうだな。煤ウサギ、先頭を歩いてくれ」
 力うさぎは珍しく賛同するように頷いて、煤ウサギに命令したのです。
 
 一番危険な先頭を歩いてくれなんて、力うさぎが言うとは驚きでしたが、何か考えがあってのことだと思い、すぐに頭を切り替えました。信頼している力うさぎの決めたことなので素直に従うことができたのです。
 
 小高い森から、雨で濡れた野草のすべり台を慎重に下りて、作戦通り煤ウサギを先頭に一行は歩き出しました。
 先頭を歩く煤ウサギの姿は、暗闇に溶け込んでしまったかのように、周囲からはまったく見えませんでした。
  
 目的地近くの畑にさしかかり、煤ウサギがあぜ道を歩いていた、そのときです——
  
 ガチンッ!
  
 夜の闇を引き裂く、鋭く大きな金属音が村一帯に響いたのです。
  
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