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第一章

始まりの終わり

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「さあ、目を覚ますのだ!勇敢なる戦士たちよ!」
 
 まるでゲームのセリフのような言葉が聞こえる。僕はその言葉通りゆっくりと目を開けた。

 目を開けるとそこには見知らぬ天井があった。その天井は高い。とても高い。僕が通っている高校の体育館より高いんじゃないか?しかもそこにはバカでかいシャンデリアまである。

 おかしいな、さっきまで僕は学校で授業中で、世界史の山田の授業を居眠り半分で聞いていたはず。
 混乱する僕にまた声がかかる。

「目が覚めたか戦士たちよ」
 またテンプレのようなセリフだ。僕はその声の主の方に目をやる。王様だ。今まで実際に見たことなんかないけどひと目でわかる王様だ。

 「いきなりのことで状況がつかめんだろうが、ここはそなたらのいた世界とは異なる世界である。」
 ?
「私が国中の優秀な魔術師を集め、そなたらをこの世界に召喚したのだ」
 !?
 王様が何を言っているのか意味がわからなかった。
 何故か知らない場所にいて王様がいる。焦らない方がおかしい。
 周りを見渡すと、お城のような場所にいて鎧を着た兵士たちと魔法使いのような人たちがいる。
 
 不安を感じつつも、よく見ると他にも周りをキョロキョロしている人が3人いる。
 上下灰色のジャージを着た見るからに根暗な感じの同い年くらいの男、爽やかなスポーツイケメン(※イメージ)のお兄さん、そして目を合わせるのも怖いくらいのチンピラ風の方。

 状況が掴めない僕は次に発せられた王様の言葉で察する。
「そなたらに我が国、カルロデリア王国を救って欲しいのだ」
 これってもしかして最近小説とかでよくある異世界召喚!?
 今までの話からするに多分そうだ。
 いきなりのことで困惑してるけど、何故か少し興奮してる自分がいる。

 まるでアニメの話のような展開にまさかドッキリ番組なんじゃないかとも思った。けどいきなりこんな所に連れてこられたんだ、テレビ局にできることじゃないだろう。
 
 戸惑っている僕を置いて王様の話はどんどん進んでいく。
「今カルロデリアは3大魔王の1人ザラバルドという凶悪な魔物の率いる魔王軍に攻められている。そなたらにはその魔王の討伐を命ずる」
 
 いきなりファンタジーな説明をされたけど、これは完璧に異世界で勇者になるやつだ。
 
 元の世界では冴えない高校生だった僕にも遂に輝ける時が来たのだろうか。
 なんて浮かれている僕を他所に一緒に召喚されたであろうチンピラが立ち上がった。

「おいてめぇ、何者か知らねえがよ。異なる世界だとか魔王討伐とか訳わかんねぇこと言ってんじゃねえぞ」
 威圧的な態度をとるチンピラ。
「そうだ!そんな危険なことするつもりは無い。早く元の世界に返してくれ!」
 爽やかなお兄さんも声を荒らげる。
 
 そんな彼らに対して王様はスっと右手を上げる。
 すると、周りにいた兵士たちがこちらに剣を構えだした。

「っ!?」
 これにはチンピラもお兄さんもビックリ。
 もちろん僕も。なぜならチンピラだけでなく僕にも剣が向いているからだ。
「なんなんだよ!」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺は何もしてないだろ」
 僕とジャージ男はまさかの事態に声を出す。
 
「お前たちは何も分かっていないようだな。私はこの国の王であり、お前たちは魔王討伐の為だけに召喚されたのだ、黙って従っておれば良い。」
 王様の態度が急変した。
 さっきまでとは打って変わって、優しさが一切感じられない冷たい声。
 王様はまるでゴミを見るかのような目で僕らを見ている。
 
 その言葉を聞いて僕は我に返った。
 浮かれている場合じゃない。異世界召喚とか言われてるけど、これはただの拉致事件だ。
 喧嘩もしたことがないのに魔王なんかと戦って無事で帰れるわけが無い。

 仮に他の3人が魔王を倒してくれても元の世界に帰れる保証はない。
 まるで出口があるのかわからない迷路に閉じ込められた気分だ。

「ふざけんな!俺はてめぇの奴隷じゃねえぞ!」
 チンピラの怒りの言葉が響く。
「そもそも無理やり連れて来といて上から物言ってんじゃねぇ!」
 チンピラの言葉のおかげで追い込まれていた空気が変わった。

 確かに納得できない。できるはずがない。
 僕らには関係の無いことだし。特別な力を持った人間でもない。一般人なんだ。
 そうは思っても、僕はチンピラのように発言する勇気はなかった。

 すると、周りにいた兵士の中からとてもでかくてガタイのいいやつが出てきた。
 そのでかい兵士はチンピラをボコボコにし始めた。
 一方的に殴られるチンピラ。威勢の良かった彼もその場に倒れ込む。
 それには僕ら3人、誰も声が出なかった。
 暴力という名の恐怖がその場を収めた。

 僕は目の前で行われる行為に平常心を乱された。
「お、お願いです。なんでも、なんでもしますから、何もしないで!」
 
 気がつくと僕は王様の前まで泣きじゃくりながらはいよっていた。殴られたくない、それだけで僕は全てを諦めた。
 僕の冷や汗まみれの手が王様の服の裾を掴み、命乞いをした瞬間、聞いたことも無い嫌な音が聞こえた。

 首元を何か冷たいものが通り抜けていくのを感じる。
 その直後、床を転がるようにして目線が変わり、頭上に剣を振り下ろしたあとの兵士が立っているのが見えた。

  こうして僕の異世界物語は幕を閉じた。

 
 
 
 
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