法隆寺燃ゆ

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第一章「宿命の子どもたち」 前編

第5話

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 上宮王家には、家人・私奴婢あわせて五百人ほどが生活していた。

 家人とは、律令制における五色の賤の中の一階級であって、五色の賤とは、陵戸りょうこ官戸かんこ・家人・官奴婢・私奴婢をいった。

 このうち、陵戸・官戸・官奴婢が官有の奴婢で、家人・私奴婢が私有の奴婢である。

 家人・私奴婢ともに、主人に仕える立場に変わりはないのだが、家人が戸、すなわち家族を形成できるのに対して、私奴婢は戸の形成を認められていない。

 また、前者は売買できないが、後者は売買が認められていた。

 その他にも、家人と私奴婢の法律的な差異があったが、要は、家人は市民権が認められた奴隷で、私奴婢は市民権のない完全な奴隷である。

 弟成は、人としての権利のない、他人の所有物として、この世に生を受けたのである。

 弟成が、三度目の厳しい冬を無事乗り越えた頃、彼の興味は親兄姉だけでなく、同年代の子どもたちにも向けられていった。

 彼が、曲りなりにも両足で歩くようになると、雪女は彼の腰に縄を結わえて勝手に歩き回らないようした。

 雪女といえども、弟成の面倒ばかり見ている訳にはいかない。

 彼女にも、それなりの仕事が与えられていた。

 彼女の仕事は、枝木や木の実を拾い集める子どもたちの監督である。

 もちろん、彼女自身も枝木拾いをした。

 その時、弟成を先ほどの要領で木に結び付けておくのだ。

 春の日差しが奴婢長屋を包みこんだこの日、雪女は、毎日の日課として子どもたちを引き連れ、裏山へと入って行った。

 木々から漏れる日の光は、彼女の頬を優しく撫でる。

 彼女は、弟成を近くの木に結び付け、他の子どもたちとともに枝木を拾い始めた。

 しかしひとときもすると、男の子たちは枝木を剣に見立てて駆けずり回ったり、自分たちで作った弓を持って獲物はいないかとあちらこちらと動き回るようになった。

「あんたら、遊んでないで拾い!」

 雪女は、いつものことながら彼らを注意するのだが、そんなことで言うことを聞くような連中ではなかった。

「おい、また怒られるぞ」

「母ちゃんに告げ口されるぞ」

 男の子たちは互いにそんなことを囁きながら、下を向いて拾う真似をするのだが、一度遊び出すと止められなくなるのがこの年頃で、半時もしないうちに、それぞれの楽しみを見付けてしまうのである。

「雪女、ええの? あの子ら、遊んでばっかりやで」

 雪女と同い年である絹女きぬめが眉を顰める。

 しょうがないやん、あの子らの年頃なら、まだまだ遊びたいもんと雪女は思った。

 彼女には、子どもたちを監督するという責任があった。

 また、彼らの遊びたいという気持ちもよく分かった。

 だが、彼女たちには遊んでいる暇はない。

 子供といえども、歴とした労働力なのだ。

 とはいうものの、雪女自身まだ子どもである。

 雪女はしばらく考えたあと、

「ええわ、今日の分としては十分やから。ちょっと休もうか。あんたら、休んでええわよ。でも、あまり遠くに行かんといてな」

 と、拾った枝木を束ね、束ね終わると弟成の傍に腰を降ろした。 
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