異世界で迷子を保護したら懐かれました

稲刈 むぎ

文字の大きさ
25 / 40

24.誘拐

しおりを挟む
いたた…

ソニアさんに、せっかく身を守れるようにブレスレット貰ったのに、咄嗟に動けなかったら意味ないじゃん。私のバカ…

冷たい床に寝かされていることに気付き、体を起こして見渡すと、見たことのない部屋だった。
最低限の家具しかない殺風景な部屋だ。

「手荒なことして悪いねぇ。でもこうして拐わないとあんたと話せなくてね。」

背後からキュリテの声がして振り向く。

「話ってなんですか?」

少しでも離れたくて、ずりずりと後ずさる。すぐに背中に硬い壁があたった。

「いやあもちろんノルジェーク・G・モンバードのことだ。」

「ノルックのこと…」

そりゃあ、私とキュリテの共通点といったら、ノルックしかない。

「あいつが魔力を捧げないと世界が滅びるってハナシは知ってるだろ?もうあまり時間がないってぇのに、ここ数日結界紋の書き換えに来やがらない。
あんた、原因に心当たりあるんじゃないか?」

「な…」

「あんたが現れてから計画通りにいかなくなったんだ。悪いけど、あいつが直前で逃げないようにあんたから離れてくれない?」

「そんな!…そもそも、なんでノルックだけが犠牲にならないといけないの?」

「あ?創世記の話くらい聞いたことあるだろ?」

「?」

聞いたことあるわけがない。ソニアさんもダイアさんもそんな話はしなかった。

「え。まじ?
 あー、あんな秘境で育ったんなら学とかないか。」

馬鹿にされてムッとするが、反論したところで事態が良くなる予感もないのでそのまま続きを促した。

「はぁ。めんどくせえな。
 じゃあざっくり言うが、

 世界には澱みというものが存在していて
 澱みが広がると
 生き物が凶暴化し
 作物が育たなくなる

 初めは小さな点だった澱みが
 どんどん広がり
 やがて大陸の殆どを覆い尽くす

 人々は徐々に食べるものもなくなり
 住処も壊され
 絶望に暮れていた時
 1人の聖人が現れた

 澱みを封じ
 傷ついた大地を癒し
 自らの命を糧に
 世界を結界で覆い守ったことで
 人々は魔法が使えるようになり
 世界は滅びずに済んだ

って話だ。」

なんか、聖書みたいな話だな。

「…その話が、ノルックになんの関係があるんですか?」

「ノルジェーク・G・モンバードは、ギルス族の末裔だ。ギルス族は世界を救った聖人の子孫のことを指している。
ギルス族の中であいつの魔力が最も濃くて精度が高い。あいつなら結界の再編成も1人で済む。ギルス族は貴重なんだ、犠牲は少ないに越したことはない。
ギルス族には感情を持たせない。それが世界共通の意向だ。…今までうまくいってたのに、あんたのせいで狂い始めた。
あんたがノルジェークの近くにいると世界が滅びるかもしれないんだよ。」

キュリテの目が怪しく光る。

「別に無理に命を頂戴したいとは思っていない。だから今話しているのは平和的にノルジェークから離れてほしいというお願いだ。
といっても、森の位置はノルジェークにすぐ見つかるから帰してやることはできないんけど、生きてればどこでもなんとかなるだろ?
…まあ、断るなら、あんたをどうこうするくらい訳もないんだけどね。」

首に向かって手を伸ばしてくる。届く前に振り払った。

「本当に、それしか方法がないんですか?ノルックが犠牲になるしか…」

「…ギルス族を束にして捧げれば、ノルジェーク1人じゃなくても結界を再編成することはできる。
厄介なことに、ギルス族以外の魔力は受け付けないんだ。それに、今回持ち堪えてもまた何十年後に綻びるかわからない。その時にギルス族が絶えていると困るんだよ。」

「…」

ノルックの未来だけが奪われるのが最善の方法だなんて…

「あんなにノルックの魔力がすごいって賞賛してたのに、ノルックが犠牲になることに賛成なの?」

「は?何言ってんだよ。ノルジェークが結界になるってことは、少なくとも生きてる間はノルジェークの魔力に包まれ続けることになるんだぜ?考えるだけで興奮するだろ?」

想定外の返答に言葉を失う。
…この人、話の通じないレベルの変態だ。

「ノルジェーク1人で、この世界に生きている何万何千の人を救うことができる。もちろんあんたも救われるうちの1人だ。わかるだろ?」

いつの間にか近づいてきていたキュリテが放心している私の肩に手を置こうとした瞬間、
頭上で何かが爆発した。

「な?!」

「見つけた。
キュリテ・バーナーム・ハングロップ。貴様を絶対に許さない。」

気が付けば部屋の上部がなくなって、冷たい風が吹き込んできた。
声の方を見ると夜空をバックにノルックが浮いている。

「なんでここがわかった?!」

「…誰がここ作ったと思ってんだよ。」

え。ここノルックが作ったの?!
ちょっと、どういうこと?ノルック大工業もやらされてるの?!

魔力無効のこの部屋に逃げれば撒けるとでも思った?」

視界の端から、爆発で飛び散った破片が空から落ちてくるのが見えて慌てて頭を守る体勢をとる。
けれど破片は当たりそうになる直前で跳ね返り、床に落ちていった。
不思議に思って顔を上げると、ノルックからもらったペンダントが存在を示すように瞬いている。

「あ、あぶね!あぶね!」

ノルックがキュリテに向かって光の球のようなものを連打している。キュリテは必死に防御しながら避ける。
流れ弾が飛んでくるけど、見えない壁に守られていて私には当たらない。

「埒があかねえからいったん離脱するけど、さっきの話よく考えてくれよな。
1人と世界、比べるまでもないだろ。」

そう言ってキュリテが魔法陣に吸い込まれていった。

「ち。逃げたか」

「ノルック!」

キュリテがいなくなったことを確認してから、ノルックが目の前に転移してきた。

「何もされてないか?」

「う、うん。部屋に現れた時、どこかチクってされたみたいだけど、もう大丈夫だと思う。ここでは話しただけ。」

「話?」

「…ノルックが心置きなく犠牲になれるように離れろってさ。」

別に口止めはされていない。キュリテにはムカついたので堂々と告げ口をしてやる。

「あの野郎…絶対殺す。」

追いかけそうだったので、逃がさないように袖を掴んだ。

「とりあえず、今日は帰れないかな?さすがに寒くて…」

ナイトドレス1枚で真冬の風を浴び続けるのはさすがに堪える。少しでも上下の歯を離すとぶつかり合うくらい体が震えてしまう。

「ごめん、ミノリ、すぐ移動する。」

ノルックは私を抱き抱えると、転移した。

転移先は暖炉があった。見たことがない部屋だ。

「モンバード様、如何なさいましたか。」

奥の扉から執事のハンさんが現れた。
てことは屋敷の中なのか。

「侵入者があった。ミノリが攫われた。
各部屋の警備を強化するように。あと医者を呼べ。」

「承知しました。」

ハンさんが部屋から出ていくと、暖炉の前にふかふかのソファのようなクッションが現れてそこに寝かされる。

「温まるからこれを飲め。」

ノルックから、どこからか出した湯気の上るカップを渡された。一口飲むとほんのり甘い。
半分まで飲むと微睡んできて、そのまま委ねるように意識を飛ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...