35 / 40
34.襲撃
しおりを挟む
ノルックが連れてきてくれた元大蛇の住処は、確かに植物の宝庫で、定番の薬草はもちろん、見たことのない植物もたくさんあった。
欲しかった薬草の他に、気になった野草や山菜もいくつか採集して山に持ち帰る。
乾燥させるため、使われていないキッチンに干したり、辞書とメモを駆使して何の植物か調べたりしていると1日があっという間に過ぎるようになった。
ノルックも本を読んだりしながら常に近くにいてくれる。
ふとした時に他愛もない話をしたり、採ってきた山菜を一緒に食べて感想を言い合ったり、薬効のない花は栞やポプリにして飾ったり、最初から山に住んでたんじゃないかと思うくらい平和な時間。
家にいるだけじゃなくて、3日に一度は元大蛇の住処で採集や散歩をして気分転換もできている。
「こうしていると、ノルックと森で住んでた頃を思い出すね。」
珍しい香りのする野草を摘みながら言うと、ノルックも肯定しながら微笑んでくれた。
王都のお屋敷ももちろん良かったけど、自然の中で改めて生活してみると、私はこうしてノルックと過ごす方が合っているように思う。
「あ、あそこのきのこ食べられそう。ちょっととってくるね。」
傘が茶色でツバの部分は白い。あれは確か食べても大丈夫なきのこのはず。
傾斜に生えているきのこに向かって走ると、雨上がりだったようでぬかるみに足をとられて滑ってしまった。
「わっわわっ…」
地面にお尻を打ちつけた時、
バシュン
と音がして一歩分離れた場所に穴が空いた。
「ミノリ!」
「見つけたぞ!捕えろ!」
頭上で声がして見上げると、キュリテと見知らぬ男の人が空中に浮いていた。
「ノルック!!」
「捕まって。」
すぐにノルックが私を掴んで転移する。
転移の直前に、眩しい光が迫ってきて、ペンダントのシールドが発動した感覚があった。
気がついたら泥だらけのままでログハウスの床に座り込んでいた。
転んだ瞬間、地面に穴が空いた。私が転んでなかったらどうなってた?ノルックのペンダントがなかったら?
呆然としている間にノルックが清浄の魔法をかけてくれる。目に見える汚れは消えたけど、ヘドロのような不安感がいつまでも拭えない。
無意識に自分自身を掻き抱いていた。籠をもったままだったから入れていた草花や木の実が膝の上に散らばっている。
ノルックが言っていた『私が指名手配になっている』と言う言葉が頭の中をぐるぐると回りだす。
『捕まえろ』と言っていたけど、放たれたものは明らかに殺意があった。
「もう大丈夫だ。ここなら安全だから。」
ノルックが籠を床に置き、そのまま私を横抱きにする。2度目の清浄の魔法がかけられて、服がいつの間にかナイトドレスに変わっていた。
部屋唯一の扉が開けられて、ベッドに寝かされる。
「あいつらに、何をしたか思い知らせてくるよ。ミノリはここで休んでて。」
ね?といって、そっと髪に触れる手は優しいけど、見上げた顔は瞳孔が広がって黒曜石のような色に変わっているし、額には縦筋が浮かんでいた。
ノルックの腕が背中から引き抜かれる前に咄嗟に掴む。
「ノルック、行かないで。お願い」
「ミノリ?」
少しだけ動揺する気配がした。
「お願い。怖いの…」
荒くなる呼吸をなんとか落ち着かせようとするけどうまくいかない。前世を含めても命の狙われることなんてなかったから、こんな時にどうしたらいいかなんて教わったこともない。
それでもノルックと離れてはいけないと体中が警報を鳴らす。
「ひとりにしないで…」
行き場のない不安が、涙となってこぼれ落ちる。
「…わかった。ここにいるよ。」
ノルックが、身動きができないくらい強く抱きしめてくれる。そのまま身を任せているとだんだんと呼吸が楽になってきた。
拾ったことに恩を感じてくれたとしても、ノルックは私にやさしすぎると思う。私なんて、この世界でただ生きているだけの何も価値のない人間なのに。
年上のくせに、再開してからはノルックに頼ってばかりだ。ノルックに教えられることなんて何があるだろう。
ひとりにしないでなんて、ノルックを縛る権利なんてないのに、何を言ってるの。
これ以上甘え続けたら私がノルックの重石になってしまう。今がノルックを解放する分岐点なんだ。
「…ごめん。やっぱり、ノルックは逃げて。ノルックなら誰にも捕まらずに姿を消すことなんて簡単でしょ?」
別れを決意したけど、ノルックの顔は見れなくて、服の上に広がるシミを凝視していた。
「できれば最後は森の家で過ごしたかったけど…。誓紋が消えた今ならチャンスだから、ノルックは、私や、こんなノルックを酷使するような国から離れて自由になって。
…私のことは、忘れていいから…」
最後の言葉は小さくなってしまったけど、ノルックは聞き逃してくれなかった。
「ミノリを忘れる…?そんなのあり得ない。」
抱きしめられていたはずが、気づいたらベッドに倒されて、両腕が拘束された。
視界がノルックの顔面で占められる。
「ミノリが望むなら、僕とミノリだけで他の奴らは全員消したっていいんだよ?森の民の結界があれば、終末がきたってしばらくは耐えられるはずだ。」
顔を見合わせているはずが目の焦点が合わない。
「だ、ダメだよ!みんなを消すのはやめて」
「ミノリは僕より他の奴らを選ぶの?」
「そういうわけじゃないけど、私は誰の命も奪いたくないし、ノルックにも奪って欲しくない。」
必死に伝えると、間を置いてから「わかった」と言うけど、腕は離してくれなかった。
「ミノリ混乱してるんだね。さっきはひとりにしないでって言ったばかりなのにひとりで逃げろと言うなんて。
落ち着くまでは僕がそばにいるから、今は何も考えずにゆっくり寝たらいいよ。」
弁解しようと口を開こうとしたけど、何故かうっそりと笑うノルックの感情が読めなくて、ただただその顔を見つめ続けてしまった。
欲しかった薬草の他に、気になった野草や山菜もいくつか採集して山に持ち帰る。
乾燥させるため、使われていないキッチンに干したり、辞書とメモを駆使して何の植物か調べたりしていると1日があっという間に過ぎるようになった。
ノルックも本を読んだりしながら常に近くにいてくれる。
ふとした時に他愛もない話をしたり、採ってきた山菜を一緒に食べて感想を言い合ったり、薬効のない花は栞やポプリにして飾ったり、最初から山に住んでたんじゃないかと思うくらい平和な時間。
家にいるだけじゃなくて、3日に一度は元大蛇の住処で採集や散歩をして気分転換もできている。
「こうしていると、ノルックと森で住んでた頃を思い出すね。」
珍しい香りのする野草を摘みながら言うと、ノルックも肯定しながら微笑んでくれた。
王都のお屋敷ももちろん良かったけど、自然の中で改めて生活してみると、私はこうしてノルックと過ごす方が合っているように思う。
「あ、あそこのきのこ食べられそう。ちょっととってくるね。」
傘が茶色でツバの部分は白い。あれは確か食べても大丈夫なきのこのはず。
傾斜に生えているきのこに向かって走ると、雨上がりだったようでぬかるみに足をとられて滑ってしまった。
「わっわわっ…」
地面にお尻を打ちつけた時、
バシュン
と音がして一歩分離れた場所に穴が空いた。
「ミノリ!」
「見つけたぞ!捕えろ!」
頭上で声がして見上げると、キュリテと見知らぬ男の人が空中に浮いていた。
「ノルック!!」
「捕まって。」
すぐにノルックが私を掴んで転移する。
転移の直前に、眩しい光が迫ってきて、ペンダントのシールドが発動した感覚があった。
気がついたら泥だらけのままでログハウスの床に座り込んでいた。
転んだ瞬間、地面に穴が空いた。私が転んでなかったらどうなってた?ノルックのペンダントがなかったら?
呆然としている間にノルックが清浄の魔法をかけてくれる。目に見える汚れは消えたけど、ヘドロのような不安感がいつまでも拭えない。
無意識に自分自身を掻き抱いていた。籠をもったままだったから入れていた草花や木の実が膝の上に散らばっている。
ノルックが言っていた『私が指名手配になっている』と言う言葉が頭の中をぐるぐると回りだす。
『捕まえろ』と言っていたけど、放たれたものは明らかに殺意があった。
「もう大丈夫だ。ここなら安全だから。」
ノルックが籠を床に置き、そのまま私を横抱きにする。2度目の清浄の魔法がかけられて、服がいつの間にかナイトドレスに変わっていた。
部屋唯一の扉が開けられて、ベッドに寝かされる。
「あいつらに、何をしたか思い知らせてくるよ。ミノリはここで休んでて。」
ね?といって、そっと髪に触れる手は優しいけど、見上げた顔は瞳孔が広がって黒曜石のような色に変わっているし、額には縦筋が浮かんでいた。
ノルックの腕が背中から引き抜かれる前に咄嗟に掴む。
「ノルック、行かないで。お願い」
「ミノリ?」
少しだけ動揺する気配がした。
「お願い。怖いの…」
荒くなる呼吸をなんとか落ち着かせようとするけどうまくいかない。前世を含めても命の狙われることなんてなかったから、こんな時にどうしたらいいかなんて教わったこともない。
それでもノルックと離れてはいけないと体中が警報を鳴らす。
「ひとりにしないで…」
行き場のない不安が、涙となってこぼれ落ちる。
「…わかった。ここにいるよ。」
ノルックが、身動きができないくらい強く抱きしめてくれる。そのまま身を任せているとだんだんと呼吸が楽になってきた。
拾ったことに恩を感じてくれたとしても、ノルックは私にやさしすぎると思う。私なんて、この世界でただ生きているだけの何も価値のない人間なのに。
年上のくせに、再開してからはノルックに頼ってばかりだ。ノルックに教えられることなんて何があるだろう。
ひとりにしないでなんて、ノルックを縛る権利なんてないのに、何を言ってるの。
これ以上甘え続けたら私がノルックの重石になってしまう。今がノルックを解放する分岐点なんだ。
「…ごめん。やっぱり、ノルックは逃げて。ノルックなら誰にも捕まらずに姿を消すことなんて簡単でしょ?」
別れを決意したけど、ノルックの顔は見れなくて、服の上に広がるシミを凝視していた。
「できれば最後は森の家で過ごしたかったけど…。誓紋が消えた今ならチャンスだから、ノルックは、私や、こんなノルックを酷使するような国から離れて自由になって。
…私のことは、忘れていいから…」
最後の言葉は小さくなってしまったけど、ノルックは聞き逃してくれなかった。
「ミノリを忘れる…?そんなのあり得ない。」
抱きしめられていたはずが、気づいたらベッドに倒されて、両腕が拘束された。
視界がノルックの顔面で占められる。
「ミノリが望むなら、僕とミノリだけで他の奴らは全員消したっていいんだよ?森の民の結界があれば、終末がきたってしばらくは耐えられるはずだ。」
顔を見合わせているはずが目の焦点が合わない。
「だ、ダメだよ!みんなを消すのはやめて」
「ミノリは僕より他の奴らを選ぶの?」
「そういうわけじゃないけど、私は誰の命も奪いたくないし、ノルックにも奪って欲しくない。」
必死に伝えると、間を置いてから「わかった」と言うけど、腕は離してくれなかった。
「ミノリ混乱してるんだね。さっきはひとりにしないでって言ったばかりなのにひとりで逃げろと言うなんて。
落ち着くまでは僕がそばにいるから、今は何も考えずにゆっくり寝たらいいよ。」
弁解しようと口を開こうとしたけど、何故かうっそりと笑うノルックの感情が読めなくて、ただただその顔を見つめ続けてしまった。
18
あなたにおすすめの小説
《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!
皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる