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「ここだよ」
平内の店はどうやらこのオシャレなパン屋らしい。住んでいるマンションからも近いので、店の前は通ったことがあるが、実際に商品を購入したことはなかった。
やや緊張しながら、平内に案内され店の中に入る。店に足を入れた瞬間、香ばしくていい匂いが肺いっぱいに広がった。
「おはよう」
平内が厨房のほうで作業をしている人に呼びかけると、中から白い作業着を着た男の人が顔を出した。
「平内さん、おはようございます。あれ、そちらの方は」
「今日から働いてもらう中原くんだよ。よろしくね」
「もう新しい人見つかったんですか、相変わらず急ですね」
平内は職場でも突拍子もない言動をしているのだろうか。
「上田です、よろしくね」
上田と名乗る男はにこやかな笑顔で挨拶をした。悠より少し年上か同じくらいだろうか、いかにも人が良さそうな感じだ。
「中原くん、こっちおいで」
悠も挨拶をしていると平内に呼ばれ、店の奥へ案内された。
「こっちが事務所ね。中原くん朝ごはん食べた?」
「いや、お腹空かなかったので」
悠は最近食欲がなかった。食べようとしても胃が受け付けないことがほとんどで、朝食は食べないことのほうが多かった。
「朝ごはんはしっかり食べないと。そうでなくてもひょろっこいのに、すぐ倒れちゃうよ。そこ座って待ってて」
悠に近くにあったイスに座るように言うと、そのまま部屋を出ていってしまった。戸惑いながら座って待っていると、すぐに平内は戻ってきた。
「おまたせ、たった今焼きあがったものだよ。どうぞ」
悠の目の前にあるテーブルの上に、パンが数個乗ったトレーを置いた。
「え、そんな悪いし……」
自分が勝手に朝食をとっていないだけなので、ご馳走になるのはさすがに気が引ける。
「いいから食べてみてよ。働く前にうちのパンの味も知ってもらいたいしね。これなんて美味しいよ」
遠慮する悠に、平内はニコニコしながらパンを勧めてきた。そこまで言われると食べないのが逆に失礼だと思い、彼のオススメらしいパンを手に取ると、一口かじった。
「……おいしい」
外はサクッと中はふんわりしていてとても美味しい。久しぶりに食べものが美味しいと感じた。食べているうちにさっきまで皆無だった食欲が出てきたのか、悠は夢中になって頬張っていた。
「これは丸パンと言って、僕の一番好きなパンなんだ。焼きたてだから美味しいでしょう。他にも色々あるから、たくさん食べな……」
平内が驚いた顔をしてこちらを見ている。気がつくと悠の目からは涙が溢れていた。焼き立てパンの美味しさに感動したからか、なんなのか自分でもよくわからないが、涙が止まらなかった。
「っ……すみません」
「泣くほど美味しかったなんて、パン職人冥利に尽きるなぁ」
そう言って平内がティッシュを持ってきてくれた。泣きながら食べた丸パンは少しだけしょっぱく感じた。
平内の店はどうやらこのオシャレなパン屋らしい。住んでいるマンションからも近いので、店の前は通ったことがあるが、実際に商品を購入したことはなかった。
やや緊張しながら、平内に案内され店の中に入る。店に足を入れた瞬間、香ばしくていい匂いが肺いっぱいに広がった。
「おはよう」
平内が厨房のほうで作業をしている人に呼びかけると、中から白い作業着を着た男の人が顔を出した。
「平内さん、おはようございます。あれ、そちらの方は」
「今日から働いてもらう中原くんだよ。よろしくね」
「もう新しい人見つかったんですか、相変わらず急ですね」
平内は職場でも突拍子もない言動をしているのだろうか。
「上田です、よろしくね」
上田と名乗る男はにこやかな笑顔で挨拶をした。悠より少し年上か同じくらいだろうか、いかにも人が良さそうな感じだ。
「中原くん、こっちおいで」
悠も挨拶をしていると平内に呼ばれ、店の奥へ案内された。
「こっちが事務所ね。中原くん朝ごはん食べた?」
「いや、お腹空かなかったので」
悠は最近食欲がなかった。食べようとしても胃が受け付けないことがほとんどで、朝食は食べないことのほうが多かった。
「朝ごはんはしっかり食べないと。そうでなくてもひょろっこいのに、すぐ倒れちゃうよ。そこ座って待ってて」
悠に近くにあったイスに座るように言うと、そのまま部屋を出ていってしまった。戸惑いながら座って待っていると、すぐに平内は戻ってきた。
「おまたせ、たった今焼きあがったものだよ。どうぞ」
悠の目の前にあるテーブルの上に、パンが数個乗ったトレーを置いた。
「え、そんな悪いし……」
自分が勝手に朝食をとっていないだけなので、ご馳走になるのはさすがに気が引ける。
「いいから食べてみてよ。働く前にうちのパンの味も知ってもらいたいしね。これなんて美味しいよ」
遠慮する悠に、平内はニコニコしながらパンを勧めてきた。そこまで言われると食べないのが逆に失礼だと思い、彼のオススメらしいパンを手に取ると、一口かじった。
「……おいしい」
外はサクッと中はふんわりしていてとても美味しい。久しぶりに食べものが美味しいと感じた。食べているうちにさっきまで皆無だった食欲が出てきたのか、悠は夢中になって頬張っていた。
「これは丸パンと言って、僕の一番好きなパンなんだ。焼きたてだから美味しいでしょう。他にも色々あるから、たくさん食べな……」
平内が驚いた顔をしてこちらを見ている。気がつくと悠の目からは涙が溢れていた。焼き立てパンの美味しさに感動したからか、なんなのか自分でもよくわからないが、涙が止まらなかった。
「っ……すみません」
「泣くほど美味しかったなんて、パン職人冥利に尽きるなぁ」
そう言って平内がティッシュを持ってきてくれた。泣きながら食べた丸パンは少しだけしょっぱく感じた。
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