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注文したコーヒーがテーブルに置かれるのを待って、竪川氏は口を開いた。
「さてと、どうして足利駅まで君を呼び出してここを見せたかというと――偶然、館内で開催している展示物が良かったからだよ。僕がこれから説明することを君が理解しやすいと思ってね」
竪川氏は自分のスマホを僕へ差し出した。
「まず、これを読んでくれ。少々古い、数年前の記事なんだが」
【長尾家宝刀〈小豆長光〉足利市の長林寺で〈写真〉見つかる】
/ライブドアニュース2017年3’14より ※以下、概略と記事の抜粋
★〈小豆長光〉は鎌倉時代に作られたとされる日本刀(太刀)。
古来上杉謙信の愛刀であったと伝わる。
経緯は不詳ながら足利長尾家に伝来された。
宝刀は一時、同寺に預けられていたが現在は所在不明……
刀の刃に小豆を落とすとサッと切断されるほど切れ味が良かったことから、
〈小豆長光〉と呼ばれている。
◇詳細:現住職によると、明治18(1885)10月5日、長尾家関係者が同寺を訪れ御宝刀と鎧などを預けた。現在も預り書が保存されている。その後、間を置かず関係者が再度訪れ「宝刀は返却してほしい」と持って帰った。鎧は持ち帰らずそのまま同寺に所蔵され、現在国広展が開催されている足利市立美術館で展示中……
◇更に詳細:昭和42年夏、長尾家関係者が再再訪。「申し訳ないがあの刀は先祖が売ってしまった」と伝え、記念として写真を置いて去った。これが今回見つかった写真である。写真では鹿の角の刀架に刀と鞘が掛けられ、箱書きには長尾家当主の世襲名長尾八郎の文字が見える……
写真から「室町時代の刀では」と推測されている……
「読みました。今回も鎧の方は展示されてましたね。で――これが何か?」
竪川氏はこともなげに、
「宝刀〈小豆長政〉は和路氏の、曰く、宝箱に入ってる物の一つだ」
ハッとして僕は顔を上げた。
「僕をからかってる? まさか、それが宝箱から盗み出された物と言いたいんですか?」
「いや、大丈夫。これは今現在もちゃんとあそこに入っているから」
「じゃ、他の物が持ち出された? と言うか――宝箱の中身についてあなたはご存知なんですね?」
「これは失敬、言い方が悪かった。僕が言わんとしたのは、僕は宝箱にこの刀――小豆が入っていることを知っているという意味さ」
「?」
「改めて正確に言うよ。何故僕があの中に宝刀の小豆が入っているか知っているかと言うと、和路氏がそれを入れるのを見たからだ」
竪川氏は更に正確に、一語一語噛み砕くようにして繰り返した。
「和路氏が変死する前日、自宅へ会いに言った時、僕がそれを渡した。僕の眼の前で和路氏は宝箱に仕舞った」
「待ってください――」
この時になって僕はもう一つの、更に大きな矛盾に気づいた。
「で、でも、その刀についてこの記事には、『既に明治18年頃、菩提寺から持ち出され、昭和42年の段階でその刀は所在不明』とありますが?」
「何の不思議もない。つまり、そういうことだ。刀は色々な好事家の手を経巡って来たんだよ。で、直近の買主が和路氏だったと」
竪川悠氏は片目をつぶった。
「僕はそういう仕事をしている。和路氏が希望して段取りをつけた物を、出向いて受け取って、届ける〈最終運搬人〉。ザックリ括るなら〈故買屋〉とも言う。そういう仕事がこの世には存在するのさ。画材屋探偵カッコ自称なんてふざけた職業があるようにな」
「――」
混乱し、驚きを隠せない僕に竪川氏は微笑を浮かべて言った。
「まだ理解できないかい? じゃあリアリティを増すためにもう幾つか聞かせてやろう。和路氏の書斎のサイドボードに猿の置物が飾ってある。知ってるかい?」
「知っています」
そのことは波豆君から聞いたし、有島刑事が写真を見せてくれた。
「あれが元はどこにあったか教えてやるよ」
「さてと、どうして足利駅まで君を呼び出してここを見せたかというと――偶然、館内で開催している展示物が良かったからだよ。僕がこれから説明することを君が理解しやすいと思ってね」
竪川氏は自分のスマホを僕へ差し出した。
「まず、これを読んでくれ。少々古い、数年前の記事なんだが」
【長尾家宝刀〈小豆長光〉足利市の長林寺で〈写真〉見つかる】
/ライブドアニュース2017年3’14より ※以下、概略と記事の抜粋
★〈小豆長光〉は鎌倉時代に作られたとされる日本刀(太刀)。
古来上杉謙信の愛刀であったと伝わる。
経緯は不詳ながら足利長尾家に伝来された。
宝刀は一時、同寺に預けられていたが現在は所在不明……
刀の刃に小豆を落とすとサッと切断されるほど切れ味が良かったことから、
〈小豆長光〉と呼ばれている。
◇詳細:現住職によると、明治18(1885)10月5日、長尾家関係者が同寺を訪れ御宝刀と鎧などを預けた。現在も預り書が保存されている。その後、間を置かず関係者が再度訪れ「宝刀は返却してほしい」と持って帰った。鎧は持ち帰らずそのまま同寺に所蔵され、現在国広展が開催されている足利市立美術館で展示中……
◇更に詳細:昭和42年夏、長尾家関係者が再再訪。「申し訳ないがあの刀は先祖が売ってしまった」と伝え、記念として写真を置いて去った。これが今回見つかった写真である。写真では鹿の角の刀架に刀と鞘が掛けられ、箱書きには長尾家当主の世襲名長尾八郎の文字が見える……
写真から「室町時代の刀では」と推測されている……
「読みました。今回も鎧の方は展示されてましたね。で――これが何か?」
竪川氏はこともなげに、
「宝刀〈小豆長政〉は和路氏の、曰く、宝箱に入ってる物の一つだ」
ハッとして僕は顔を上げた。
「僕をからかってる? まさか、それが宝箱から盗み出された物と言いたいんですか?」
「いや、大丈夫。これは今現在もちゃんとあそこに入っているから」
「じゃ、他の物が持ち出された? と言うか――宝箱の中身についてあなたはご存知なんですね?」
「これは失敬、言い方が悪かった。僕が言わんとしたのは、僕は宝箱にこの刀――小豆が入っていることを知っているという意味さ」
「?」
「改めて正確に言うよ。何故僕があの中に宝刀の小豆が入っているか知っているかと言うと、和路氏がそれを入れるのを見たからだ」
竪川氏は更に正確に、一語一語噛み砕くようにして繰り返した。
「和路氏が変死する前日、自宅へ会いに言った時、僕がそれを渡した。僕の眼の前で和路氏は宝箱に仕舞った」
「待ってください――」
この時になって僕はもう一つの、更に大きな矛盾に気づいた。
「で、でも、その刀についてこの記事には、『既に明治18年頃、菩提寺から持ち出され、昭和42年の段階でその刀は所在不明』とありますが?」
「何の不思議もない。つまり、そういうことだ。刀は色々な好事家の手を経巡って来たんだよ。で、直近の買主が和路氏だったと」
竪川悠氏は片目をつぶった。
「僕はそういう仕事をしている。和路氏が希望して段取りをつけた物を、出向いて受け取って、届ける〈最終運搬人〉。ザックリ括るなら〈故買屋〉とも言う。そういう仕事がこの世には存在するのさ。画材屋探偵カッコ自称なんてふざけた職業があるようにな」
「――」
混乱し、驚きを隠せない僕に竪川氏は微笑を浮かべて言った。
「まだ理解できないかい? じゃあリアリティを増すためにもう幾つか聞かせてやろう。和路氏の書斎のサイドボードに猿の置物が飾ってある。知ってるかい?」
「知っています」
そのことは波豆君から聞いたし、有島刑事が写真を見せてくれた。
「あれが元はどこにあったか教えてやるよ」
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