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午後2時20分~30分 どんどん部員が殺される
31・遊久先輩あるいは連続殺人犯は女子トイレの明かりを消さなかった
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無限の長さを持つ直線は、無限の長さを持つ直線と、一度だけ交差するか、どこまで行っても交差しない。
しかし、人の観察範囲では、交差しない直線は無限の前方、つまり未来と、無限の後方、つまり過去で交わる。
廃線となった線路の、どこまでも続く直線は、その上に立って歩く者にとっては、はるか前方とはるか後方で交わっているように見える。
歩きはじめてもその交差するポイントは永劫の未来であり続ける。
樋浦清は遠い未来もしくは過去から来た人間で、おれはその世界と交差しない直線にある世界から来た。
*
おれは過呼吸を抑えるために下を向いて心臓に右手を当て、額から首筋へと流れ落ちる汗を反対の手の袖でぬぐった。
調理室の明かりをつけると、首のない樋浦遊久先輩の体はますます、どう考えても先輩のものにしか見えなかった。
小柄な遊久先輩の体は、それでも調理室の調理台より本来はすこし大きかったのだろう。
存在しない首のところは流しにはみ出す形になっており、両手は胸の当たりで重ねられ、その手の中に携帯端末があった。
おれはゆっくり深呼吸をして明かりを消し、もう一度つけた。
物語部の顧問であり神でもあるヤマダはなんと言ったか。
『教室の明かりのスイッチがセーブポイントになってるんで、スイッチをつけたり消したりする』
それはつまり、一度つけて消さないとセーブポイントにならない。
そして、遊久先輩あるいは連続殺人犯は女子トイレの明かりを消さなかった。
調理室の明かりもつけなかった。
したがって、神の力を使って探ろうと思っても、犯人の手がかりはいつまでも不明である。
携帯端末は、当然個室に入る前に一度撮影動画モードは切られているだろうから、科学の力でも無理だろう。
しかしこれで、もし殺人犯がこの調理室に残っていて、殺されそうになっても大丈夫だろう。
殺されても誰かが犯人を見つけてくれるはずだ。
ヤマダはタイムリープものは、神的につまらないから物語としては推奨してなかったけどね。
おれは静かに、遊久先輩の体に近づいた。
その体は、死体や蝋人形のようではなく、ただ眠っているだけのように見え、首のところから流しへ大量の血が流れた様子もなかった。
その手は暖かく、脈も普通にあった。
すこしときめきながら腕を置き、先輩の胸に手を当てると、それは息をしているように動いていた。
これは神的に首がない状態というだけで、死体ではないのでは。
改めて、鑑定品、じゃなくて遊久先輩の首の切り口を見た。
そこは赤く、ほぼ平面の切り口からは半透明の液体が流れ出て、流しに薄く半透明な赤色に溜まっていた。
おれは冒涜的な気分になりながら、その切り口に人差し指を当てて液体をつけ、舐めてみた。
これは。
これは。
これは。
わあああああっ!
スイカ味だった。
これは、携帯端末でヤマダとの連絡と指示をあおぐよりは、物語部に一度直接戻ったほうが早い。
しかし、人の観察範囲では、交差しない直線は無限の前方、つまり未来と、無限の後方、つまり過去で交わる。
廃線となった線路の、どこまでも続く直線は、その上に立って歩く者にとっては、はるか前方とはるか後方で交わっているように見える。
歩きはじめてもその交差するポイントは永劫の未来であり続ける。
樋浦清は遠い未来もしくは過去から来た人間で、おれはその世界と交差しない直線にある世界から来た。
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おれは過呼吸を抑えるために下を向いて心臓に右手を当て、額から首筋へと流れ落ちる汗を反対の手の袖でぬぐった。
調理室の明かりをつけると、首のない樋浦遊久先輩の体はますます、どう考えても先輩のものにしか見えなかった。
小柄な遊久先輩の体は、それでも調理室の調理台より本来はすこし大きかったのだろう。
存在しない首のところは流しにはみ出す形になっており、両手は胸の当たりで重ねられ、その手の中に携帯端末があった。
おれはゆっくり深呼吸をして明かりを消し、もう一度つけた。
物語部の顧問であり神でもあるヤマダはなんと言ったか。
『教室の明かりのスイッチがセーブポイントになってるんで、スイッチをつけたり消したりする』
それはつまり、一度つけて消さないとセーブポイントにならない。
そして、遊久先輩あるいは連続殺人犯は女子トイレの明かりを消さなかった。
調理室の明かりもつけなかった。
したがって、神の力を使って探ろうと思っても、犯人の手がかりはいつまでも不明である。
携帯端末は、当然個室に入る前に一度撮影動画モードは切られているだろうから、科学の力でも無理だろう。
しかしこれで、もし殺人犯がこの調理室に残っていて、殺されそうになっても大丈夫だろう。
殺されても誰かが犯人を見つけてくれるはずだ。
ヤマダはタイムリープものは、神的につまらないから物語としては推奨してなかったけどね。
おれは静かに、遊久先輩の体に近づいた。
その体は、死体や蝋人形のようではなく、ただ眠っているだけのように見え、首のところから流しへ大量の血が流れた様子もなかった。
その手は暖かく、脈も普通にあった。
すこしときめきながら腕を置き、先輩の胸に手を当てると、それは息をしているように動いていた。
これは神的に首がない状態というだけで、死体ではないのでは。
改めて、鑑定品、じゃなくて遊久先輩の首の切り口を見た。
そこは赤く、ほぼ平面の切り口からは半透明の液体が流れ出て、流しに薄く半透明な赤色に溜まっていた。
おれは冒涜的な気分になりながら、その切り口に人差し指を当てて液体をつけ、舐めてみた。
これは。
これは。
これは。
わあああああっ!
スイカ味だった。
これは、携帯端末でヤマダとの連絡と指示をあおぐよりは、物語部に一度直接戻ったほうが早い。
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