56 / 72
午後2時50分~3時 聖杯を探し始める
56・私が行かないと聖杯は見つけられない
しおりを挟む
人間は、適当に記憶していると本当に適当になってしまうので困る。
アーサー王とその愉快な仲間たちの名前は、えーっと、ランスロットとあと誰だっけ、みたいになる。
真田十勇士だと、真田幸村はともかく、猿飛佐助と霧隠才蔵と、あと誰だっけ、弁慶? みたいになる。
弁慶は違います。
三好清海入道、な。
赤穂浪士なんて、四十七人もいるのに、大石内蔵助と、あと誰だっけ。
清水の次郎長だと、大政と小政は、多分小政のほうはおまけで覚えられてるにしても、あとは森の石松と、誰だっけ。
ガンダムだと、ガンダムとザクとジオングぐらい。
要するに、ちゃんと覚える気で覚えないと、キャラが立ってても3人ぐらいしか覚えられない。
七人の侍は、ハゲのリーダー、その副官、若武者、剣の達人、って感じで、役割では覚えてるんだけど、名前なんて出てこない。
竹千代ぐらいですね。
竹千代じゃねーじゃん、それは赤塚不二夫が飼ってたネコの名前で、三船敏郎がやったのは菊千代。
全員の名前をウィキペディア順にあげると、島田勘兵衛、菊千代、岡本勝四郎、片山五郎兵衛、七郎次、林田平八、久蔵。
クレージーキャッツでやるなら、ハナ肇、植木等、ふたり飛ばして谷啓である。
逃走した連続殺人犯と、聖杯を探しに新校舎に行ったおれたちは、千鳥紋、樋浦清、真・市川醍醐と、あと誰だっけ。
*
おれたち5人はふた組に別れて、西端の生徒会室までの教室を手際よく回ることにした。
早く聖杯城カーボネックみたいなところに行かないといけないけど、連続殺人犯が教室に隠れていたら嫌だから、面倒くさいけどひとつひとつの教室を確認するのである。
2年生の教室は萎れかけた薔薇の花束のような匂いがした。
落ち着かない春、いつまでも続くような夏、すぐ終わる秋、憂鬱な冬、というのが1年生の四季なら、2年生の四季はどれも「退屈」というカギカッコで語られるような日常だ。
その匂いのほとんどは、やや履き古された上履きと、着古された体操着やジャージの匂いだろう。
おれたちの学校の下駄箱(靴箱)は、学校の西端・中央・東端の3か所にあり、それぞれ1・3・2年生が使うことになっている。
理由は不明だけど、下駄箱(靴箱)のスペースでのトラブルが多かったりしたんだろうな。
恥ずかしい上履きを履かせないと、生徒同士は学年を越えた喧嘩しちゃうからとか、そんな理由。
かつては栄華を極めたこの学校も、少子化によって生徒数は最盛期の3分の2ほどに減り、かといって教師の数をそんなに減らすのも無理なので、新規採用を押さえて定年退職を待つという手を県の教育委員会と教職員組合が多分決めたため(そこらへんの事情はよく知らない)、使われている教室の数はそんなに減っていない。
下駄箱(靴箱)は、取り払って空きスペースを作っても仕方ないので、昔の生徒数に合わせたまま、3分の1が虚しく埃を溜めている。
ひとつの教室にはおれたちの学年で6行5列になっているが、上の学年では7行のところもあったりする。
昔は7行6列、40人以上だったときもあったわ、と、千鳥紋先輩は言った。
おれは、千鳥紋先輩と真・市川醍醐の3人の組で回った。
あとのふたりは誰だっけ、ということはなくて、普通にいつもの樋浦清と市川醍醐である。
あのふたりは水素分子のように安定しているのでどうということはないけど、おれたちの組はおれがいないと暴走しそうな気がするのだった。
基本的に、おれが教室の明かりのスイッチを入れると、真・市川醍醐がすばやく四隅を確認して、おれがそのサポートに回り、千鳥紋先輩が最後にスイッチを切る、という手順を取った。
千鳥紋先輩は、私が行かないと聖杯は見つけられない、と言うんだけど、部室で休んでいたほうがよかったのでは、と普通に思えるくらい精神的にも肉体的にも疲れているように見えた。
それがどのようなものかは不明だけれど、学校内で見つかりそうな場所は、生徒会室以外にもいくつか候補があった。
金と銀、そして黒の聖杯。おれたちが探して、物語部の顧問であり、死にかけている神でもあるヤマダに渡さなければならないのは銀の聖杯である。
アーサー王とその愉快な仲間たちの名前は、えーっと、ランスロットとあと誰だっけ、みたいになる。
真田十勇士だと、真田幸村はともかく、猿飛佐助と霧隠才蔵と、あと誰だっけ、弁慶? みたいになる。
弁慶は違います。
三好清海入道、な。
赤穂浪士なんて、四十七人もいるのに、大石内蔵助と、あと誰だっけ。
清水の次郎長だと、大政と小政は、多分小政のほうはおまけで覚えられてるにしても、あとは森の石松と、誰だっけ。
ガンダムだと、ガンダムとザクとジオングぐらい。
要するに、ちゃんと覚える気で覚えないと、キャラが立ってても3人ぐらいしか覚えられない。
七人の侍は、ハゲのリーダー、その副官、若武者、剣の達人、って感じで、役割では覚えてるんだけど、名前なんて出てこない。
竹千代ぐらいですね。
竹千代じゃねーじゃん、それは赤塚不二夫が飼ってたネコの名前で、三船敏郎がやったのは菊千代。
全員の名前をウィキペディア順にあげると、島田勘兵衛、菊千代、岡本勝四郎、片山五郎兵衛、七郎次、林田平八、久蔵。
クレージーキャッツでやるなら、ハナ肇、植木等、ふたり飛ばして谷啓である。
逃走した連続殺人犯と、聖杯を探しに新校舎に行ったおれたちは、千鳥紋、樋浦清、真・市川醍醐と、あと誰だっけ。
*
おれたち5人はふた組に別れて、西端の生徒会室までの教室を手際よく回ることにした。
早く聖杯城カーボネックみたいなところに行かないといけないけど、連続殺人犯が教室に隠れていたら嫌だから、面倒くさいけどひとつひとつの教室を確認するのである。
2年生の教室は萎れかけた薔薇の花束のような匂いがした。
落ち着かない春、いつまでも続くような夏、すぐ終わる秋、憂鬱な冬、というのが1年生の四季なら、2年生の四季はどれも「退屈」というカギカッコで語られるような日常だ。
その匂いのほとんどは、やや履き古された上履きと、着古された体操着やジャージの匂いだろう。
おれたちの学校の下駄箱(靴箱)は、学校の西端・中央・東端の3か所にあり、それぞれ1・3・2年生が使うことになっている。
理由は不明だけど、下駄箱(靴箱)のスペースでのトラブルが多かったりしたんだろうな。
恥ずかしい上履きを履かせないと、生徒同士は学年を越えた喧嘩しちゃうからとか、そんな理由。
かつては栄華を極めたこの学校も、少子化によって生徒数は最盛期の3分の2ほどに減り、かといって教師の数をそんなに減らすのも無理なので、新規採用を押さえて定年退職を待つという手を県の教育委員会と教職員組合が多分決めたため(そこらへんの事情はよく知らない)、使われている教室の数はそんなに減っていない。
下駄箱(靴箱)は、取り払って空きスペースを作っても仕方ないので、昔の生徒数に合わせたまま、3分の1が虚しく埃を溜めている。
ひとつの教室にはおれたちの学年で6行5列になっているが、上の学年では7行のところもあったりする。
昔は7行6列、40人以上だったときもあったわ、と、千鳥紋先輩は言った。
おれは、千鳥紋先輩と真・市川醍醐の3人の組で回った。
あとのふたりは誰だっけ、ということはなくて、普通にいつもの樋浦清と市川醍醐である。
あのふたりは水素分子のように安定しているのでどうということはないけど、おれたちの組はおれがいないと暴走しそうな気がするのだった。
基本的に、おれが教室の明かりのスイッチを入れると、真・市川醍醐がすばやく四隅を確認して、おれがそのサポートに回り、千鳥紋先輩が最後にスイッチを切る、という手順を取った。
千鳥紋先輩は、私が行かないと聖杯は見つけられない、と言うんだけど、部室で休んでいたほうがよかったのでは、と普通に思えるくらい精神的にも肉体的にも疲れているように見えた。
それがどのようなものかは不明だけれど、学校内で見つかりそうな場所は、生徒会室以外にもいくつか候補があった。
金と銀、そして黒の聖杯。おれたちが探して、物語部の顧問であり、死にかけている神でもあるヤマダに渡さなければならないのは銀の聖杯である。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる