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1・茶道 探偵部(仮)ができるまで

1-10・婚約破棄部、というのはどうかな

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 おそらくミナセは、部員候補である3人の異世界人も含めて、知力は一番高いんじゃないかと思う。

 もっとも、あれこれくだらないことを考える能力については不明だ。

 つまり、ほどほどにくだらない割には、それが真相なのかもしれない、と人に思わせる能力に長けている、というのがおれの判断である。

「AIがいくら高度であっても、異世界がそんなに簡単に作れるものなのでしょうか」

「作れるんじゃないの、AIなんだから」

「自分の考えはこうです」と、ミナセは、ミドリの書いた図を訂正した。

ヒト→高度なAI→創造神→異世界
       →創造神→異世界
       →創造神→異世界
       →創造神→異世界
       …………  →異世界

「なるほど、複数の創造神が複数の異世界を作る、と。で、その創造神はヒトをモデルにして作られている、ということだな」と、ミロクは言った。

 ミロクは、ここにいる6人のメンバーの中で一番理解力が高い。つまり、どうも胡散くさい真相っぽいものでも、ミロクの頭の中ではそれなりに整理されてしまうようである。

「たとえるなら、高度なAIは編集者、創造神は作家、かな」

「そうですね、ウルフ。ウェブ小説だったら、それは「サイト運営」でしょうか」

「これもしょせん、仮説にすぎないから、あまり深く考えすぎないほうがいいと思うんよ。それに、私やみんながただの創造物、虚構だとしても、刀で切られれば血が流れるし、誰かが死ねば涙が出る。その血や涙は本物なんよね。ヒトが物語、つまり小説や映画の中での出来事に、それは嘘だとわかっていても泣いたり笑ったりする。リアル以上にそういった嘘のほうに、ヒトの脳は弱いからねえ」

「ということで」と、ミロクは言った。

「部活の名前考えて、今週中に提出しないと、生徒会のほうから督促が来るんだよ。誰か、ほかにもっと部活っぽい名前は出てこないかな」

「はい」と、今度はミドリが手をあげた。

「婚約破棄部」

 なんかいいような気がする。えーと、「破棄」の「棄」の字が手書きだと書けないな。

○婚約破き部

「いいですねそれ! わたし、婚約破棄には自信があります!」と、クルミはしなやかな指を交差させて、手のひらをはくはくさせながら言った。

 これはどう表現したらいいんだろうなあ。とにかくやる気はあるみたいだ。

「具体的には、どういうことやるの?」と、おれは聞いた。

「うちの高校に、親同士が決めた婚約者とかいないですからねー」と、ミナセは言った。

「えっ! 私たちの学園には、ひとクラス3組ぐらいはいましたよ!」

「クルミは、どちらかというと破棄されるほうだったけどね」と、ワタルはボソッと言った。

 たしかに、ふわふわの金髪、北国の青い湖を思わせる瞳、ととのって上品さ・高貴さを感じさせる顔とスタイル。

「悪役令嬢の要素、多いなあ。で、何回ぐらい破棄されたの?」

「何回って……フタケタ回ぐらいなことは確かですけど……あっ、これはひとつの話の中じゃないですよ! いろんな世界の話で」

 確かにテンプレのところがあるから、エタってる話もそうでない話にも、いろいろ出てきてるんだろう。

「えーと、まず、婚約破棄はともかく、別れさせ屋というのはできそうですね」と、クルミは腕を、形のいい胸の下乳あたりで組んで真面目に考えた。

 おれも真似をして、腕を組んで、ついでに組んだ腕を上下にひょこひょこ動かしてみた。

 しかし、どうも男性の場合は、その位置でうまく腕を組めている自信がないのだった。

「あなががあの、○○さん? 残念だけど、✕✕くんの心はもう、とっくに私のものなんよ」と、ミドリはおそらく悪役令嬢、じゃないな、ただの悪役っぽいセリフのモノマネをした。

「いろいろ面白い話は出たけど、先に進もうよ。あとせっかくだからミドリは、なんか異世界人っぽいことやって」と、ミロクは無茶ぶりをしながらせかした。
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