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4・茶道 探偵部(仮)と謎の図書室

4-6・くんくんするクルミ

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 おれたちは、クルミの脇に精査用に並べた、逆さまだった本を再確認してみた。

「理科系が多いけど、そうじゃないものもあるのか」

「たとえばほら、この石川淳全集なんか、箱入になってて、箱のほうはちゃんとしてるのに、中の本逆さまになってますね」と、ミカンちゃんは言った。

「なるほど、どうしてですか?」とクルミは聞いた。

「わかった、犯人は北村薫だ」と、おれは力強く断言した。

「という冗談はともかく、こういう本は表紙と本文の部分があって、長い間同じ縦向きに並べたりなんかしていると、本文の部分が重さで表紙と分離して、くちゃ、っと下にたれ気味になるので、それを避けなければならない」と、ミロクは言った。

 そして、こうも言った。

「つまり、犯人は自分だ」

「あんたかよ!」と、おれは言った。

 確かに、そんな本をどんどん読んでる高校生、さらに本のゆがみまで気にする人間はそんなに多くないだろうけど。

「しかし、自分は文学系・哲学・美術系はともかく、理科系は守備範囲外だからなー」

 おれはクルミの魔力、というより嗅覚を頼ってみることにした。

「美術部の油彩絵の具とかニスの匂いみたいなのないの? もっとよく嗅いでみて」と、おれはクルミをせかした。

「そんな盗作みたいな……盗作じゃなくてパクリだよ……」と、ブチブチ言いながらもクルミは、あ、これはクッキー、これはモナカの皮、これはマロンケーキ、と、片っ端に、本の間にはさまっていたものを指摘していった。

「これは美術部というより調理部関係のしわざかな」と、おれはミカンちゃんと話し合った。

「料理や服飾デザインに関する本もありますからね。どれも20年以上前の本ばかりで、最新コーデの参考にはならないとは思います」

 ミカンちゃんが見せてくれた最新ファッションガイドの本の写真は、なんかおしゃれな中国人みたいなセンスだったけど、あとひと回りして10年ぐらいすれば、これも流行のおしゃれになるかもしれない。

 おれは上の偽・血天井を眺め、ミカンちゃんとミロクは生徒会役員の中で二番目に好きな子は誰、みたいな偽・コイバナをはじめ、ミドリは机のうえに集めた理科系の本をパラパラめくりながらメモをしており、ミナセは携帯端末をカチカチいじりはじめ、ワタルはうとうととしている。

 そんなダラけきった一同に混じって、クルミだけは熱心に本をパラパラとめくって調べていたんだけれど、突然苦しみはじめた。

「こ、これは、おええええ、すみません、犯罪ではなくて、明らかに事件の匂いなんですけど、おえ、おええ」と、一冊の大判本を開いて閉じ、ちょっとお手洗いに行ってきます、と席を立ってしまった。

 クルミが手にしていた本は、美術系全集の一冊で、シリーズ名はこういうものだった。

『世界裸体美術全集・全裸編』

 よぉし、だいぶ事件の真相に近づいてきた気がするぞ。
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