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4・茶道 探偵部(仮)と謎の図書室

4-11・異世界人の方法と謎のカード

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 天窓は、おれが手を伸ばしてもその先数十センチぐらい先にあるため、普通の人間だと踏み台がないと開けしめができない。

 だから、アプリとオートによる開閉の仕組みを使わないと、この世界の人間には無理だろう。

 この図書室が密室であるか否かはあまり関係はない。

 天窓には内側からでないと手動で閉められないような仕組みにはなっていないのだった。

「クルミだったらどうやる? なるべくなら魔法を使わない方法で」と、おれはクルミの顔を見た。

「えーと、そうですね」と、クルミは、くっつけておいた4人がけの机と椅子を元の位置に戻し、天窓と机の位置と角度を確認して、天窓から遠いほうの机の、さらに数歩前に立ち、深呼吸をして集中した。

 たん、と最初の机に左足。

 とん、と二番目の机に右足。

 ばし、と天窓のふちにつかまって、体を上に持ち上げる。

「これなら普通の人でもできますよ!」とクルミは言ったけれど、普通よりかなり運動能力が高い人じゃないと無理なんじゃないかな。

 天窓のフチにすこし溜まっていたホコリがクルミの顔と手と服につき、机の上にはクルミの上履きのあとが残ったので、しょうがないなあもう、と言いながらクルミはぱたぱたと体のホコリを(サブスク魔力っぽいのを使って)払い、、ミカンちゃんが用意してくれたふきんで机の上を拭いた。

「ワタル、今度はニンジャっぽい方法とかでやってみない?」と、おれはワタルをそそのかした。

「心得た」とワタルは言って、うちの高校の指定バッグよりやや小さめで色は黒目の背負いバッグから、黒い巻いてある帯のようなものを取り出した。

「これはクナイを携帯するためのベルトなのだ」と、ワタルは説明して、つぎに長めの、細いけれどもしっかりしたロープを取り出し、クナイ数本の柄のところにある丸い輪っかのようなものに2本のロープを通し、さらに3方にフックのある金属製の、DAISOとかで売ってそうなやつをふたつ、適度なところにつけてひもを結んで、よし、と言った。

 天井にめがけてクナイを打ち込み、ふたつに分かれたロープとフックは、奥のほうの机の窓際と、窓より遠いほうに垂れた。

「これはデモンストレーションだから、本当は天窓からロープが出ていると解釈してもらいたい」と、ワタルは窓のそばに立って言った。

 光の加減で影が濃くなったワタルの顔は、マジニンジャモードだった。

 近いほうのクナイからは、窓より遠いほうの机の角にフックがひっかかり、遠いほうのクナイからは、窓に近いほうの机の角に、同じようにひっかかる。

 横から見るとふたつのロープはクロスしているように見える。

「これで、ロープを正しく引っ張れば、机は窓際に近づけることができるし、元に戻すこともできるのだ」と、ワタルは説明した。

 めんどくさいな。

 密室的トリックの、機械的説明部分はどうしてこうめんどうくさくなってしまうのか。

 だいたい天井にクナイのあとなんかないし、机の上に足跡残るし、奥の机を窓際に持ってく意味ないじゃん。

 そもそも、そんなことできるのって、ニンジャの高校生ぐらいだよ。

「いや、ニンジャの高校生はいるだろ、アニメや漫画で見たし」と、ワタルは弱々しく言い張った。

「そもそもこれはデモンストレーションなのだ」

 ワタルは上履きをぬぎ、さっ、と図書室の天窓にのぼると、すたっ、とたやすく床に降りた。

 飛び降りるときには一回転するというサービスつき。

     *

 そしておれは 動かされた机の下に隠されていたあるものに気がついた。

 それは 真ん中に画鋲が刺さったトランプのカードで、カードの裏面は赤茶けて薄汚れていた。

 おれはカードを取り上げ、おもて面を確認して、さらに天井を見上げると確信を持った。

 つまり犯人は泡坂妻夫を読んでいる。
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