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三章 人造魔王、降誕

最終話 時よ止まれ

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 どのくらいの時間が経過したのか。
 俺が腰の動きを止めたのは、ミルミルの肉壁が締め付ける力を失い、包まれるブツから白い液体が放たれなくなった時だった。
 するりとブツを引き抜くと、ぽっかりと開いた穴は塞がることなく大量の白い粘液をドロドロと垂れ流した。

 ミルミルは乳房を隠すこともなく、両足をだらしなく開いたまま力なく横たわっている。
 俺は欲望のままにミルミルの首に手をかけたが、ふと我に返る。
 ミルミルは顔を横に傾けたまま唇を噛んで押し黙り、瞳からポロポロと涙を零していたのだ。

「……」

 取り返しのつかない事をした。
 何を今更、と自分で思う。物のように扱い使い倒した挙句、首に手をかけ殺そうとしているのだ。最低、最悪という言葉だけでは足りない、ゴミクズだ。
 許されざる行為をしたという自覚はある。頭では分かっているのだが、どうしてもこの狂気が止まらないのだ。

 俺は手にかけたミルミルの喉を握り潰す寸前、「転送」を唱えた。
 ミルミルの姿は光の粒になって消え、石床に流れた液体の痕跡だけが残った。
 転送先は教会。何とかミルミルを殺さずに済んだ。
 俺は一度頭を冷やす為に「転移」を唱えた。

――――そこは上空。雲のすぐ真下だ。巨大なキメラの施設は豆粒ほどの大きさに見える。
 地上へと落下していく身体は「浮遊」を唱えるとピタリと空中で停止した。

 ダメだ。つい先ほどまで何百回とミルミルの中に欲望をぶちまけていたというのに、もう既に女の身体を欲し、それと同時に血に飢え初めている。
 噴火する火山のように次々と性欲と殺意が溢れ出してくるのだ。
 もうこの思いを抑えきることは出来ない。俺はただ欲望を満たすだけの、欲望の奴隷と化した。

「世界中の奴をヤりたい」

 俺は形態変化能力「分裂」を唱える。
 すると酒を暴飲したように胸がムカムカとしてきて、口から大量の赤黒い液体が吐き出された。
 吐き出されたものは空中で一か所に纏まると、人型の形を形成していき、やがて真っ赤な鱗を纏った鬼の姿となった。

「これが今の俺の姿か」

 もはや人間の頃の面影はない。まさしく鬼だ。
 鑑定すると俺と全く同じ能力を持っていた。が、魂は分け合って半減し、174京6077兆776億2211万9963となっている。

「「分裂」」

 俺は鬼と共に何度も「分裂」を繰り返した。
 計16回の分裂で、鬼の総数は65536体。魂の残りは53兆3071億3737万8604。
 鬼が空を埋め尽くし、真っ赤に染め上げている。

「ヤれ」

 そう命じると、真っ赤な鬼の大群は空を飛び、世界中の都市に向けて散らばっていった。

 俺は見える限りの山々を「破壊」によって平らな更地にすると、「物質生成」で大量の鉄を生成し、雲にかかる程の巨大な塔を建造した。
 出来上がったのは黒光りする108階層の塔、「煩悩の塔」だ。
 最上階には玉座の間を造り、俺はそこから約6万5千体の鬼が世界を滅ぼす光景を眺めた。

 俺と全ての鬼の記憶は共有されており、暴力の限りを尽くすその鮮明な映像が俺の脳に送り込まれてくる。
 男は問答無用で殺し、女は犯した後に捕らえ、煩悩の塔へと運ばれる。そしてそうやって荒らした街は「極炎」で跡形もなく焼き尽くした。
 人間が何人纏めてかかろうと一体の鬼にすら勝つことは出来ない。
 一晩のうちに国の一つは火の海へと変わった。まさに地獄だ。
 俺は頭の中に大量に流れ込むそんな映像を見て欲求を満たしていった。

「し、失礼します……」

 玉座の間に世界中の女共が次々と運ばれてくる。
 運ばれてきた女共は俺の座る玉座の前に並び、一人ずつ俺の膝の上に乗っていく。

「アァっ! あっ、やっ、ひぃい! ひぎっ! んぎぃいい!」

 巨大なブツによって女を代わる代わる貫いていく。
 塔から逃げることは許さない。俺は捕らえた全ての女を貫いていく。例外はない。
 泣き叫びながらも従う者、やけくそになって狂ったように腰を振り続ける者、最後まで抵抗する者、様々な女がいたが、貫かれる女の眼は皆同様に憎しみに満ちていた。

 気に入った女には妾としていつでも呼び出せるよう高層階に個室を用意し、食事や風呂、身に纏うものも豪華に振る舞わせることにした。
 反対に気に入らない女は下層階行きとし、「精神支配」によって操り、奴隷同然の下働きをさせた。
 するとそれは一瞬で噂となって広まり、死刑台に送られるような面持ちだった女達は一変し、俺に気に入られようと順番を無視して俺の膝の上に乗ろうと必死になった。
 旦那の名を叫びながら泣き崩れていた女でさえ、媚びへつらい、色目を使って淫乱に腰を振るようになっていた。

「はぁっ! あっあんっ! もっともっと! イくぅう……!」

 この世界での新しい生き方は、俺とうまく付き合うしかないと悟ったのだろう。
 これが人間だ。俺が言えた事ではないが、なんと醜い生き物なのか。そう思った。

 全世界をほぼ掌握した頃、性欲や殺意が満たされつつあった。
 それとは反比例して、俺の心は酷く荒んでいた。
 辛かった。こんなことはもう止めたい。だが止まらない。
 心と体は支離滅裂、精神は疲弊してボロボロの状態となっていた。
 俺を心から受け入れてくれている者などいるはずがないと分かっているからだろうか。どんな女を相手にしても虚しいばかりだ。

 そんなある日のこと、玉座の前に一人の女が堂々と現れた。

「マル……」

 それは修道服を着たリアだった。
 リアが捕らえられここに来るはずはない。
 何故ならリアが住む街には一切手を付けなかったからだ。

「何故ここに……」

「ごめんね、マル。早く来てあげられなくて……」

 リアは涙を流すと、俺の顔を胸に押し当て、強く抱きしめてくれた。

「リア……」

 不思議と性欲や殺意は湧かなかった。
 俺はリアの優しく柔らかい温もりに身を任せた。

「アデリアとエラルカから聞いたの。あなたがキメラにされたんだって」

 アデリアとエラルカ……。二人はリアと出会えたのか。良かった。
 だがキメラになったことと俺が世界を滅ぼした事に直接的な関係はない。これは俺の欲望が生み出した結果なんだ。

「違うんだリア。……俺は、俺は自分の意思で――――」

「何も言わないでいいの、マル。あなたが好きでこんなことしてるんじゃないって私には分かってるよ。……一人で辛かったね、かわいそうに」

 リアは俺を胸に抱きしめたまま、棘立った頭を優しく撫でてくれた。
 心が洗われるようだった。ずっとリアにこうされていたい。もう、このまま終わってしまいたい。

「リアぁ……う、ううっ……うあぁあぁあ……!」

 リアに会えて安心したのだろうか。どこからともなく涙が込み上げてきて、俺の中の溜め込まれた何かが一気に吐き出された。
 リアは全身を使ってそんな俺の気持ちを受け止めてくれた。

「寂しかったね。大丈夫よ、ずっと私が傍にいるから」

 リアが俺に言葉をかけるたびに涙が溢れ出た。
 理屈ではない。こんな俺を分かろうとしてくれて、受け入れてくれることがただ嬉しかった。

 俺の荒んだ心はリアに抱擁され、洗われていった。
 ……もう、こんな事は終わらせなければならない。今ならそれが出来る。

 俺は玉座から立ち上がり、リアの肩に手を置いた。
 リアは泣きっ面の俺の頬に手を当て、優しく涙を拭ってくれた。

「リア」

「ふふ、どうしたのマル。そんな真剣な顔して」

 世界の時よ止まれ――――。

 俺は世界の時を止めた。
 リアは首を傾げ微笑んだ表情で止まっている。
 出来ればこうしてずっと微笑むリアの顔を眺めていたい。そう思った。

 最後のわがままを許してくれ、リア。

「ありがとう、リア。……さよなら」

 俺はリアの唇に唇を重ねた。

 ……その約一分後、俺の魂は燃え尽きた。



――――ゴーン……ゴーン……。
 耳に響く鐘の音。俺の横を通り過ぎていく足音。
 瞼を開くと、見覚えのある真っ暗な山の中にある階段だった。
 白装束の人達が階段を上り、等間隔に灯る火の灯りが山の形を浮き上がらせている。

 どうやら俺は死んだようだ。
 おそらく俺の分身の鬼も消滅したか、同じ道を選んだことだろう。
 俺は階段を上り、真っ赤な鳥居をくぐり、寺の中へと歩を進めた。
 そして一つの大きな扉へと足を踏み入れた――――。

「来たか」

 閻魔大王が俺を睨みつけた。それに……。

「マルさん。しっかり反省してもらいますからねっ」

 ミルミルだ。ほっぺを膨らまして閻魔大王の耳元でフワフワと宙を浮いている。
 思ったより元気そうで良かった。

「ミルミル、ごめん。でも気持ち良――――」

「――――ちょ、ちょっと! 余計な事は言わないでください! ……もうっ」

「悪い悪い」

――――ダンッ!
 閻魔大王は木槌を机に強く叩き付けた。

「安田丸男、もとい、マルを八寒地獄の刑に処す。刑期は無期、貴様の魂が浄化されるまでだ!」


(了)
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みんなの感想(2件)

watapon
2017.01.30 watapon
ネタバレ含む
おれん
2017.01.31 おれん

コメントありがとうございます。
はい。やっちゃいましたね。
作者自身も少々暴走気味です(笑)

解除
watapon
2017.01.19 watapon

転生しても卒業できないなんて地獄ですね笑

力をコントロールして無双したりするんですか?
息子のコントロールも気になります笑
面白かったです!!!!

おれん
2017.01.20 おれん

感想ありがとうございます。
力のコントロールは出来るとしても息子のコントロールは難しそうですね。

解除

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