逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

文字の大きさ
36 / 99
第一章:逆行聖女

第36話:自警団員アリシア 14

しおりを挟む
「――シエナ、戻りました!」

 シエナは何食わぬ顔で前線へと復帰した。

「遅かったじゃないか、大丈夫か?」
「はい! 少しだけ意識を飛ばしていただけです!」
「それは大丈夫とは言わないだろう!」

 ゴッツの確認にシエナが答えると、それに対してダレルが心配そうに声をあげた。

「この程度は問題ありません!」
「なら構わん。だが、無理はするなよ」
「いいのかよ! ったく、団長もゴッツさんも人使いが荒いんだからさぁ」
「何か言ったか?」
「な、なんでもありません!」

 ゴッツがギロリと睨みを利かせると、ダレルは視線を前方に向けて話を逸らせた。

「戦況はどうですか?」
「団長とシザーベアは一進一退といったところだ。だが、持久戦となれば厳しいだろうな」
「なんとか俺たちと交代して休んでもらっているけど、もって五分くらいだからな。最終的にじり貧なのはこっちってわけだ」

 数を投入することも選択肢の一つだが、それでは多くの犠牲を伴った勝利になるだろう。
 それをアーノルドは望んでおらず、そうして手に入れた勝利の先にあるのが多くの悲しみであることはゴッツとダレルも知っている。
 だからこそ、今ここでケリをつけたいと考えていた。

「団長! シエナが戻りました!」
「よし! 一気に仕掛けるぞ!」
「「「はい!」」」

 直剣と鉄槍を構えた三人がシザーベアを包囲すると、じりじりと間合いを詰めていく。
 目の前のアーノルドを相手に周囲にも気を張り巡らせているシザーベアの苛立ちは計り知れないだろう。
 故に、シザーベアは倒しやすいと判断した相手目掛けて一直線に突っ込んでいく。

「行ったぞ――シエナ!」
『グルアアアアッ!』
「さっきとは違うってところ、見せてやるわよ!」

 アーノルドの声とシザーベアの雄叫びが重なった。
 シエナは先ほど、間合いを図り損ねて吹き飛ばされてしまった。
 だが、その甲斐もあってかすでにシザーベアの間合いを完全に把握している。
 鋭い爪が月明かりに照らされながら振り抜かれるが、シエナは軽やかな足取りで回避すると、真横を抜けながら剣を横に薙ぐ。
 間違いなく命中した。だが、シエナの表情は冴えない。

「やっぱり、私の剣じゃあ分厚い体毛を切り裂けないか!」

 全ての柔の剣が軽いわけではない。
 今回でいえばシエナが扱う柔の剣は動きの速さに特化したものであり、一撃の重さが他の柔の剣と比べて軽かった。
 それに加えてシザーベアの体毛である。
 剛毛でありながらしなやかで、威力に特化した剛の剣ですら体毛の先にある皮膚を切り裂くことすら困難を極めてしまう。
 現状、シザーベアとシエナの相性は最悪なものだった。

「それでも、足を止めるわけにはいかないのよ!」

 シエナがシザーベアに一矢報いるならば、急所を狙った一撃を加えることだろう。
 しかし、相手も急所への攻撃は常に警戒しており、そこを狙ったが最後カウンターの一撃で地に叩き伏せられるに違いない。
 それを理解しているシエナは、さらに加速しながらも急所を狙うような愚行は犯さなかった。

「さあ! 私の動きが追えるかしら!」
『ガルアアッ! グルルゥゥ、グルアッ!』

 まるでシザーベアを挑発するかのように目の前を動き回り、効きもしない斬撃を加えていく。
 それがさらにシザーベアの苛立ちを募らせる格好となり、視野が段々と狭くなっていく。

「そうよ! 私だけを見なさい! 私はただの――囮なんだからね!」

 そう、シエナの役目は囮に過ぎない。
 何故ならこの場には他に、攻撃を担える者がいるのだから。

「うおおおおおおおおっ!」
「せいやああああああああっ!」

 渾身の力を込めた鋭い刺突と、最大速度から振り抜かれた鋭い斬撃が、シザーベアの背後へと襲い掛かった。
 地面を踏み砕きそうなほどの気合いが込められたゴッツの刺突。
 残像が見えるのではと錯覚するほどの速度を持ったダレルの袈裟斬り。
 二人の攻撃は間違いなくシザーベアの背中を捉えていた。

「……くっ! ぬ、抜けんぞ!」
「手を離せ! ゴッツさん!」
『グルアアアアッ!』
「ぬおおおおぉぉっ!?」

 シザーベアの皮膚まで到達し貫いた鉄槍だったが、穂先が食い込んでしまい巨体のゴッツがどれだけ力を込めても引き抜けない。
 それを良しとしたのか、シザーベアはそのまま体を振り回すと、ダレルの警告も間に合わず鉄槍を半ばからへし折りながら、力任せにゴッツを弾き飛ばしてしまった。

「て、てめええええっ!」
「ダメです! ダレル分隊長!」

 頭に血が上ったダレルが再び加速してシザーベアへ突っ込んでいく。
 だが、今度はシザーベアもダレルのことを視界に捉えている。
 大きく振り上げた巨椀が横に薙がれると、間一髪で直剣を盾にできたものの構うことなく殴り飛ばされてしまった。

「ぐがああああっ!?」

 しかし、ダレルの表情には笑みが浮かんでいた。
 彼だけではなく、ゴッツの表情にもだ。
 何故ならここまでの展開は全て――アーノルドの思惑通りだったから。

「頼みましたよ!」
「団長!」
「やっちゃってください!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉっ!!」

 傷を負うことを覚悟の上で、シエナだけではなくゴッツとダレルも囮になっていた。
 全てはアーノルドの放つ、必殺の一撃へと導くために。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...