逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

文字の大きさ
40 / 99
第一章:逆行聖女

第40話:自警団員アリシア 18

しおりを挟む
 アリシアの体から真っ白で強烈な光が放たれたのだ。

「ア、アリシア!?」
「どうしたの、アリシアちゃん!」

 ヴァイスとシエナが驚きの声をあげる中、アリシアは体から放たれている光に見覚えがある。
 それは前世で何度も行使した力であり、今のアリシアでは使うことのできないはずの力でもあった。

「ど、どうして? ……でも、これなら!」

 ギュッと拳を握りしめ、アリシアは回復魔法を発動させるために体内の魔力を片っ端から手のひらに集め始める。
 その身はまだ小さく、内包する魔力もまた少ない。
 アーノルドの傷の具合から、初級の回復魔法であるヒールでは足りないと判断した。

「……まさか、回復魔法?」
「「か、回復魔法だって!?」」
「いや、俺も聞いたことがあるだけで、実際に見たことは……」

 ゴッツが戸惑いながらそう答えると、再び意識をアリシアへ向ける。

(……集中するのよ、アリシア! 自分の力で運命を変えると決めたんだから、ここで失敗は許されないわ!)

 両手に集約していく魔力は徐々に輝きを強くしていく。
 ヴァイスたちにもアリシアの緊張感が伝わっており、誰も口を開くことなく見守っている。

(まだ……まだよ……もう少し……あと少し…………今だわ!)

 目を大きく見開いたアリシアは、聖女として生きてきた前世を思い出し、聖女にしか使うことのできない魔法を発動させた。

「パーフェクトヒール!」

 集約させた魔力を全て使い果たす覚悟で発動されたパーフェクトヒールの光がアーノルドを包み込んでいく。
 光量を落とすことなく、むしろさらに輝きを増していく光に、ヴァイスたちは目を閉じてしまう。
 唯一アリシアだけは慣れ親しんだ光を見てさらに目を見開き、苦しかったことが脳裏をよぎる。

(……ダメよ、アリシア! 今はお父さんの治療に集中するんだから!)

 体内から魔力が急激に失われていくせいで眩暈を覚えたが、それでもアリシアは歯を食いしばりパーフェクトヒールを維持していく。
 アーノルドの右肩にあった傷が徐々に塞がっていき、青白くなっていた顔色に血の気が戻ってくる。
 浅かった呼吸も僅かにではあるが落ち着きを取り戻すと、アリシアは山を越えたと小さく息を吐き出した。

「……あ」

 しかし、それで緊張の糸が切れたのか、アリシアの体がぐらりと揺れた。

「アリシア!」

 体が地面に倒れる寸前、ヴァイスが彼女の体を支えて難を逃れた。

「……ありがとう、ヴァイス兄」
「お前、大丈夫なのか?」
「えへへ……ちょっと寝たら、大丈夫、だよ」
「……そうか」

 冷や汗を流しながらも笑みを浮かべたアリシアを見て、ヴァイスも同じように微笑んだ。

「……ヴァイス兄。お父さんは?」

 アリシアの言葉を受けてヴァイスがアーノルドへ視線を向ける。
 すでにシエナとゴッツが状態を確かめており、問題ないと判断したのか二人は安堵した表情で大きく頷いた。

「……大丈夫だ、アリシア」
「そっか、よかった」
「お前、顔色が酷いぞ。少し休め。俺が担いでいくから」
「……うん。ありがとう……ヴァイス、兄」

 最後にお礼を口にしたアリシアは、そのまま意識を失った。

「……お礼を言うのは俺だよ、アリシア」

 アリシアにはもう聞こえていなかったが、ヴァイスは涙を堪えながらそう力強く口にしたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...