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第一章:逆行聖女
第46話:自警団員アリシア 24
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――それから一ヶ月が経ち、ついにアリシアも剣を握れる時がやってきた。
「本当はもっと早くから握れたはずなんだけどなー」
「そ、そう言うな、アリシア。私も心配でだなぁ……」
「うふふ、冗談だよ、お父さん」
道中でそんなやり取りをしながら訓練場へ到着すると、そこではすでにヴァイスとジーナが模擬戦を繰り広げていた。
「よっ! ほっ! はっ!」
「はあっ! せいっ! どりゃあっ!」
柔の剣と剛の剣がぶつかり合う光景は圧巻の一言であり、それだけアリシアが休んでいる間に二人が実力を伸ばしたということでもある。
その事実が嬉しくもあり、悔しくもあるアリシアの拳は自然と強く握られていた。
「今日も私が勝つんだからね!」
「そうは、させるかよ!」
トータルの勝率はジーナの方が高いものの、最近ではヴァイスが勝率を伸ばしてきている。
前回の試合では連敗をジーナが止めており、この勢いで連勝したいと意気込んでいたのだが、ヴァイスもここで連敗を喫するわけにはいかなかった。
「よし! ここだ!」
「その動きはもう――見切ったんだよ!」
「ちょっと――痛いっ!?」
視覚を徹底的に狙った動き回り、フェイントを交えながらの攻撃だったが、何十回も模擬戦を繰り返しているうちにジーナの動きを見切っていた。
飛び込んできたタイミングでヴァイスが大剣を突き出すと、ジーナは勢い余って顔面からぶつかってしまった。
「あいたたた」
「お前、今のが真剣だったら自分から死にに行ってるみたいなもんだぞ?」
「お兄ちゃんがいきなり大剣を向けてくるからでしょう!」
「いや、そういうもんだろうが」
「はいはい! 兄妹喧嘩はそれまでよ! せっかくアリシアちゃんも来てくれたのに」
「「えぇっ!?」」
模擬戦の途中で気づいていなかった二人が驚きの声をあげると、すぐに視線がアリシアへ向けられる。
「二人とも、とってもすごかったよ!」
「アリシアちゃん!」
「見てたか、アリシア! 俺の勇姿を!」
「ぶーっ! 今日のはたまたまなんだからね!」
「今日からアリシアちゃんも訓練に復帰するけど、ブランクがあるから無理はさせないようにね」
「よろしくね、二人とも!」
二人に追いつくには時間が掛かるだろう。
特にヴァイスはシザーベアとの一戦以来、実力を伸ばすために家に帰ってからも努力を欠かしていない。
ジーナとの模擬戦で勝率が上がっているのも努力の賜物と言えるだろう。
だからこそ、アリシアもこれからは努力を欠かすことなく実力を伸ばす必要があると考えている。
ジーナだけではなく、ヴァイスも追い越して、アーノルドの背中に追いつくために。
そして、いずれやってくる国の危機を自らの手で乗り越えるために。
アリシアが訓練を再開させた姿を、アーノルドは詰め所の窓から眺めていた。
「本当にもう大丈夫なのですか、団長?」
「あぁ、問題ない。まあ、本当はもっと前から問題はなかったんだがな」
声を掛けたのはアリシアが回復魔法を使ったことを知っているゴッツだった。
「それで、ゴッツ。聖教会の動きは掴めたか?」
「それが、特に動きは見られない状態です」
「そうか……すまないな、慣れない調査をお願いしてしまって」
「いえ、そんなことはありませんよ」
アーノルドはアリシアの秘密を、ゴッツにだけは打ち明けていた。
最初こそアリシアに悪いと思っていたのだが、彼女を守るために信頼できる協力者が必要だと考えた結果、回復魔法の事情を知っているゴッツの名前が浮かび上がってきたのだ。
「ですが、本当に聖教会がアリシアを?」
「あぁ。まだ聖女として目覚めたわけではないから大丈夫だと思いたいが、備えておいて損はないからな」
「団長は、聖教会と一戦交えるおつもりですか?」
物騒な質問だが、アーノルドは迷うことなく頷いた。
「そのつもりだ。だが、安心してくれ。お前たちに迷惑が掛かるようなことはしないさ」
もしも聖教会が動くようなことがあれば、アーノルドは先んじて村を出るつもりでいる。
そうすればディラーナ村の迷惑になることはないだろうと考えているのだ。
「そんな寂しいことを言わんでください、団長」
「だがなぁ、ゴッツ」
「私も団長とアリシアのおかげで、ヴォルス副団長の仇を取ることができたのです。ならば今度は、私が団長とアリシアのために命を懸ける番ということですよ」
「いいや、それはダメだ!」
「ダメではありませんよ」
断ろうとしたアーノルドに対して、ゴッツは快活な笑みを浮かべながら頑として言うことを聞かなかった。
「それに、私の命も本来であれば三年前のあの時に失われているはずのものでした。それを繋ぎ止めてくれたのはヴォルス副団長であり、団長ですからね」
「……本当に、いいのか?」
「はははっ! 愚問ですよ、団長! 当然ではないですか!」
「……ありがとう、ゴッツ」
「絶対にアリシアを守り抜きましょう」
「……ああっ!」
ゴッツという自らが考え得る最高の協力者を得たアーノルドは、アリシアを絶対に守り抜くと心の中で誓ったのだった。
「本当はもっと早くから握れたはずなんだけどなー」
「そ、そう言うな、アリシア。私も心配でだなぁ……」
「うふふ、冗談だよ、お父さん」
道中でそんなやり取りをしながら訓練場へ到着すると、そこではすでにヴァイスとジーナが模擬戦を繰り広げていた。
「よっ! ほっ! はっ!」
「はあっ! せいっ! どりゃあっ!」
柔の剣と剛の剣がぶつかり合う光景は圧巻の一言であり、それだけアリシアが休んでいる間に二人が実力を伸ばしたということでもある。
その事実が嬉しくもあり、悔しくもあるアリシアの拳は自然と強く握られていた。
「今日も私が勝つんだからね!」
「そうは、させるかよ!」
トータルの勝率はジーナの方が高いものの、最近ではヴァイスが勝率を伸ばしてきている。
前回の試合では連敗をジーナが止めており、この勢いで連勝したいと意気込んでいたのだが、ヴァイスもここで連敗を喫するわけにはいかなかった。
「よし! ここだ!」
「その動きはもう――見切ったんだよ!」
「ちょっと――痛いっ!?」
視覚を徹底的に狙った動き回り、フェイントを交えながらの攻撃だったが、何十回も模擬戦を繰り返しているうちにジーナの動きを見切っていた。
飛び込んできたタイミングでヴァイスが大剣を突き出すと、ジーナは勢い余って顔面からぶつかってしまった。
「あいたたた」
「お前、今のが真剣だったら自分から死にに行ってるみたいなもんだぞ?」
「お兄ちゃんがいきなり大剣を向けてくるからでしょう!」
「いや、そういうもんだろうが」
「はいはい! 兄妹喧嘩はそれまでよ! せっかくアリシアちゃんも来てくれたのに」
「「えぇっ!?」」
模擬戦の途中で気づいていなかった二人が驚きの声をあげると、すぐに視線がアリシアへ向けられる。
「二人とも、とってもすごかったよ!」
「アリシアちゃん!」
「見てたか、アリシア! 俺の勇姿を!」
「ぶーっ! 今日のはたまたまなんだからね!」
「今日からアリシアちゃんも訓練に復帰するけど、ブランクがあるから無理はさせないようにね」
「よろしくね、二人とも!」
二人に追いつくには時間が掛かるだろう。
特にヴァイスはシザーベアとの一戦以来、実力を伸ばすために家に帰ってからも努力を欠かしていない。
ジーナとの模擬戦で勝率が上がっているのも努力の賜物と言えるだろう。
だからこそ、アリシアもこれからは努力を欠かすことなく実力を伸ばす必要があると考えている。
ジーナだけではなく、ヴァイスも追い越して、アーノルドの背中に追いつくために。
そして、いずれやってくる国の危機を自らの手で乗り越えるために。
アリシアが訓練を再開させた姿を、アーノルドは詰め所の窓から眺めていた。
「本当にもう大丈夫なのですか、団長?」
「あぁ、問題ない。まあ、本当はもっと前から問題はなかったんだがな」
声を掛けたのはアリシアが回復魔法を使ったことを知っているゴッツだった。
「それで、ゴッツ。聖教会の動きは掴めたか?」
「それが、特に動きは見られない状態です」
「そうか……すまないな、慣れない調査をお願いしてしまって」
「いえ、そんなことはありませんよ」
アーノルドはアリシアの秘密を、ゴッツにだけは打ち明けていた。
最初こそアリシアに悪いと思っていたのだが、彼女を守るために信頼できる協力者が必要だと考えた結果、回復魔法の事情を知っているゴッツの名前が浮かび上がってきたのだ。
「ですが、本当に聖教会がアリシアを?」
「あぁ。まだ聖女として目覚めたわけではないから大丈夫だと思いたいが、備えておいて損はないからな」
「団長は、聖教会と一戦交えるおつもりですか?」
物騒な質問だが、アーノルドは迷うことなく頷いた。
「そのつもりだ。だが、安心してくれ。お前たちに迷惑が掛かるようなことはしないさ」
もしも聖教会が動くようなことがあれば、アーノルドは先んじて村を出るつもりでいる。
そうすればディラーナ村の迷惑になることはないだろうと考えているのだ。
「そんな寂しいことを言わんでください、団長」
「だがなぁ、ゴッツ」
「私も団長とアリシアのおかげで、ヴォルス副団長の仇を取ることができたのです。ならば今度は、私が団長とアリシアのために命を懸ける番ということですよ」
「いいや、それはダメだ!」
「ダメではありませんよ」
断ろうとしたアーノルドに対して、ゴッツは快活な笑みを浮かべながら頑として言うことを聞かなかった。
「それに、私の命も本来であれば三年前のあの時に失われているはずのものでした。それを繋ぎ止めてくれたのはヴォルス副団長であり、団長ですからね」
「……本当に、いいのか?」
「はははっ! 愚問ですよ、団長! 当然ではないですか!」
「……ありがとう、ゴッツ」
「絶対にアリシアを守り抜きましょう」
「……ああっ!」
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