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第一章:逆行聖女
第66話:聖女アリシア 19
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「ったく。それじゃあ、あと一人だが……ケイナ!」
「は、はい!」
ケイナと呼ばれた女性騎士が、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「紹介する。こいつは見習い騎士のケイナだ」
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくね、ケイナさん」
「わ、私なんかにさん付けは必要ないです!」
「それじゃあ……ケイナちゃんね」
「ち、ちゃん付けも必要ないです……」
護衛対象にちゃん付けされてしまい、どう対応すればいいのかわからなくなったケイナは、困ったようにゼーアへ視線を向けた。
「アリシアの言わせたいようにさせてやれ」
「……わ、わかりました」
「それじゃあ、魔獣狩りを始めましょうか!」
「どうしてアリシアがやる気になっているんだ?」
「自警団員として、村では魔獣狩りをしてきたからです」
「……アリシア様は、すごいのですね」
アリシアを見るケイナの眼差しに尊敬の念が含まれたものの、当の本人は気にしたそぶりも見せずに前に出る。
しかし、すぐにゼーアがアリシアの前に出ると、慌ててケイナも続いた。
「護衛対象が自ら前に出るんじゃない」
「私、強いですよ?」
「それはわかったから……ったく、お転婆な聖女様だな」
「私にとって、お転婆は褒め言葉ですよ?」
「……誰も褒めていないからな?」
合計で七つの班が出来上がると、それぞれが魔獣の襲来に備えるのだった。
◆◇◆◇
――アリシアたちが魔獣討伐を決意している頃、ホールトンは専用の馬車で優雅に腰掛けながら、酒の入ったグラスを傾けていた。
「どうなると思う、ベントナー?」
話し相手になるよう言われていたベントナーも同乗しており、彼はニヤリと笑いながら答えた。
「多くの田舎騎士どもが犠牲になるでしょう」
「田舎娘は?」
「今回の騒動で同時に犠牲となるでしょう。何せ田舎娘は自分のことを自警団員だと自信満々に言っておりましたからね」
二人がどうしてこのような話をしているのかと言うと、今回の魔獣騒動はベントナーが仕掛けたものだからである。
「魔獣の下へわざわざ出向く、ということか?」
「さようでございます、大司祭様」
視線を窓からベントナーへ向けたホールトンの顔には、下卑た笑みが浮かんでいる。
そして、ベントナーも似たような表情を浮かべていた。
「これで命令をろくに聞かない田舎騎士や田舎娘を処分できるというわけか」
「それも、処分をしてくれるのは魔獣たちであり、我々はそれに一切の関与をしておりません」
「証拠も残らない、というわけだ。よく考えてくれたぞ、ベントナーよ」
そう口にしたホールトンは懐から数枚の金貨を取り出して放り投げると、ベントナーは笑みを浮かべながら受け取った。
「都市についたらそれで美味い飯でも酒でも、女でも買ってくるがよい」
「ありがとうございます、大司祭様」
金貨を握りしめたベントナーは満面の笑みを浮かべながら、その金貨を懐に収めた。
「……だが、時間を無駄にしてしまったな」
王都からディラーナ村までは最短でも三日掛かり、往復で六日は掛かってしまう。
それだけの時間を無駄にしたと考えたホールトンは、ギリッと奥歯を噛みしめた。
「六日もあれば、さらなるお布施を期待できたものを。……だがまあ、ゴミを王都に連れていかなくて済んだと考えれば、多少は気も楽になるか」
「その通りです、大司祭様。あのような者を聖教会に取り込めば、あれが膿になることも考えられます」
「間違いないな。はははははっ!」
聖教会の教えだからと出向いたが、それも今後は変えていかなければならないかと思い始めたホールトンは、目の前のことではなく未来のことへ目を向け始める。
「私はいずれ教皇になる。そうなれば、誰も私には逆らえなくなるだろう。そうしたら……くくくく、楽しみだ」
遠くの方から魔獣の遠吠えが聞こえてきたが、ホールトンもベントナーも気にすることなく、上機嫌にグラスを傾ける。
その姿はまるで、魔獣の遠吠えが最高の酒の共になったかのように見えたことだろう。
「は、はい!」
ケイナと呼ばれた女性騎士が、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「紹介する。こいつは見習い騎士のケイナだ」
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくね、ケイナさん」
「わ、私なんかにさん付けは必要ないです!」
「それじゃあ……ケイナちゃんね」
「ち、ちゃん付けも必要ないです……」
護衛対象にちゃん付けされてしまい、どう対応すればいいのかわからなくなったケイナは、困ったようにゼーアへ視線を向けた。
「アリシアの言わせたいようにさせてやれ」
「……わ、わかりました」
「それじゃあ、魔獣狩りを始めましょうか!」
「どうしてアリシアがやる気になっているんだ?」
「自警団員として、村では魔獣狩りをしてきたからです」
「……アリシア様は、すごいのですね」
アリシアを見るケイナの眼差しに尊敬の念が含まれたものの、当の本人は気にしたそぶりも見せずに前に出る。
しかし、すぐにゼーアがアリシアの前に出ると、慌ててケイナも続いた。
「護衛対象が自ら前に出るんじゃない」
「私、強いですよ?」
「それはわかったから……ったく、お転婆な聖女様だな」
「私にとって、お転婆は褒め言葉ですよ?」
「……誰も褒めていないからな?」
合計で七つの班が出来上がると、それぞれが魔獣の襲来に備えるのだった。
◆◇◆◇
――アリシアたちが魔獣討伐を決意している頃、ホールトンは専用の馬車で優雅に腰掛けながら、酒の入ったグラスを傾けていた。
「どうなると思う、ベントナー?」
話し相手になるよう言われていたベントナーも同乗しており、彼はニヤリと笑いながら答えた。
「多くの田舎騎士どもが犠牲になるでしょう」
「田舎娘は?」
「今回の騒動で同時に犠牲となるでしょう。何せ田舎娘は自分のことを自警団員だと自信満々に言っておりましたからね」
二人がどうしてこのような話をしているのかと言うと、今回の魔獣騒動はベントナーが仕掛けたものだからである。
「魔獣の下へわざわざ出向く、ということか?」
「さようでございます、大司祭様」
視線を窓からベントナーへ向けたホールトンの顔には、下卑た笑みが浮かんでいる。
そして、ベントナーも似たような表情を浮かべていた。
「これで命令をろくに聞かない田舎騎士や田舎娘を処分できるというわけか」
「それも、処分をしてくれるのは魔獣たちであり、我々はそれに一切の関与をしておりません」
「証拠も残らない、というわけだ。よく考えてくれたぞ、ベントナーよ」
そう口にしたホールトンは懐から数枚の金貨を取り出して放り投げると、ベントナーは笑みを浮かべながら受け取った。
「都市についたらそれで美味い飯でも酒でも、女でも買ってくるがよい」
「ありがとうございます、大司祭様」
金貨を握りしめたベントナーは満面の笑みを浮かべながら、その金貨を懐に収めた。
「……だが、時間を無駄にしてしまったな」
王都からディラーナ村までは最短でも三日掛かり、往復で六日は掛かってしまう。
それだけの時間を無駄にしたと考えたホールトンは、ギリッと奥歯を噛みしめた。
「六日もあれば、さらなるお布施を期待できたものを。……だがまあ、ゴミを王都に連れていかなくて済んだと考えれば、多少は気も楽になるか」
「その通りです、大司祭様。あのような者を聖教会に取り込めば、あれが膿になることも考えられます」
「間違いないな。はははははっ!」
聖教会の教えだからと出向いたが、それも今後は変えていかなければならないかと思い始めたホールトンは、目の前のことではなく未来のことへ目を向け始める。
「私はいずれ教皇になる。そうなれば、誰も私には逆らえなくなるだろう。そうしたら……くくくく、楽しみだ」
遠くの方から魔獣の遠吠えが聞こえてきたが、ホールトンもベントナーも気にすることなく、上機嫌にグラスを傾ける。
その姿はまるで、魔獣の遠吠えが最高の酒の共になったかのように見えたことだろう。
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