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第二章:自由と束縛と
第82話:冒険者アリシア 7
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「――そっちに行ったわよ!」
アリシアの声を受けて、ケイナが茂みから飛び出した。
『ヂュルリャ!?』
「はあっ!」
「ゼーアさん!」
「おうよ!」
一匹のビッグラットをケイナが仕留めれば、ゼーアは持ち前の膂力を活かして大剣を振るい、一振りで複数のビッグラットを両断してしまう。
一方でアリシアはといえば、ビッグラットを誘い出す役目を買って出ており、魔獣の巣へ単身侵入していた。
「ったく、本当に聖女候補だった女の子なのかねぇ、アリシアは」
「アリシア様も田舎の出身ですし、自警団だったんですよね? なら、魔獣とも毎日のように戦っていたんじゃないですか?」
「だろうな。だが、普通の女の子なら剣を握ることをしないだろう。親父さんも実力者っぽかったしなぁ」
ゼーアはアリシアの故郷であるディラーナ村で一度だけ、彼女の父であるアーノルドの姿を見ている。
その佇まいからただ者ではないと瞬時に判断しており、どうしてこれだけの覇気を帯びている者が田舎の村に引きこもっているのかと疑問に思っていた。
アリシアの家庭事情を探るつもりはないが、実力者であればあるほど魔獣の脅威は自覚しており、だからこそ子供に剣を持たせることはしないのではとも考えていた。
「アリシア様は未来を変えるために剣を取ったんですよね?」
「あぁ、そうだったな。あまりに現実味を欠いているから、今日聞いたのにすっかり忘れちまうわ」
周囲にビッグラットの気配がなくなったところで、ゼーアは頭を掻きながら小さく息を吐き出した。
「私はアリシア様を信じていますよ!」
「俺だってそうだ。実際にアリシアの知識は常識を逸している。だが……できれば、アリシアみたいな女の子がしがらみに縛られるのは見たくねぇなぁ」
「……私も女の子なんですけど?」
「お前は別に縛られてねぇだろうが。アリシアは、前世で見たっていう未来に縛られている。これを解決できなければ国が亡びるんだから仕方ねぇが、どうにもなぁ」
「……そう、ですね」
二人はそう口にすると、アリシアが再び入っていったビッグラットの巣の入口に視線を向けた。
「……まあ、俺たちはアリシアを支えることしかできそうもねぇな」
「……はい!」
「というわけで、そろそろ戻ってくるだろう俺たちのお姫様を出迎えるとしますか」
快活な笑みを浮かべたゼーアは大剣を手に立ち上がると、ケイナも一つ頷いてから強く剣を握る。
巣になっていた洞窟からドドドドという音が近づいてくると、しばらくしてアリシアが飛び出してきた。
「ゼーアさん! ケイナちゃん!」
「おうよ!」
「はい!」
アリシアに続いて飛び出してきたビッグラットの群れ。その中にはひときわ大きな個体も含まれている。
「これで最後です!」
「ってことは、あいつがこの巣の親玉ってことだな!」
「私は周りの個体を片付けます! ゼーアさんは――」
「おうよ! 一撃で叩き切ってやるぜ!」
アリシアが機動力を活かして陽動を行い、ケイナが周りの個体を間引きながら引きつけ、ゼーアは群れの主である個体と相対する。
以前の――アリシアと出会う前のゼーアであれば苦戦していたかもしれない。
しかし、今の彼はトロールファイターと相対したことで、ビッグラットくらいでは怯むことも、恐怖を感じることもない。
『ヂュリュララララアアアアアアアアァァアアァァッ!!』
「遅いんだよ!」
アリシアのオールアップが掛かっている――わけではない。
今のゼーアは純粋な自らの実力でビッグラットと渡り合っている。
そして、ビッグラットの動きを完璧に見切り、一瞬の隙をついて大剣を振り上げた。
「終わりだ、ネズミ野郎!」
『ヂュリュララララ――ラバッ!?』
宣言通り、ゼーアはビッグラットの主を一撃で叩き切って見せた。
すぐにケイナの援護に移ろうと踵を返したが、そこではすでに戦闘が終わっていた。
「……まあ、アリシアが援護していれば当然か」
アリシアとケイナが笑顔で手を振っており、それを見てゼーアは軽く肩を竦めて見せたのだった。
アリシアの声を受けて、ケイナが茂みから飛び出した。
『ヂュルリャ!?』
「はあっ!」
「ゼーアさん!」
「おうよ!」
一匹のビッグラットをケイナが仕留めれば、ゼーアは持ち前の膂力を活かして大剣を振るい、一振りで複数のビッグラットを両断してしまう。
一方でアリシアはといえば、ビッグラットを誘い出す役目を買って出ており、魔獣の巣へ単身侵入していた。
「ったく、本当に聖女候補だった女の子なのかねぇ、アリシアは」
「アリシア様も田舎の出身ですし、自警団だったんですよね? なら、魔獣とも毎日のように戦っていたんじゃないですか?」
「だろうな。だが、普通の女の子なら剣を握ることをしないだろう。親父さんも実力者っぽかったしなぁ」
ゼーアはアリシアの故郷であるディラーナ村で一度だけ、彼女の父であるアーノルドの姿を見ている。
その佇まいからただ者ではないと瞬時に判断しており、どうしてこれだけの覇気を帯びている者が田舎の村に引きこもっているのかと疑問に思っていた。
アリシアの家庭事情を探るつもりはないが、実力者であればあるほど魔獣の脅威は自覚しており、だからこそ子供に剣を持たせることはしないのではとも考えていた。
「アリシア様は未来を変えるために剣を取ったんですよね?」
「あぁ、そうだったな。あまりに現実味を欠いているから、今日聞いたのにすっかり忘れちまうわ」
周囲にビッグラットの気配がなくなったところで、ゼーアは頭を掻きながら小さく息を吐き出した。
「私はアリシア様を信じていますよ!」
「俺だってそうだ。実際にアリシアの知識は常識を逸している。だが……できれば、アリシアみたいな女の子がしがらみに縛られるのは見たくねぇなぁ」
「……私も女の子なんですけど?」
「お前は別に縛られてねぇだろうが。アリシアは、前世で見たっていう未来に縛られている。これを解決できなければ国が亡びるんだから仕方ねぇが、どうにもなぁ」
「……そう、ですね」
二人はそう口にすると、アリシアが再び入っていったビッグラットの巣の入口に視線を向けた。
「……まあ、俺たちはアリシアを支えることしかできそうもねぇな」
「……はい!」
「というわけで、そろそろ戻ってくるだろう俺たちのお姫様を出迎えるとしますか」
快活な笑みを浮かべたゼーアは大剣を手に立ち上がると、ケイナも一つ頷いてから強く剣を握る。
巣になっていた洞窟からドドドドという音が近づいてくると、しばらくしてアリシアが飛び出してきた。
「ゼーアさん! ケイナちゃん!」
「おうよ!」
「はい!」
アリシアに続いて飛び出してきたビッグラットの群れ。その中にはひときわ大きな個体も含まれている。
「これで最後です!」
「ってことは、あいつがこの巣の親玉ってことだな!」
「私は周りの個体を片付けます! ゼーアさんは――」
「おうよ! 一撃で叩き切ってやるぜ!」
アリシアが機動力を活かして陽動を行い、ケイナが周りの個体を間引きながら引きつけ、ゼーアは群れの主である個体と相対する。
以前の――アリシアと出会う前のゼーアであれば苦戦していたかもしれない。
しかし、今の彼はトロールファイターと相対したことで、ビッグラットくらいでは怯むことも、恐怖を感じることもない。
『ヂュリュララララアアアアアアアアァァアアァァッ!!』
「遅いんだよ!」
アリシアのオールアップが掛かっている――わけではない。
今のゼーアは純粋な自らの実力でビッグラットと渡り合っている。
そして、ビッグラットの動きを完璧に見切り、一瞬の隙をついて大剣を振り上げた。
「終わりだ、ネズミ野郎!」
『ヂュリュララララ――ラバッ!?』
宣言通り、ゼーアはビッグラットの主を一撃で叩き切って見せた。
すぐにケイナの援護に移ろうと踵を返したが、そこではすでに戦闘が終わっていた。
「……まあ、アリシアが援護していれば当然か」
アリシアとケイナが笑顔で手を振っており、それを見てゼーアは軽く肩を竦めて見せたのだった。
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