逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

文字の大きさ
82 / 99
第二章:自由と束縛と

第82話:冒険者アリシア 7

しおりを挟む
「――そっちに行ったわよ!」

 アリシアの声を受けて、ケイナが茂みから飛び出した。

『ヂュルリャ!?』
「はあっ!」
「ゼーアさん!」
「おうよ!」

 一匹のビッグラットをケイナが仕留めれば、ゼーアは持ち前の膂力を活かして大剣を振るい、一振りで複数のビッグラットを両断してしまう。
 一方でアリシアはといえば、ビッグラットを誘い出す役目を買って出ており、魔獣の巣へ単身侵入していた。

「ったく、本当に聖女候補だった女の子なのかねぇ、アリシアは」
「アリシア様も田舎の出身ですし、自警団だったんですよね? なら、魔獣とも毎日のように戦っていたんじゃないですか?」
「だろうな。だが、普通の女の子なら剣を握ることをしないだろう。親父さんも実力者っぽかったしなぁ」

 ゼーアはアリシアの故郷であるディラーナ村で一度だけ、彼女の父であるアーノルドの姿を見ている。
 その佇まいからただ者ではないと瞬時に判断しており、どうしてこれだけの覇気を帯びている者が田舎の村に引きこもっているのかと疑問に思っていた。
 アリシアの家庭事情を探るつもりはないが、実力者であればあるほど魔獣の脅威は自覚しており、だからこそ子供に剣を持たせることはしないのではとも考えていた。

「アリシア様は未来を変えるために剣を取ったんですよね?」
「あぁ、そうだったな。あまりに現実味を欠いているから、今日聞いたのにすっかり忘れちまうわ」

 周囲にビッグラットの気配がなくなったところで、ゼーアは頭を掻きながら小さく息を吐き出した。

「私はアリシア様を信じていますよ!」
「俺だってそうだ。実際にアリシアの知識は常識を逸している。だが……できれば、アリシアみたいな女の子がしがらみに縛られるのは見たくねぇなぁ」
「……私も女の子なんですけど?」
「お前は別に縛られてねぇだろうが。アリシアは、前世で見たっていう未来に縛られている。これを解決できなければ国が亡びるんだから仕方ねぇが、どうにもなぁ」
「……そう、ですね」

 二人はそう口にすると、アリシアが再び入っていったビッグラットの巣の入口に視線を向けた。

「……まあ、俺たちはアリシアを支えることしかできそうもねぇな」
「……はい!」
「というわけで、そろそろ戻ってくるだろう俺たちのお姫様を出迎えるとしますか」

 快活な笑みを浮かべたゼーアは大剣を手に立ち上がると、ケイナも一つ頷いてから強く剣を握る。
 巣になっていた洞窟からドドドドという音が近づいてくると、しばらくしてアリシアが飛び出してきた。

「ゼーアさん! ケイナちゃん!」
「おうよ!」
「はい!」

 アリシアに続いて飛び出してきたビッグラットの群れ。その中にはひときわ大きな個体も含まれている。

「これで最後です!」
「ってことは、あいつがこの巣の親玉ってことだな!」
「私は周りの個体を片付けます! ゼーアさんは――」
「おうよ! 一撃で叩き切ってやるぜ!」

 アリシアが機動力を活かして陽動を行い、ケイナが周りの個体を間引きながら引きつけ、ゼーアは群れの主である個体と相対する。
 以前の――アリシアと出会う前のゼーアであれば苦戦していたかもしれない。
 しかし、今の彼はトロールファイターと相対したことで、ビッグラットくらいでは怯むことも、恐怖を感じることもない。

『ヂュリュララララアアアアアアアアァァアアァァッ!!』
「遅いんだよ!」

 アリシアのオールアップが掛かっている――わけではない。
 今のゼーアは純粋な自らの実力でビッグラットと渡り合っている。
 そして、ビッグラットの動きを完璧に見切り、一瞬の隙をついて大剣を振り上げた。

「終わりだ、ネズミ野郎!」
『ヂュリュララララ――ラバッ!?』

 宣言通り、ゼーアはビッグラットの主を一撃で叩き切って見せた。
 すぐにケイナの援護に移ろうと踵を返したが、そこではすでに戦闘が終わっていた。

「……まあ、アリシアが援護していれば当然か」

 アリシアとケイナが笑顔で手を振っており、それを見てゼーアは軽く肩を竦めて見せたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...