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最強剣士
ダンジョン・七階層③
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アルの大声に反応できたのは、彼女だったからだろう。
「ク、クルル様!」
「きゃあっ!」
リリーナは恐怖で顔を青ざめていたクルルを反射的に両手で突き飛ばしていた。
「リリーナ!」
「ア、アースウォール!」
流れるように魔法を発動させたリリーナだったが、ブラックウルフの突進はアースウォールだけでは止めることができず、破壊しながら突っ込んでくる。
「──上出来だ!」
だが、突進の速度はどうしても落ちてしまう。
どうあがいても間に合わないと思われたアルの魔法は、リリーナの咄嗟の判断によって間一髪間に合った。
「──ファイアボルト!」
火と水と木の三属性による魔力融合から解き放たれたのは、炎の雷。
一本の筋となり、深紅の雷がブラックウルフ目掛けて光の速さで貫いた。
『グルオオオオアアアアッ!』
「二人とも、離れろ!」
すでに威圧から解放されているリリーナがクルルの腕を掴んで立たせると、クルルも自らの足で走り出す。
「今度はこちらからいくぞ──シルフブレイド!」
水と木の二属性の魔力融合から風の刃を五つ顕現させると、よろめくブラックウルフ目掛けて一気に解き放つ。
『……グルアアアアッ!』
「まだ、やるのかよ!」
大量に滴る血を意に介すことなく、ブラックウルフはシルフブレイドにブレスをぶつけて相殺してしまう。
爆煙が舞ったことで先ほどのような奇襲を警戒してアルは一度距離を取る。
視界の端にはリリーナとクルルを捉えており、二人が無事であることにホッとしていた。
「……しかし、しぶといな。ファイアボルトで致命傷は与えたと思ったんだが」
シルフブレイドは決めにいった魔法だった。
それなりに魔力を込めていたし、魔力融合の連発によってすでに枯渇の一歩手前といったところだ。
ここで攻撃の手を緩めれば、反撃の隙を与えてしまう。
どうするべきかを考えていると、爆煙の中から今回はゆっくりとブラックウルフが姿を現した。
「……考えている場合では、ないか!」
『……グルルルルゥゥ』
先ほどは弱点になり得る二人を狙っていたが、今回は標的をアルだけに絞っている。
胴体を貫かれ、焼け爛れているが、そんなものはどうでもいいという風に、深紅の眼が逸らされることはない。
アルは覚悟を決めた。
ここでの出し惜しみは、死に直結してしまう。
「……魔力もほとんどないんだ。それなら、好きなように暴れさせてもらおう!」
魔法発動の触媒にしていた斬鉄を逆手に持ち替え、アルはじりじりとブラックウルフへと近づいていく。
その様子を見たリリーナとクルルは驚愕に震え、声を出そうと試みたが――
(こ、声が、出ない!?)
(どうして……体が、震えているの!?)
二人はブラックウルフの威圧によって、死を目前にした恐怖によって、体の自由が利かなくなっていた。
声をあげればブラックウルフが襲い掛かってくるかもしれないという深層の思いが、声を出させないようにしている。
だが、これはアルにとって好都合だった。
誰かを守りながらの戦いは集中力を削られてしまう。さらに言えば、全力を出すことができなくなる。
一対一であれば何物も気にすることなく、全力を持って戦うことができるのだ。
「……来いよ、犬っころ。こいつの斬れ味、確かめてみるか?」
『グルアアアアァァッ!』
威圧を放ちながら地面を蹴るブラックウルフ。
傷口からは血が溢れ出すが、まるで気にする様子はない。
それどころか、体を揺らして血をアルへと浴びせて視界を奪おうとすらしている。
「瞬歩」
『グラアッ!?』
「まずは左脚――ん?」
ブラックウルフの噛み付きを回避すると同時に、すれ違いざまの一刀を浴びせる。
刀身は確かに左脚を捉えたのだが、手に伝わってきた感触は肉や骨を断つ時の手応えとは異なっていた。
『……グルルルルゥゥ』
「……なるほど、体毛のせいで刀身が届かなかったか」
『ガルアアアアッ!』
手に伝わってきた手応えは全て、太く柔らかい体毛を数本斬っただけの感触。
斬鉄による攻撃が届かないと理解したブラックウルフは一気呵成に攻め立ててきた。
血を浴びせ、噛み付き、鋭い爪を何度も振り抜き、その間断にはブレスを吐き出す。
マリノワーナ流の全てを回避に注ぎ何とか薄皮一枚を切らせるに止めているが、結局のところジリ貧であることに変わりはない。
策はあるが、戦いの合間に準備を施すことができるかどうか。
「だが、やるしか、ないか!」
『ガルオオオオッ!』
「弧閃!」
マリノワーナ流最速の一撃をすれ違いざまに胴体へ叩き込む。
ファイアボルトによって傷つけられた箇所を狙った一撃は、わずかながらブラックウルフの動きを鈍らせることに成功する。
アルはそのまま畳みかける――ことはせず、距離を取ってアイテムボックスからとある物を取り出した。
「この場で――剣を作り出す!」
斬鉄では刀身が短すぎる。
ならばどうするか――作り出せばいいのだ、刀身の長い新たな剣を。
アルは大量に確保してあるゴーストナイトの素材に金属性を作用させ、ブラックウルフに届く剣を作り始めた。
「ク、クルル様!」
「きゃあっ!」
リリーナは恐怖で顔を青ざめていたクルルを反射的に両手で突き飛ばしていた。
「リリーナ!」
「ア、アースウォール!」
流れるように魔法を発動させたリリーナだったが、ブラックウルフの突進はアースウォールだけでは止めることができず、破壊しながら突っ込んでくる。
「──上出来だ!」
だが、突進の速度はどうしても落ちてしまう。
どうあがいても間に合わないと思われたアルの魔法は、リリーナの咄嗟の判断によって間一髪間に合った。
「──ファイアボルト!」
火と水と木の三属性による魔力融合から解き放たれたのは、炎の雷。
一本の筋となり、深紅の雷がブラックウルフ目掛けて光の速さで貫いた。
『グルオオオオアアアアッ!』
「二人とも、離れろ!」
すでに威圧から解放されているリリーナがクルルの腕を掴んで立たせると、クルルも自らの足で走り出す。
「今度はこちらからいくぞ──シルフブレイド!」
水と木の二属性の魔力融合から風の刃を五つ顕現させると、よろめくブラックウルフ目掛けて一気に解き放つ。
『……グルアアアアッ!』
「まだ、やるのかよ!」
大量に滴る血を意に介すことなく、ブラックウルフはシルフブレイドにブレスをぶつけて相殺してしまう。
爆煙が舞ったことで先ほどのような奇襲を警戒してアルは一度距離を取る。
視界の端にはリリーナとクルルを捉えており、二人が無事であることにホッとしていた。
「……しかし、しぶといな。ファイアボルトで致命傷は与えたと思ったんだが」
シルフブレイドは決めにいった魔法だった。
それなりに魔力を込めていたし、魔力融合の連発によってすでに枯渇の一歩手前といったところだ。
ここで攻撃の手を緩めれば、反撃の隙を与えてしまう。
どうするべきかを考えていると、爆煙の中から今回はゆっくりとブラックウルフが姿を現した。
「……考えている場合では、ないか!」
『……グルルルルゥゥ』
先ほどは弱点になり得る二人を狙っていたが、今回は標的をアルだけに絞っている。
胴体を貫かれ、焼け爛れているが、そんなものはどうでもいいという風に、深紅の眼が逸らされることはない。
アルは覚悟を決めた。
ここでの出し惜しみは、死に直結してしまう。
「……魔力もほとんどないんだ。それなら、好きなように暴れさせてもらおう!」
魔法発動の触媒にしていた斬鉄を逆手に持ち替え、アルはじりじりとブラックウルフへと近づいていく。
その様子を見たリリーナとクルルは驚愕に震え、声を出そうと試みたが――
(こ、声が、出ない!?)
(どうして……体が、震えているの!?)
二人はブラックウルフの威圧によって、死を目前にした恐怖によって、体の自由が利かなくなっていた。
声をあげればブラックウルフが襲い掛かってくるかもしれないという深層の思いが、声を出させないようにしている。
だが、これはアルにとって好都合だった。
誰かを守りながらの戦いは集中力を削られてしまう。さらに言えば、全力を出すことができなくなる。
一対一であれば何物も気にすることなく、全力を持って戦うことができるのだ。
「……来いよ、犬っころ。こいつの斬れ味、確かめてみるか?」
『グルアアアアァァッ!』
威圧を放ちながら地面を蹴るブラックウルフ。
傷口からは血が溢れ出すが、まるで気にする様子はない。
それどころか、体を揺らして血をアルへと浴びせて視界を奪おうとすらしている。
「瞬歩」
『グラアッ!?』
「まずは左脚――ん?」
ブラックウルフの噛み付きを回避すると同時に、すれ違いざまの一刀を浴びせる。
刀身は確かに左脚を捉えたのだが、手に伝わってきた感触は肉や骨を断つ時の手応えとは異なっていた。
『……グルルルルゥゥ』
「……なるほど、体毛のせいで刀身が届かなかったか」
『ガルアアアアッ!』
手に伝わってきた手応えは全て、太く柔らかい体毛を数本斬っただけの感触。
斬鉄による攻撃が届かないと理解したブラックウルフは一気呵成に攻め立ててきた。
血を浴びせ、噛み付き、鋭い爪を何度も振り抜き、その間断にはブレスを吐き出す。
マリノワーナ流の全てを回避に注ぎ何とか薄皮一枚を切らせるに止めているが、結局のところジリ貧であることに変わりはない。
策はあるが、戦いの合間に準備を施すことができるかどうか。
「だが、やるしか、ないか!」
『ガルオオオオッ!』
「弧閃!」
マリノワーナ流最速の一撃をすれ違いざまに胴体へ叩き込む。
ファイアボルトによって傷つけられた箇所を狙った一撃は、わずかながらブラックウルフの動きを鈍らせることに成功する。
アルはそのまま畳みかける――ことはせず、距離を取ってアイテムボックスからとある物を取り出した。
「この場で――剣を作り出す!」
斬鉄では刀身が短すぎる。
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