最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎

文字の大きさ
162 / 361
少し早い夏休み

閑話:アミルダ・ヴォレスト

しおりを挟む
 ユージュラッド魔法学園は夏休みである。
 それでも教師陣は交代で学園へ顔を出し見回りをしたり、夏休み中にダンジョンへ潜る学生の支援を行っている。
 そんな中、アミルダも学園長室に足を運んでおり書類に目を通しては溜息をつきながら仕事をこなしていた。

「はああぁぁぁぁ、面倒臭いなぁ」

 自宅でダラダラと過ごしていたかったアミルダとしては仕事とはいえ夏休みに学園に訪れるのは気分としてはよろしくない。
 そして、その一端は一番気に掛けている人物がいないことも起因していた。

「まさか、アルが北方へ向かうなんて思ってもいなかったからなぁ」

 上級貴族の子弟なら避暑地で贅沢三昧をしながら休むのだろうが、アルは貴族でも下級貴族のノワール家であり、ノワール家の本宅はユージュラッドにある。
 きっとアルだけはユージュラッドに残りダンジョン攻略に勤しむだろうと考えていたのだが、その考えが外れてしまった格好だ。
 面白くもない書類仕事をこなしていたアミルダだったが、大きな足音を響かせて学園長室に近づいてくる人物がいた。
 その人物はノックをすることもなく乱暴に学園長室の扉を開けてしまう。

「……レオン? それにラミアンまで?」
「アミルダ、話がある」
「ちょっと時間を頂いてもいいかしらー?」

 二人の様子を瞬時に察したアミルダは冷汗を背中に掻きながら机を指差して作り笑いを浮かべる。

「しょ、書類仕事が溜まっててねー。今は時間がないんだー」
「ならば時間ができるまでここで待たしてもらおう」
「いやー、それはさすがに悪いよー。いつまで掛かるか分からないんだしー」
「大丈夫ですよ、アミルダちゃん。今日の私たちは非番ですからいつまでも、それも日付が変わるような夜中までも待てますからねー」
「……あは、あはは、そうですか」

 何をそこまで怒っているのか、アミルダには心当たりがある。彼は冷静になればとても頼りになる冒険者だが、一度苛立つと心を静めるまで時間が掛かってしまう。
 アルが北方へ向かうと聞いた時からアミルダの予定は崩れ、それに対して少しばかりいたずらをしてやりたいという気持ちから護衛にねじ込んだのだから。

「……本当にすみませんでした!」

 だから、素直に謝ることにした。
 いたずら心があったことは否定できず、ならば誠心誠意謝ることでどうにか許してもらおうと考えたのだ。

「……ほほう、どうやら謝るに値することをしているということだな?」
「……うふふ、アミルダちゃんが考えていた内容の何もかもを白状してもらいましょうか? それと、アルにアイテムボックスを渡した経緯とかも教えてもらえるとありがたいわ?」
「……は、はひ」

 全てお見通しか、と思いながらもアミルダは自身が考えていた夏休みの予定について口にすると、当然ながらレオンもラミアンも呆れた様子で見つめていた。

「……お前、それでも学園長か?」
「仰る通りです」
「これでアルが帰ってこなかったら、私はあなたを本気で殺しに掛かりますからね?」
「そ、その点はご安心を! ガバランは私の弟子で、本当に出来の良い冒険者だから!」
「「……弟子?」」

 そこからはアミルダの必死の弁解が始まった。特にガバランがどういった冒険者なのかが中心の弁解だ。
 Cランクの冒険者、魔法の腕はアミルダのお墨付きであり、対人との交渉もお手の物……お手の物。

「その態度で私たちの怒りを買っているのだが?」
「あ、あれは私のせいなのよ!」
「……あなた、自分の弟子の評判まで落としたいのかしら?」
「ほ、本当にすみませええええんっ!」

 そこで初めてガバランがどういった状態にあったのかを理解した二人は怒りを通り越して同情していた。アミルダのような魔法師の弟子にならなければもっと上にいけたのではないかとすら考えてしまう。

「「……不憫過ぎる」」
「ちょっと、二人とも酷くないですか!?」

 声を大にして否定しようとしたのだが全く聞く気を持たない二人にアミルダはすぐに諦めてしまった。
 だが、必死の弁解が功を奏したのか二人はガバランが優秀な冒険者であり、今回はアミルダのせいで普段の対応ができなかったのだと理解することができた。

「全く、面倒を掛けさせるな」
「本当にねぇ」
「……全く持ってその通りでございます」

 こうして三人の誤解は解けたのだった。
 だが、北方の都市であるノースエルリンドで起きている問題にアルたちが巻き込まれていることなど、この時は知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥風 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

処理中です...