最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎

文字の大きさ
179 / 361
少し早い夏休み

ノースエルリンドへの帰還③

しおりを挟む
 ──その後、領主と冒険者ギルドより氷雷山に入山規制が掛かっていた理由についての説明が民に対して行われた。
 当然ながら誰もが驚きを露わにしていたのだが、その原因となっていたオークジェネラルが討伐されたと発表がなされるとさらなる驚きと共に歓喜の声が響き渡った。
 その際、オークロードに関しては情報が伏せられている。
 進化した過程がはっきりしていないという理由もあるが、一番の理由は無駄な不安を民に与えたくないというのが領主と冒険者ギルド双方の思惑だった。

 すると、当然ながらそんな英雄を探そうと躍起になるのが商人たちである。
 自分たちが売り出す道具を使ってもらい宣伝してもらいたいと思ってのことだが、Bランク相当の魔獣を倒せる冒険者がノースエルリンドに滞在していないということで多くの商人が頭を抱えていた。

「本当によかったのですか?」
「えぇ。俺は有名になりたいわけじゃないですし、こうしてリーズレット商会とつながりを持てたので大満足です」

 話をしているのはアルとノースエルリンド支店の店長であるスレインだ。
 ラグロスはすでにノースエルリンドを発っており、出発の挨拶も兼ねてリーズレット商会を訪れていた。

「アル様に挨拶ができないことを会長も残念にしておられましたよ」
「そう思っていただけただけでもありがたいです」
「私共もトレントジャイアントの良質な素材を手に入れることができましたから、ありがたいことです」

 笑いながら話し合っている二人をよそに、ガバランとエルザはせっかくだからと手に入った臨時報酬で装備を整えたいと商品を見て回っている。
 静かに見ているガバランとは違い、声をあげながら動き回っているエルザは大量の商品をかごに放り込んでいた。

「上客になるんじゃないですか?」
「ありがたいことですが、一番の上客はアル様でしょうね」
「だといいんですが」

 現在、店内にはアルたちしかいない。ならば良いかと思いアルはちょっとした情報をスレインに伝えることにした。

「……ここしばらくは、冒険者ギルドに顔を出していた方がいいと思いますよ」
「……それは、よい素材がギルドに入るということですか?」
「……どういう扱いになるか分からないのではっきりとは言えませんが、もし売り出されたとなればそれなりのものが出るかと」
「……朝昼晩、お店の者を走らせましょう」

 そして、二人は無言のまましばらく見つめ合うと力強く握手を交わしたのだった。

 ガバランとエルザの買い物が終わり、とうとうノースエルリンドを発つ時がやってきた。
 門の前にやってくると、そこにはガッシュと一緒にギルドマスターのフレイラの姿が確認できる。
 アルたちは門の前で馬車を停めると、外に出て挨拶をした。

「ガッシュさん、ギルドマスター、お世話になりました」
「いや、世話になったのはこちらの方ですよ、アル殿」
「その通りです、アル君。大手を振って君たちを見送れないのは残念だが、私たちは本当に感謝しているんですからね」

 そこまで話を進めると、ふと気になったことをアルが口にする。

「そういえば、領主様に挨拶をしていなかったけどよかったんですかね? オークジェネラルのことは領主様も知っていたんでしょう?」

 その言葉にガッシュとフレイラは顔を見合わせるとお互いに思わずといった感じで笑っている。
 何事だろうと首を傾げていると、フレイラが右手を上げて口を開いた。

「領主は私よ」
「……えっ? でも、フレイラさんはギルドマスターですよね?」
「ギルドマスター兼ノースエルリンドの領主をやっているの」
「……ガッシュさん、マジですか?」
「がははははっ! マジでございますよ、アル殿!」

 全くの予想外にアルは口を開けたまま固まってしまった。
 そして、領主と冒険者ギルドからの意見が完全一致するわけだと納得もする。

「しかし、ギルドマスター……領主様と呼ぶべきですか?」
「フレイラでいいわよ。堅苦しいのは嫌いなの」
「……では、フレイラさんのような立場は特殊なのでは?」
「その通り。でも、あまりに辺境過ぎて元々ここを統治していた領主がいなくなっちゃったからね、私がやらざるを得なかったのよ」
「いなくなったって、それは国への反逆罪になるのでは? 勅命があってこの地を治めていたわけですし」

 詳しいことは分からないものの、領地を勝手に放り出すことが良いわけがないことくらい理解している。
 だが、ここの領主はその勝手が通じる相手だったようだ。

「遠縁とはいえ、ここを治めていたのが王族関係者だったのよ。だから、勝手に出て行ってただのギルドマスターだった私にお役目が回ってきたってわけ」
「……とんだとばっちりですね」
「まあ、そのおかげで好き勝手できているし、贅沢ではないけど民も十分に食べていけているからいいんだけどね」
「私たちはフレイラ様が領主になってくれて助かっているのです。前の領主は何というか、少々自分勝手なところがありましたから」
「あはは、いますよね、そういう人はどこにでも」

 アルが苦笑を浮かべると、ガッシュは少々意地悪い顔を浮かべた。

「別れの時に愚痴なんて失礼だったわね」
「いえ、愚痴というよりも驚きの方が強かったので。それに、領主の謎も解けましたからスッキリしてユージュラッドに戻れます」
「近くに寄ることがあれば顔を出してくださいね。歓迎しますから」
「分かりました、ありがとうございました!」

 ここでも硬い握手を二人と交わし、アルたちはノースエルリンドを後にした。
 ガッシュとフレイラは馬車が見えなくなるまでその場で見送り、そして感謝の気持ちをずっと胸に残していたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥風 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

処理中です...