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第1話:モノマネ士
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「――アリウス! お前は今日をもって勘当する!」
「……え? 今さら? いや、構わないけど」
父親であり、ガゼルヴィード騎士爵家の当主であるライアン・ガゼルヴィードからそのように言われた俺は、当たり前だろうと言わんばかりの態度でそう口にした。
「き、貴様、自分の立場が分かっていないのか!」
「いや、分かってるから今さらなのかって……まあ、いいや。それじゃあ俺は、いつ家を出ていけばいいんだ?」
「……今すぐにだ! さっさと出ていけ、この穀潰しが!!」
まだかまだかと思っていた言葉を受けて、俺は小さくため息をつきながらリビングから自室へと向かう。
全く、こっちとしては結構前から家を出る準備は終わっていたのに、何を思って勘当を先延ばしにしていたのかが分からない。迷惑極まりない話である。
タンスの奥にしまってあった出ていく用の荷物をまとめた鞄を取り出すと、毎日使っていた日用品を放り込んでから自室を出る。
この間、五分も掛かっていないだろう。
こんな短時間で準備が整うと思っていなかったのか、リビングでくつろいでいただろう親父が、カップを片手にこちらを見ながら固まっていた。
「それじゃあな、親父」
「……」
驚きすぎて何も言えなさそうな親父に一度だけ頭を下げると、俺はそのまま家を出た。
玄関から門まではある程度距離があるものの、呼び止める声は当然ながらない。
そのまま門を出て振り返った俺は、もう一度だけ頭を下げた。
「……まあ、今日までよく育ててくれたよな。満腹までご飯を食べた覚えはないし、新しい洋服を貰ったこともなかったけど」
振り返ってみると良い思いでは皆無で、むしろ嫌な思いでしか浮かんでこない。
それも仕方がなく、一家代々で騎士職の天職を授かってきたガゼルヴィード家の中で、俺は不遇職と呼ばれるモノマネ士の天職を授かってしまったからだ。
「天職なんて、誰が決めるんだよって話だよなぁ」
不遇職を授かったからなのかもしれないが、俺はこの国の制度に疑念を抱いている。
一〇歳になると教会で祝福を授かるのだが、それが天職とスキルを授かる儀式になっており、そこで俺はモノマネ士の天職を授かった。
誰かのマネしかできないとされるモノマネ士は不遇職とされており、この天職を授かった者は人生を詰んだとか、一生天職を隠して生きていけと言われることもあるらしい。
当然ながら、俺もその例に漏れず……というか、貴族家だったこともあり平民よりも厳しい視線に晒されてきた自信がある。
何せ俺が今日まで生きてこられたのは、擁護してくれた次男の兄さんとかわいい妹のおかげだったんだしな。
「……あぁ、だから今日だったのか」
よくよく考えると、今日は二人が魔獣狩りに出る日だったか。
俺を勘当するには絶好の日取りだったわけだ。
「それにしても、天職だけじゃなくてスキルまで使えないとはなぁ。いや、俺からすると使えないわけじゃないけど。モノマネ士とは相性が最悪って言われてるだけだし」
教会では天職だけではなくスキルも授かることができる。
天職が不遇であってもスキルが有用であれば将来に希望が持てる。それは逆の場合でも同じだ。
しかし、俺の場合はスキルも使いにくいというか、モノマネ士ではどうしようもないスキルだった。
物と物をくっつけるスキル――定着。
主に大工や建築家など、職人に当てはまる天職に授けられることが多いスキルだ。
モノマネ士の俺では逆立ちしても使いこなせない――そう思っていた。
「あっ! どうせだし、最後に少しだけ稼いでからナリゴサ村を出るか」
そう思い立った俺は、村の外れにある森へと向かった。
さて、森に到着した俺はおもむろに周囲を見渡していく。
そうすることで何が分かるのかと言うと――
「……見つけた、アクラ草とヒワリマの実だ」
緑色でギザギザした葉が特徴的なアクラ草に、黄色の硬い殻に覆われた腰ほどの高さにしか成長しない木に生るヒワリマの実を採集する。
これらは初級ポーションの材料となる素材だ。
迷うことなく素材を回収していくと、周囲に視線を向けてさらに採集を続ける。
間違った素材が混ざったりすると、当然ながら初級ポーションは出来上がらない。
冷遇されていたから知識を付けようと勉強していた――わけでもない。
これは、定着とは別のスキルによる効果だった。
「あれ? 珍しいな、森の入り口に魔獣がいるなんて」
採集の最中、視界の先に映ったのは二メートルに迫る大きさの、牛に似た茶色毛の魔獣――ブルホーンだ。
茂みの奥で大木をかじっており、時折額から伸びる一角をぶつけて樹皮を柔らかくしているみたいだ。
魔獣狩りは定期的に行っているはず。入り口にいるってことは、前回か前々回の魔獣狩りで討ち漏らした個体かもしれないな。
「ってことは……あいつらかぁ」
長男と三男の兄さんたちか、親父だな。
「はぁ。……仕方がない、狩っておくか」
俺は腰に差していたお下がりの剣を抜くと、地面を蹴りつけてブルホーン目掛けて駆け出した。
モノマネ士とは思えない速度で間合いを詰めると、剣を一閃する。
俺よりもはるかに巨大なブルホーンだったが、一撃で首を落とすことに成功した。
ブルホーンの肉は柔らかく、甘味もあって美味しいので長旅にはありがたい。
俺が荷物をまとめていた鞄を近づけると――ブルホーンの死体が吸い込まれるようにして中に入ってしまった。
いやはや、何度見ても驚かされるな、魔法鞄。
「ウエストポーチくらいのサイズなのに、実は俺の部屋と同じくらいの荷物が入るんだもんなぁ」
予想外の大物を仕留めることができた俺は、小銭稼ぎをするためにガゼルヴィード家の別宅へと足を向ける。
そこに親父はいないし、兄妹も母親もいない。
別宅にいるのは――引退した祖父母だ。
「……え? 今さら? いや、構わないけど」
父親であり、ガゼルヴィード騎士爵家の当主であるライアン・ガゼルヴィードからそのように言われた俺は、当たり前だろうと言わんばかりの態度でそう口にした。
「き、貴様、自分の立場が分かっていないのか!」
「いや、分かってるから今さらなのかって……まあ、いいや。それじゃあ俺は、いつ家を出ていけばいいんだ?」
「……今すぐにだ! さっさと出ていけ、この穀潰しが!!」
まだかまだかと思っていた言葉を受けて、俺は小さくため息をつきながらリビングから自室へと向かう。
全く、こっちとしては結構前から家を出る準備は終わっていたのに、何を思って勘当を先延ばしにしていたのかが分からない。迷惑極まりない話である。
タンスの奥にしまってあった出ていく用の荷物をまとめた鞄を取り出すと、毎日使っていた日用品を放り込んでから自室を出る。
この間、五分も掛かっていないだろう。
こんな短時間で準備が整うと思っていなかったのか、リビングでくつろいでいただろう親父が、カップを片手にこちらを見ながら固まっていた。
「それじゃあな、親父」
「……」
驚きすぎて何も言えなさそうな親父に一度だけ頭を下げると、俺はそのまま家を出た。
玄関から門まではある程度距離があるものの、呼び止める声は当然ながらない。
そのまま門を出て振り返った俺は、もう一度だけ頭を下げた。
「……まあ、今日までよく育ててくれたよな。満腹までご飯を食べた覚えはないし、新しい洋服を貰ったこともなかったけど」
振り返ってみると良い思いでは皆無で、むしろ嫌な思いでしか浮かんでこない。
それも仕方がなく、一家代々で騎士職の天職を授かってきたガゼルヴィード家の中で、俺は不遇職と呼ばれるモノマネ士の天職を授かってしまったからだ。
「天職なんて、誰が決めるんだよって話だよなぁ」
不遇職を授かったからなのかもしれないが、俺はこの国の制度に疑念を抱いている。
一〇歳になると教会で祝福を授かるのだが、それが天職とスキルを授かる儀式になっており、そこで俺はモノマネ士の天職を授かった。
誰かのマネしかできないとされるモノマネ士は不遇職とされており、この天職を授かった者は人生を詰んだとか、一生天職を隠して生きていけと言われることもあるらしい。
当然ながら、俺もその例に漏れず……というか、貴族家だったこともあり平民よりも厳しい視線に晒されてきた自信がある。
何せ俺が今日まで生きてこられたのは、擁護してくれた次男の兄さんとかわいい妹のおかげだったんだしな。
「……あぁ、だから今日だったのか」
よくよく考えると、今日は二人が魔獣狩りに出る日だったか。
俺を勘当するには絶好の日取りだったわけだ。
「それにしても、天職だけじゃなくてスキルまで使えないとはなぁ。いや、俺からすると使えないわけじゃないけど。モノマネ士とは相性が最悪って言われてるだけだし」
教会では天職だけではなくスキルも授かることができる。
天職が不遇であってもスキルが有用であれば将来に希望が持てる。それは逆の場合でも同じだ。
しかし、俺の場合はスキルも使いにくいというか、モノマネ士ではどうしようもないスキルだった。
物と物をくっつけるスキル――定着。
主に大工や建築家など、職人に当てはまる天職に授けられることが多いスキルだ。
モノマネ士の俺では逆立ちしても使いこなせない――そう思っていた。
「あっ! どうせだし、最後に少しだけ稼いでからナリゴサ村を出るか」
そう思い立った俺は、村の外れにある森へと向かった。
さて、森に到着した俺はおもむろに周囲を見渡していく。
そうすることで何が分かるのかと言うと――
「……見つけた、アクラ草とヒワリマの実だ」
緑色でギザギザした葉が特徴的なアクラ草に、黄色の硬い殻に覆われた腰ほどの高さにしか成長しない木に生るヒワリマの実を採集する。
これらは初級ポーションの材料となる素材だ。
迷うことなく素材を回収していくと、周囲に視線を向けてさらに採集を続ける。
間違った素材が混ざったりすると、当然ながら初級ポーションは出来上がらない。
冷遇されていたから知識を付けようと勉強していた――わけでもない。
これは、定着とは別のスキルによる効果だった。
「あれ? 珍しいな、森の入り口に魔獣がいるなんて」
採集の最中、視界の先に映ったのは二メートルに迫る大きさの、牛に似た茶色毛の魔獣――ブルホーンだ。
茂みの奥で大木をかじっており、時折額から伸びる一角をぶつけて樹皮を柔らかくしているみたいだ。
魔獣狩りは定期的に行っているはず。入り口にいるってことは、前回か前々回の魔獣狩りで討ち漏らした個体かもしれないな。
「ってことは……あいつらかぁ」
長男と三男の兄さんたちか、親父だな。
「はぁ。……仕方がない、狩っておくか」
俺は腰に差していたお下がりの剣を抜くと、地面を蹴りつけてブルホーン目掛けて駆け出した。
モノマネ士とは思えない速度で間合いを詰めると、剣を一閃する。
俺よりもはるかに巨大なブルホーンだったが、一撃で首を落とすことに成功した。
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俺が荷物をまとめていた鞄を近づけると――ブルホーンの死体が吸い込まれるようにして中に入ってしまった。
いやはや、何度見ても驚かされるな、魔法鞄。
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予想外の大物を仕留めることができた俺は、小銭稼ぎをするためにガゼルヴィード家の別宅へと足を向ける。
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