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第一章:役立たずから英雄へ
閑話:アルスラーダ帝国①
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ライブラッド王国との小競り合いが終結した翌日、皇帝であるライネル・アルスラーダは玉座に座り窓の外を眺めていた。
「……これで、役立たずの処分は終わったか」
消すだけならいつでも、どのような方法でもあった。
しかし、第四皇子であるリッツの存在は生まれた時点で国民に知らされており、役立たずのスキルを与えられた事も知られている。
そんな役立たずが突如として姿を消してしまっては、皇族は身内ですら殺してしまうのかと変な噂が立ちかねない。
実際はその通りなのだが、なるべく正攻法でリッツを処分する方法をと考えた結果が、戦争である。
戦争の理由はどのようなものでも良かった。
ライブラッド王国から侵攻する事はなくても、アルスラーダ帝国から侵攻する事はよくあったからだ。
「国土拡大を目指す」
たった一言で、戦争は始まってしまった。
そして、その戦争にリッツを送り出した。
結果、リッツは戦場で消息を絶ち、アルスラーダ帝国としては敗戦の結果になってしまったものの、ライネルからすれば十分な結果だと言えた。
しかし、リッツは死んではいなかった。
ライブラッド王国から、リッツを捕虜にしていると書簡が届き、それには捕虜交換を申し出る一文も添えられていた。
「却下だ」
今回も、そのたった一言でリッツの運命は決してしまった。
だが、この一言がリッツにとっても、アルスラーダ帝国にとっても、大きな運命の決断になっているとは誰ひとりとして気づくことはできなかった。
◆◆◆◆
――それから一年が経ったある日。
ライネルは珍しい報告を受けて、大臣に問い直していた。
「作物が不作、だと?」
「はい。どうやら、去年の戦争で人手を取られた農民たちからの報告で、今年の収穫量は例年の八割程度になるだろうとの事です」
「命の危険に晒されて、嘘の報告をしているのではないか?」
「わたくしもそう思い部下を派遣したのですが、どうやら本当のようなのです」
ここ十年以上は豊作に恵まれていたアルスラーダ帝国にとって、一度の不作が国を脅かすという事はありえない。
しかし、これが続いてしまえばそうも言ってはいられなくなる。
「わかった。今年の税に関しては、戦争に徴収された農民に限り八割減とし、それ以外の農民からは通常通りの税を取れ。ただし、来年に関しては全ての農民が通常通りの税を取ると伝えろ」
「かしこまりました」
大臣が王の間から立ち去ると、隣に座っていた皇后のリリアナ・アルスラーダが口を開いた。
「農民に慈悲の心など、必要あったのですか?」
「今回だけだ。役立たずを処分するために、半ば無理やり徴収したのだからな。不満を溜めて暴徒になってしまっては、元も子もない」
「全く。役立たずのくせに、死んでまで迷惑を掛けるのですね」
忌々し気にそう口にしたリリアナは、煌びやか扇を広げて口元を隠す。
下卑た笑みでも浮かべているのだろうと想像したライネルは、今後の事に思考を巡らせた。
(ラグルス、レンネル、ロベルトの実力も上がってきている。リーネもそろそろ戦場に出しても良い頃合いか。レイリアは……あいつはまだダメか。役立たずと関わっていたから、このざまだ)
レイリアはリッツが消息を絶ったと聞いた時、人目を気にする事なくその場で泣き崩れてしまった。
あの時から一年が経過した今でも、ふさぎ込んでしまっている。
そこへ捕虜交換を断った事まで知られれば、一生立ち直る事ができなくなるはずだ。
(断った事を伝えなかったのは正解だったか。しかし、本当に面倒を掛けさせてくれるな、役立たずめ)
全てがリッツのせいだと脳内で変換され、さらに先の未来へと思考は移っていく。
(不作であるならば仕方がない。来年か、再来年には大量の食糧を確保し、ライブラッド王国へ宣戦布告し、攻め落とす。そこからはアルスラーダ帝国の独壇場となるだろう)
いまだかつて、誰も成し得たことのない大陸統一。
それをライネルは目論んでいた。
(性悪なリリアナを皇后に迎えたのも、このためよ。マリーは期待外れであったが、役立たずと同じですでに処分は完了している。これからはアルスラーダ帝国の、我の時代よ!)
不敵な笑みを浮かべながら、ライネルは窓からどんよりとした曇り空を眺めるのだった。
「……これで、役立たずの処分は終わったか」
消すだけならいつでも、どのような方法でもあった。
しかし、第四皇子であるリッツの存在は生まれた時点で国民に知らされており、役立たずのスキルを与えられた事も知られている。
そんな役立たずが突如として姿を消してしまっては、皇族は身内ですら殺してしまうのかと変な噂が立ちかねない。
実際はその通りなのだが、なるべく正攻法でリッツを処分する方法をと考えた結果が、戦争である。
戦争の理由はどのようなものでも良かった。
ライブラッド王国から侵攻する事はなくても、アルスラーダ帝国から侵攻する事はよくあったからだ。
「国土拡大を目指す」
たった一言で、戦争は始まってしまった。
そして、その戦争にリッツを送り出した。
結果、リッツは戦場で消息を絶ち、アルスラーダ帝国としては敗戦の結果になってしまったものの、ライネルからすれば十分な結果だと言えた。
しかし、リッツは死んではいなかった。
ライブラッド王国から、リッツを捕虜にしていると書簡が届き、それには捕虜交換を申し出る一文も添えられていた。
「却下だ」
今回も、そのたった一言でリッツの運命は決してしまった。
だが、この一言がリッツにとっても、アルスラーダ帝国にとっても、大きな運命の決断になっているとは誰ひとりとして気づくことはできなかった。
◆◆◆◆
――それから一年が経ったある日。
ライネルは珍しい報告を受けて、大臣に問い直していた。
「作物が不作、だと?」
「はい。どうやら、去年の戦争で人手を取られた農民たちからの報告で、今年の収穫量は例年の八割程度になるだろうとの事です」
「命の危険に晒されて、嘘の報告をしているのではないか?」
「わたくしもそう思い部下を派遣したのですが、どうやら本当のようなのです」
ここ十年以上は豊作に恵まれていたアルスラーダ帝国にとって、一度の不作が国を脅かすという事はありえない。
しかし、これが続いてしまえばそうも言ってはいられなくなる。
「わかった。今年の税に関しては、戦争に徴収された農民に限り八割減とし、それ以外の農民からは通常通りの税を取れ。ただし、来年に関しては全ての農民が通常通りの税を取ると伝えろ」
「かしこまりました」
大臣が王の間から立ち去ると、隣に座っていた皇后のリリアナ・アルスラーダが口を開いた。
「農民に慈悲の心など、必要あったのですか?」
「今回だけだ。役立たずを処分するために、半ば無理やり徴収したのだからな。不満を溜めて暴徒になってしまっては、元も子もない」
「全く。役立たずのくせに、死んでまで迷惑を掛けるのですね」
忌々し気にそう口にしたリリアナは、煌びやか扇を広げて口元を隠す。
下卑た笑みでも浮かべているのだろうと想像したライネルは、今後の事に思考を巡らせた。
(ラグルス、レンネル、ロベルトの実力も上がってきている。リーネもそろそろ戦場に出しても良い頃合いか。レイリアは……あいつはまだダメか。役立たずと関わっていたから、このざまだ)
レイリアはリッツが消息を絶ったと聞いた時、人目を気にする事なくその場で泣き崩れてしまった。
あの時から一年が経過した今でも、ふさぎ込んでしまっている。
そこへ捕虜交換を断った事まで知られれば、一生立ち直る事ができなくなるはずだ。
(断った事を伝えなかったのは正解だったか。しかし、本当に面倒を掛けさせてくれるな、役立たずめ)
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それをライネルは目論んでいた。
(性悪なリリアナを皇后に迎えたのも、このためよ。マリーは期待外れであったが、役立たずと同じですでに処分は完了している。これからはアルスラーダ帝国の、我の時代よ!)
不敵な笑みを浮かべながら、ライネルは窓からどんよりとした曇り空を眺めるのだった。
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