英雄はその後、教師になる ~魔王よりも子供たちの方が強敵でした~

渡琉兎

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第62話:リンカーへの報告

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 自警団本部に入ると、そこではリンカーや自警団員たちがこれからどうするかを話し合っていた。

「やあ、リンカー」
「おう! 来てくれたか、マギスの旦那! ……っと、ニアはどうしたんだ?」

 マギスと一緒にニアも入ってきたので、リンカーは首を傾げてしまう。

「あの、差し入れを作ってきました。どうか皆さんで召し上がってください」

 ニアがそう口にすると、自警団員たちから嬉しそうな声があがった。

「それは助かる! よーし、お前ら! 一度休憩にするぞ!」
「「「「はい!」」」」

 自警団員たちがニアの方へ集まっていく中、マギスはリンカーの方へ歩いていく。

「それで、どうだったんだ?」
「魔獣に関しては今のところ問題ないかな」
「今のところは……か」

 マギスの言い方が気になったリンカーは『今のところ』という部分を繰り返し口にしてみた。
 するとマギスも一つ頷き、今後の警戒すべき点についてを説明した。

「しばらくしたら魔獣の縄張り争いが始まるはずだ。そうなると、アクシアも巻き込まれる可能性が高いと思う」
「となると、魔獣だけじゃなく、俺たちもしっかりと縄張りを主張しなけりゃならねぇってことだな」
「その通り。だから、どんな小さなことでもいいから森に変化があれば警戒してほしいかな」
「了解だ、みんなに共有しておこう」

 リンカーだけは休憩を挟まず、マギスと話し合いを続けていく。
 すると、そこは差し入れを持ったニアが近づいてきた。

「リンカーさんもどうぞ。片手で食べられるようにしているので、話し合いをしながらでも食べられますよ」
「おう、そうか? んじゃまあ、いただくか。ありがとな」

 ニアから差し入れを受け取ったリンカーが頬張るのを見届けたニアは、もう片方の手に持っていた差し入れをマギスに差し出した。

「マギスさんもどうぞ」
「あれ? 僕もいいのかい?」
「森に行っていたのでしょう? お腹、空いていませんか?」

 そう問われたマギスは、思いのほかお腹が空いていることに気がついた。

「……確かにそうだね。それじゃあ、いただこうかな」
「はい、どうぞ」

 受け取った差し入れをマギスが頬張ると、ニアはドキドキしながら彼の感想を待つ。

「……ん……ものすごく美味しいよ、ニア」
「ほ、本当ですか!」
「あぁ、本当だよ。これならもう一つ、二つはぺろりと食べられそうだ」
「うふふ、よかったです」

 マギスが誉め言葉を伝えると、ニアは満面の笑みを浮かべながら思わず言葉をこぼす。
 その様子を見ていたリンカーは何かを察し、ニヤリと笑いながら口を開いた。

「助かったぜ、マギス! あとはこっちでやっておくから、お前はニアと一緒にいてやれ」
「ちょっと、リンカーさん!?」
「分かったよ、リンカー。行こうか、ニア」
「えぇっ!? あの、その、マギスさん!?」

 マギスは単純に報告が終わったから出ていこうとしただけなのだが、それが完全にリンカーの思惑にはまってしまった。
 ニヤニヤしながら手を振るリンカーを見て首を傾げるマギスだったが、ニアだけはあたふたしながら自警団本部をあとにした。
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