門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~

渡琉兎

文字の大きさ
7 / 107
第一章:不当解雇

第6話:港町アクアラインズ

しおりを挟む
 ジラギースを出発してから三日が経過した。
 寄り道する事なく、街道を真っすぐに進んでいる。すでに目的地は決まっているからだ。
 道中ではデンとの会話を楽しみながら、時折襲ってくる魔獣を一刀で仕留めながら進んでいく。

「もうそろそろか。楽しみだな!」
『まあ、お主が生きやすい国であればだがな』
「デンはまた、そうやって卑屈になる」
『……それをお主に言われたくはないがな』

 なんだかため息をつかれたように感じたが、気のせいだろうか。

『それで、今はどこに向かっておるんだったか?』
「最初に言っただろう。ジーラギ国を出るとなれば、向かう場所は一つ――港町アクアラインズだよ!」

 ジーラギ国は島国である。
 故に周囲を海に囲まれているのだが、陸と海の境目がほとんど断崖絶壁に囲まれている。
 その中で、唯一人里として整備することができた場所があり、そこにできたのがアクアラインズなのだ。

「ジーラギ国は内にこもる国民性だから船はそこまで出ていないけど、他国に向かうならそこしかない」
『出国する事はできそうなのか?』
「少ないだけで、ちゃんと船はあるんだよ。……まあ、外の国からやって来た商船くらいだけどな」

 最小限の輸入や輸出の管理をしているだけで、それ以外の理由での入国は許されていない。
 どうしてそこまでして内にこもり、内情を隠そうとするのかは俺にはわからないが、これも王様の方針なんだろう。
 ……そういえば、ジーラギ国の王様って、どんな人なんだろう。
 王都ジラギースで20年も門番として勤めていたけど、一度も見かけた事がないかも。
 それもこれも、統括長のせいなんだけどな。

「俺だって、魔獣討伐以外の仕事をしてみたかったよ」

 王様が民の前に姿を現す行事の際は、ジラギース内の警備だけではなく、外の警備も当然強化される。
 俺はもっぱら外の警備だったので、その姿を見た事がなかったのだ。

『お主のスキルを卑下するような王様だ。無理に姿を見る必要はないだろう』
「……まあ、それもそうか。おっ! ようやく見えてきたな、アクアラインズ!」

 俺は森を進み、やや上り坂になっていた道を抜けた先で、アクアラインズの街並みを見下ろしていた。
 パッと見て印象に残るのは、色とりどりの屋根が日の光を浴びて輝いている光景だ。
 赤や青や黄、これら以外の色の屋根もあって、遠目からでも視覚的な楽しみがある。
 そして、その先に広がるのはどこまでも広がる広大な大海原。
 色とりどりの屋根も美しかったが、日の光が水面に反射するその光景は、何ものにも負けない美しさと輝きを放っていた。

「……すげぇ……これが、海か!」
『レインズは海を見た事がなかったのか?』
「あぁ。生まれも育ちもジラギースだったからな。まあ、親の影響で外に出たいって気持ちはずっと持っていたけど、門番の仕事も意外と忙しかったんだよ」

 仕事を押し付けられていたってのが、正しい表現なんだけど。

「……なあ、デン」
『どうしたのだ、改まって?』

 俺はジーラギ国を出る。この決断に変わりはない。
 だが、それは俺の従魔になっている――なってしまったデンにも当てはまる事だ。

「お前は、ジーラギ国を、故郷を出る事に不満はないのか?」
『我がか?』
「あぁ。お前は俺の従魔だけど、あれは不可抗力で起きた事だ。もし、お前がここを離れたくないなら、俺は従魔契約を解除する事もやぶさかでは――」
『何をバカな事を』

 デンは、俺の言葉を最後まで聞く事なく、そんな言葉を口にした。

『我はお主に負け、そしてこの身を委ねたのだ。故に、我の意思など考える必要はない。我のいる場所は、お主のいる場所だ』
「いや、だからあれは不可抗力だって言っただろ?」
『であるならば、我はここに特別な愛着など持ってはいない。これでいいのか?』

 ……まあ、デンがそう言うなら、いいのかな。

「ありがとな、デン」
『ふん。礼を言われるような事はしておらんわ』

 なんとなく、デンが照れているように感じて俺は笑みを浮かべる。
 デンとの会話で気分も晴れやかとなり、俺は高台から一気に駆け下りていく。
 ジラギースに比べると小さな都市ではあるが、その活気は負けてはいない。さすがは港町という事だろうか。
 荷を運ぶ人たちの声が響き渡り、その近くで料理の屋台を営んでいる店主の声も交ざっていく。
 それが門の外にまで聞こえているのだから、中に入ったらどれだけの活気が待っているのだろうか。
 俺は楽しみになりながら門番に声を掛ける。

「入町の理由は?」
「船に乗って、国を出ます」
「何? 国を出るだと?」

 そりゃあ、怪訝な表情を浮かべますよね。
 そこで、俺は身分証代わりにしていた兵士証を取り出し、ジラギースで有名になってしまった言葉を口にする。

「魔獣キラーの元門番です。この度、解雇になりまして」
「魔獣キラー? ……あぁ、お前がそうか」
「ははっ! 解雇とは、正しい判断だろうに。それで国を出るとか、やっぱりお前は卑怯者だな!」

 初対面の人間に対してずいぶんな言いようだなと思いながらも、門番は俺の入町を許可してくれた。
 こいつらからすると、魔獣キラーという卑怯者が国からいなくなるわけだから入町を断る理由はない。
 下卑た笑みをこちらに向けてくる門番の横を抜け、そのままアクアラインズへと足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...